第16話 伊藤春輔6 桂小五郎

○桂小五郎(木戸孝允)

 伊藤が、来原良蔵の義兄(年齢は来原が六歳年長だが)桂小五郎に出会ったのは、安政六年の事である。来原が江戸の赴く桂に、伊藤を紹介し、「この者を引き立ててやってくれ」

と紹介し、従者として同行するのである。

 桂小五郎は温厚な性格で、伊藤を従者というより弟のように可愛がり、引き立ていく。桂の元で伊藤は志士として成長し、政治家としての基礎を作る。この関係は、明治十年の桂の死まで続く。


 しかし、明治以降、特に四年の岩倉使節団の頃から両者の関係は微妙になっていく。この使節団では、桂(木戸孝允)と伊藤は共に副使であり同格であった。桂にとっては、伊藤はいつまでたっても弟分だったが、「仕事師」の伊藤は、健康上の問題から実年齢以上に心気衰えた桂に見切りをつけ、別の親分―薩摩人の大久保利通を師と仰ぐようになる。

 そのこともあって、桂と伊藤は、以前のような蜜月関係を失ってしまう。表面上は両者の関係は良好に見えたが、桂最晩年の明治十年一月十三日付書簡(鳥尾小弥太あて)で桂は、

「明治三年来、芳梅(伊藤)よりもしばしば反射棒を頂戴いたし、実に骨髄に徹し、恰も傷鳥の猟者に見ゆるが如し」

と、伊藤の「反射棒」(恩を仇で返すの意か?)で傷ついたと吐露するに至る。

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