作戦終了 二日目
陽も上り砂漠らしい暑さが襲う。
未だ数時間しか経っていないが、もう二日は経っている気がした。
状況はかなり落ち着き、運ばれて来た急患は殆ど安静状態となった。
幾度か諦めるしかない事態もあったが最善は尽くしたつもりではある。
人の死を目の前にする仕事であったとはいえ、最初の頃は何度も沈み込んだものだが「最早慣れたものだね」と次の支度をしつつ乾いた笑いを見せた。
「さぁ、二人も待ってる事だし急いで向かおうかな」
―自動二輪に跨り連絡橋を越え、街に入る。
普段から治安が良くないとは言え、ここまで荒れている事は無かった。
目に付く建物の多くが黒く焼け焦げ、崩れ未だに燻っている状態も見て取れた
「一切とまでは言わないけど、コレじゃあしばらくこの辺りは機能出来ないだろうな・・・。えぇと、一番広い廃墟を使わせて貰ってるって言ってたけども―」
入り組んだ道を伝えられた通りに進んで行くと、情報通りの建屋が見えてくる。
そう古くない廃れた教会で、ある程度人の気配が感じられる。
車両を少し隠れた所に停めて正面の少しだけ開いた大扉から中に入ると、寂れた堂内の長椅子で患者を手当をしていた三角窓のガスマスクを付けた人物が顔を上げる
「遅かったじゃないですか
「はいストップ、その呼び方は無しって言ったでしょ
彼の言葉を間髪入れず遮った。
「ま、ともかく状況はどんな感じだい?」
「そう悪くは無いって感じですよ。もう数日経ってますし、基本的に負傷者はしっかりした医療施設に搬送されてますから」
「んじゃここに居るのは、いつも通りほぼならず者って事か」
そんな話しをしながら点々と長椅子の上に横になっている患者達の様子を見ながら奥に向かうと、厳重に隔離された個室に辿り着いた。
「ここは懺悔室?上手い事使ったね」
「でしょう?中々の広さな上、既に仕切り壁が半壊してたものですからちょっと失礼して使いやすくさせて頂きました。中に
入ると手術室同然の整った部屋の中央、手術台横に丸窓のガスマスクを付けた人物が木製の椅子に座りカルテを眺めていた。
「遅くなってごめんよ、Светаただいま到着しましたっ」
「本当に遅かったじゃない、もうほとんど済んじゃいましたよ。ぱ」
「待て待て待て、その呼び方も無しだって何回言わせるのНася」
マスクで表情は分からないが、二人とも窓から覗く目元が悪戯っぽく笑っているのは分かる。
「さっきТоляから聞いたけども、こっちは割と済んでるんだって?」
Насяに問いかける
「そうね、そもそもここは救急治療所として仮設してるから病院みたく人を収容出来ないせいもある。しかもここに来る連中は皆してタフって言うか・・・」
Толяが口を挟む
「人間離れしてるって言い方が正しいかもしれないです。一昨日だって血を流しながら自分の片腕抱えて来た人もいて、その人腕付け直したら他の怪我の治療もそこそこに帰って行ったんですよね」
呆れた口ぶりでそう話した
「ふむ。しかし変だね?ここは勿論だけどもここに来る途中も、言われてたほど負傷者で溢れてた感じは無かった。まぁ日が経ってるってのもあるだろうけど、連絡が来たのは昨日だからそれだけじゃ無いでしょう?」
「それは多分、國の機関からの伝達だからでしょ。あっちの医療機関が溢れかえってるって話はそれとなく聞いてるし」
Насяがそう答えるとТоляが付け加える
「勿論こちら側も余剰患者は受け付ける、という連絡はしてるんですが・・・患者自身が拒否してるのでどうにもね」
”下層街区に居る医者”と言うと、やはり変なイメージがあるのだろう。
「そういうことだったかぁ、そうなるとどうしようも無いなぁ・・・。ちなみに此処に居る連中はどういう状態なんだい?」
「皆さん治療は済んでいて、麻酔抜きってところです。更には来そうも無いので今日一日様子を見て片付けようかと思っていたんです」
Толяが答えた。
「そっか。じゃあ向こうに戻るかなぁ、確かまだ台は空きがあったから入れれるだけ受け付ける様に伝えておくかね。二人とも一先ず無事で良かった、それじゃ後も頼むよ」
二人に別れを告げ、手術室を後にして教会を出た。メットを被り車両に乗ってエンジンをかけた時、中に居た二人が見送りに来た
「こっちが済んだら先に帰ってますから、無事帰ってきて下さいね」
「大丈夫よ。なんせ私たちのパパなんだからね」
Насяの言葉に肩を竦めて見せると、二人に向けて軽く手を振り廃教会を後にする。
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