第18話 メイド
私の目の前には、私の付き添いの使用人でありながら、この場所のメイド長をしている。カテナ・アルザスティを見る。
カテナ・アルザスティの手には銀色に輝く刃を持ち、私の方を見ている。
「何で、分かっていたんですか?」
「さぁ、けどあなたが私の付き添いの使用人として現れた頃からです」
「となると、最初からでしょうか?」
「いいえ、最初からではありません。二度目からです」
そう一度目、最初はあなたは私たちを部屋に案内した時は、そのような素振りはなかった。だけど、二度目からは確実に違和感と意図的な物を感じていた。
「殺気は隠していたはずですけど………」
「職業柄、人から狙われるのは普通にありましてね」
生前、武器商人をしていれば嫌という程の人たちから暗殺や謀殺など仕掛けられる。米国にいた時は、別の意味で襲われていたけど、あの時は未だに私自身理由が分からない。
だが、そのためか、人から『殺す』と言う『意思』は感じる。
この意思は、時に長い年月をかけ『信用』と言う形になるから私は生前の経験上が学習している。
「ですが、驚いたことは一つだけありますよ」
「なんですか?」
「私をこの二日と言う短期間で信用させるのは我が身ながら驚きました」
「!?」
そう、彼女は殺気を見せずとも、どこか信用してもらいたいという気持ちが感じられた。
だからこそ、私はそれに答えていると、あっという間に彼女の『信用』に嵌っていました。生前、例え女性であろうともあまり信用してはいなかったが、カテナメイド長は一味違かった。
「馬鹿にしているのですか?」
「いいえ、誇っていいと思います。それがあなたの職務と言うのならなおさら」
「………………」
「ですが、私はあなたの持っているそのナイフで刺されるわけにはいかないのです」
私はそう言いながらカテナメイド長が持っているナイフに向かって手を向ける。
「っ! なんで、そんなに平然としているんですか!」
「………………あなたは私の事をそう見えますか?」
「えっ?」
大きな声で叫ぶカテナメイド長に対して、私は静かな声で答える。
「こう見えても怖いんですよ? 刺されて、死ぬのもですし、痛みがずっと続くのも」
「…………」
「そして、あなたがそれを見て悲しむのも」
「!!」
その顔は、生前、最後に見た顔だからこそ、私はあなたのその顔が許せない。
私自身の罪の象徴で、私が最後に置いて来たものの顔だから。
「なぜ、あなたは職務を全うするというのに、そんな泣きそうな顔で私の事をみているのですか?」
「………………」
私は言う。だが、彼女は何も言わない。
「まるで、大事な思い出を捨てきれない人の顔だ」
「………………」
私は言う。それでもなお、彼女は何も言わない。
ただその悲しそうな顔を酷くする。
「何があったんです?」
「!!」
「相談、と言うには少し難しいですけど話してくれることはできますよね」
「な、なぜ、そんな事を貴方に言わなければならないのですか!?」
なぜ、なぜって、
「あなたが泣きそうだから」
「えっ?」
そう、カテナメイド長の瞳には涙があった。
かけていた眼鏡の奥底にある瞳から、一滴の雫が落ちていたんだ。
私はそれを見ていて我慢ならなかった。
「泣きそうな人を私は無視することはできない」
「な、なんで、私は泣いているんですか?」
「さぁ、分からない。だからこそ、私はその理由を聞きたいんだ」
「………………」
私がそう言うと、カテナメイド長は持っていたナイフを落とし、膝を床に着ける。
「わ、私は、私は、ただ助けたかったんです。部下を、あの子たちを、ただ、救いたかったんです」
「…………そうですか」
やっと吐き出してくれたカテナメイド長の本音に私は彼女の背中に触れ、彼女を見る。
「それがなぜ、私を殺そうと?」
「…………ある人から言われたのです。貴方を殺さなければ、お前の部下の中から一人、殺す、と」
「そうですか。では、誰に?」
「………………………………」
私がそう言うと、カテナメイド長は何も言わない。
いや、何も言えないのか。辺りをきょろきょろと見る彼女はまるで、何かに監視されているようでもあった。
「大丈夫です。誰にも言いません。だからこそ、話してください」
「っ! ………………私にそう言ったのは、エルバート宰相とナバル王でございます」
「…………」
やはりか。
私はそう心の中で答えると、脳裏にはあの宰相と王様の姿が映る。
「そうか、ならそれを私に託してくれないか?」
「え?」
さすがに私の一言にカテナメイド長からは不思議そうな声が湧く。
「それは私の罪だ。私の罪なら、私も背負う必要がある」
「というと?」
「逃げるようだけど、私はここから出る」
「えっ」
そうだ。カテナメイド長の答えを聞いて私自身、やっと目的の手順を決める。
「彼らが私を殺そうとするのでしょう? なら、私はここから逃げて一人で旅をした方がいいですよ」
「で、ですが、」
「元々、私の目的はこれですから」
「…………」
唖然としているカテナメイド長を見て、私は立ち上がると、私は彼女に対して手を差し伸べた。
「あなたの罪は、もうわたしの罪だから」
そう言うと、カテナメイド長は差し伸べた手を握った。
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