第17話 使用人とは

「ごちそうさまでした」


 私がそう言い、手を合わせる。

 食後の感謝の言葉を言い終えると、使用人は私に向かってこう言ってきた。


「では、矢代様。案内いたしますね」

「む、そうですか。本当に申し訳ないです」

「いいえ、仕事ですから」


 使用人がそう言うと、私は首に巻いていたナプキンを取り、口の周りを拭くと、適当に畳み、皿の右隣にへと置いた。


「では、そちらのおられる青木様に一緒に」

「おう、………って! もしかしてメイド長の!?」

「? そうだったのかい?」

「これは、自己紹介を遅れてしまいました。私、ここの城内メイド長をしております。カテナ・アルザスティと言うものです」

「あ、それはどうも」


 まさか、本当にメイド長だったとは。

 私はそう感心しながら、会釈をしどこに行くのか分からないまま、カテナメイド長へと付いて行く。


「それにしても青木様」

「えっ、何?」

「貴方のお付きのメイドは一体?」

「お付き?」


 えっ、どういうことなのだろうか?

 その話だと、クラスメイト一人一人に使用人が付くことになるのだが、となると、カテナメイド長さんは私のお付きの使用人と言うことになるのか。


「あぁ、もしかして、アズのことか?」

「えぇ、確か貴方のお付きの使用人だったはずですが。もしかして、アズシャリテに何か!?」

「いや、単に一人の方が気楽だから一人にさせて欲しいって言ったら、すぐに一人にさせてもらったから」

「………………そうですか」


 うん?

 すると、なぜかカテナメイド長は表情を暗くする。

 

「どうかしましたか?」

「あっ、いいえ。大丈夫です」

「はぁ」


 それにしても、カテナメイド長の顔ははっきりとしない。

 まるで影がかかったかのような、そのように私は感じた。

 だが、そのようなことは関係なく、隣に歩いている健太は気ままに話を続ける。


「にしても、矢代。お前! こんな美人さんが付き添いのメイドなんて、昨日、なんかあったんじゃないのか?」

「いいや、そう言うことはないよ」

「ちぇ、面白くねぇな。こんな美人さんと一緒に一夜、部屋にいるんだから何も起こるはずがねぇだろう」

「ないよ。僕は彼女を早く部屋に戻させたから」

「へぇ、そうなんだぁ」


 私との会話に、健太は楽しそうに笑う。

 この会話のどこに、笑う要素があるのだろうか? ここの求人雇用に関しての重要性に話の観点を合わせるべきなのでは?

 だが、このような会話はこの体の年代には許されるものだろうか。私自身、戦いと混乱の中に生きてきて、それ生き残るために私は経営に関してばかりに視点を与えなかったから、この体の世代に合うような話が思いつかない。


「…………本当に素晴らしいな」

「えっ?」

「いや、なにも」


 このようにしょうもないことに楽しそうに話して笑って生きる時代、か。

 そう考えると、私の時代は本当に生きにくいものだったな。笑う時は、戦争に勝つときで、無闇に笑うことができなかった。変な事で笑いでもすれば憲兵隊が飛んできて取り締まられ、縛られ、殴られる。

 だからこそ、こう言うものが素晴らしく、美しく見えた。

 私の欲張りと知りながら、もし、この体の世代がどのような時代だったのか話してみたい。どのような世界か見てみたい。

 何せ、健太のような男がこのように話、笑う世界だ。


「で? 本当になかったのか?」

「え?」


 私がそのようなことを考えていると、健太は話しかけてくる。


「一夜の営みだよ」

「…………」


 まだ言っていたのか。

 はぁ、と私は溜息をつきながら健太の方に向く。


「駄目だぞ」

「えっ」

「そう言うこと考えちゃ、相手は私たちをもてなす為にやっているんだよ? そのような邪のことを持たず、きちんと彼女らを休ませなければ、次の業務に支障をきたしますから。駄目ですよ」

「………………」


 あぁ、やってしまった。

 つい癖で、説教臭い事を言ってしまった。これじゃあ、確実におかしいことがばれるだろう。


「そうか、なら少し悪いことだよな」

「えっ?」

「となると昨日のことは、さすがに悪かったのかなぁ?」

「えっ、えっ?」

「あん? どうしたよ?」

「いやぁ、素直だなって」

「俺は元々、素直だってよ!」

「わっ!」


 健太がそう言いながら抱き着いてくると、私は驚いてしまい、態勢を崩してしまう。健太はそのあとにわしゃわしゃと私の頭をなで続ける。


「ちょ、ちょっと、やめてくれ!」

「はっはっはっ! 昨日までおかしいと思っていたけど、いつも踊りのお前で俺は嬉しいよ!」

「………………」


 健太はそう言うと、私は黙り込んでしまう。

 そう言えば、勝次も彼と同じく、素直であまり気にしない性格だったことを思い出す。


「矢代様、青木様、目的の場所に着きました」


 私たちは会話をしていると、カテナメイド長がそう言って目的の扉へと手を差し伸べる。


「ここは………」

「王の間でございます」

「王の、間」


 まさに言葉から分かるように、ここは昨日と同じ、あの王様と宰相たちがいる場所だった。


「ここは昨日と同じ場所ですか」

「はい、そうでございます」

「…………」


 そうか、私の質問にカテナメイド長はそう答えると、私は静かにその扉を見る。


「そう、ですか」

「あん? どうした矢代」

「い、いや、何も」


 健太は不思議そうな顔で、私の事を見てくる。


「なら、何ではいらないんだ?」

「少し、緊張して………」

「そうか、しょうがないよな」

「ははは、」


 私は乾いた笑い声を上げながら健太の事を見る。


「ふぅん、なら俺は先に行くからな」

「うん、私は少しここで休んでから行くよ」

「おう」


 健太が返事をし、王の間へと続く扉を開くとその中へと入っていた。

 そして、王の間の入り口へと残されたのは、二人。


「…………なぜ、貴方はそんな今から殺す相手に悲しそうな顔をしているんですか?」



「カテナ・アルザスティメイド長?」

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