第15話 朝

 アストライア様との話が終わり、目が覚めると既に日が出ており、窓辺から映る草木から日の光が漏れていた。


「…………」


 美しい。やはり、この場所は画になる。

 日が出ていようとも、出ていなくとも関係なく、ここの風景は本当に綺麗で美しいものだ。

 キャンバスが無くとも、カメラがあれば存分に美しい風景が見れると思ったのだが、その両方ともない。


「起きるか」

「おはようございます」

「!!?」


 未だに眠気がありながら、布団の中から出てベッドから降りると急に背後から声がかかる。

 心臓が飛び出るかと思った。

 そう思いながら、後ろを振り向くと昨日の使用人がそこにはおり、一切、身だしなみに乱れが無く、綺麗な見立で背後に立っていた。


「い、いつから?」

「そうですね、5時ぐらいには」

「あぁ~」


 私は、ベッドの隣に置かれている豪華絢爛な時計の針は、現在7時と言う数字に指していた。

 となると、二時間近く、そこで立っていたのだろうか?

 私でさえも、五時起きは普通だが、立っていたとなると更に早い時間にいたということになる。


「…………大変ですね」

「いえ、これも仕事ですので」

「そうですか」


 何というか、そう考えると福利厚生はどうなっているのでしょう。

 きちんとこの人たちに休みがあるのでしょうか? 生前、私の会社も十分の休みを取らせるようにして、我が家に雇っていた使用人は掃除程度にしていたが、福利厚生はきちんとしていた。

 だからこそ、この世界での雇用に関することは大丈夫だろうか?


「こちら、着替えになります」

「あ、ありがとうございます」


 使用人から、昨日、洗って貰った制服を貰うと、私は使用人の方を見る。


「何か?」


 使用人はなぜか不思議そうな顔で私の事を見てくるが、着替えるために早く出て貰いたい。


「…………?」


 黙って使用人の方を見ると、使用人は先ほどと同じく不思議そうな顔で見てくる。


「あのぉ」

「なんでしょうか?」

「着替えるので、部屋から出てくれませんか?」

「大丈夫です。貴方の着替えているところは誰にも言いませんし、見ませんのでお気になさらないでください」

「いえ、私が気にするんです」

「?」


 使用人に私は話すが、使用人は出ていこうとしない。

 まったく、この世界の使用人はどうなっているんだ、と思いながら使用人の人を言葉巧みに部屋から追い出す。


「分かりましたか? 私は恥ずかしいのです」

「分かりました。貴方が私に裸体を見られるのが恥ずかしいのであれば、私は無視してくれても宜しいです」

「いや、そうではなく」


 そうなってしまうと、昨日、あなたに私の裸体をみられてしまった時点で駄目だから。私が言いたいのは着替えを見られるのが恥ずかしいだけで、素肌がどうのこうのと言う話は違いますから。


「ではどういうことと?」

「…………着替えを見られるのが恥ずかしいので、出て行ってもらいませんか?」

「? どういうことですか?」

「あぁ、もう!! 早く出て言って貰いませんか!」

「? そういうことでしたら………」


 そう言うことですから、

 そう言われると、私の恥ずかしながらもあなたをここから出すための努力は一体何なのだろうか?

 私は一生懸命、追い出した使用人の言葉を噛みしめながら、渋々、部屋の中で着替えた。


「にしても本当に仕事が早いな」


 昨日、洗いに出した制服はまるで新品のように、戻ってきており、埃や汚れ、ましてや臭いさえも無かった。

 私の制服を渡したのは夜だったため、こんな一つ一つ綺麗な折り目が付いておりまさにアイロンをかけたような綺麗な折り目だった。だが、一夜で服が乾くなんてあるのだろうか。この汚れや臭いが無い制服は、一度水に浸して洗わなけれあできないと私は思う。


「そうなると、この世界にはそれほど文明が進んでいるのか?」


 文明進行的には、明治、いや、大正まで行くのだろうか?

 この折り目はアイロンの物だろうだが、炭か電気か、一体、どちらのアイロンで成したものなのだろうか? 私は興味が湧いた。

 コンコン、


「すみません。矢代様。もうそろそろよろしいでしょうか?」

「あ、すみません。着終わりましたから、もうそろそろ入ってもいいですよ」

「では失礼します」


 使用人の人がそう言いながら扉を開き入ってくる。

 入ってきた使用人はほぅ、と小さく言いながらも、私の事をじっと見る。


「な、なにか?」

「いいえ、よく似合っておりましたので少々、見とれてしまっておりました」

「そうですか………」


 使用人はジョークか、そのような事を言ってくるが私は何一つ動揺などは無かった。

 なぜなら、この制服も、一種のスーツを着ていると思えば、然程の物であった。


「あら、慌てないのですね」

「えぇ、大丈夫です。こういうのは慣れておりますから」

「…………先ほどと十分に雰囲気が違いますが」

「?」


 何か言っていただろうか。

 使用人が何か言っていたが私はそのようなことを聞いておらず、今日何をするのかを頭の中で考えていた。


「何か言いましたか?」

「………………いいえ、聞いていないのであれば別に良いです」

「?」

「では、案内しますね」

「は、はぁ」


 使用人は冷たく振り向くと、私は使用人に案内されるまま、私は彼女について言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る