第26話 王国で依頼を受注したらダンジョンへ

前書き


よろしくお願いいたします。




第26話 王国で依頼を受注したらダンジョンへ




真樹「だいぶ温かい気候になってきたね。」




翠「夏の道だからね。いつでも四季を味わえるのはこの土地ならではだね。」




春の道を通過した際の桜の花びらを取ってあげながら進んでいく。




咲桜里「思ってたより軽くて移動も楽だね!」




想里愛「これならリーフ王国に着くまで苦労しなくて済みそうですね♪」




真樹「お昼の食材が集まってきたね。新鮮な物ばかりだよ。」




獲れた芋は皮を剥いてジャガバターにしたり、煮物や吸い物の具として調理を済ませる。




翠「真樹、こっちにも入れて。」




真樹「任せてっ!」




採れたての野苺を紅茶に追加すれば香りがより豊かになっていく。


大粒な物は他の果物と一緒にデザートとして紙皿に乗せる。




想里愛「こちらは?」




真樹「これは芋娘といって芋とアイスを添えた逸品だよ。」




里乃愛「少しペロリと咲桜里ちゃんと食べたけど、芋も甘くて美味しかったよぉ♪」




あ、これは咲桜里だけお仕置きされるパターンだ・・・。


その後の成り行きを見守っていたが特に想里愛がお仕置きしに行く様子は無い・・・。


せっかくの旅だ、皆で楽しもうと言う事なのだろう。


彼女の懐の広さに一人で感動する僕であった。


あらかたの調理は済ませたので、火を起こして炊いたお米をよそって夏の道の休憩所に料理を並べる。




真樹「河原の水は煮沸してから、お米を炊いたから衛生面も万全だよ。」




翠「魔法ではできない事を平然とやってのける、さすが真樹だね。」




里乃愛「万年樹の地層を通った地下水だから、かなり濾過されてて綺麗だね♪」




真樹「細い川や滝の近くでも取ってるから、今回のお水は伏流水に近いのかもね。」




想里愛「真樹さん詳しい♪作ってもらった装備もあるし、頼もしいです♪」




褒められてにやつく僕。


昼食がより美味しくなる。


程良い木漏れ日が、熱い真夏に居る事を忘れさせてくれる。


心地良い風が歌うように、楽しく話す。




咲桜里「お兄ちゃん、王国へはあとどれくらいで着くの?」




真樹「そうだね、これから夏の道を抜けて道が整備されていない密林を抜けないといけないから、午後を少し回ったぐらいになるのかな。」




里乃愛「まばらに伐採した後や、冒険者達が通った跡が残ってるはずだから、そういう軌跡を辿るのが良いと思うよ。」




なるほど、勉強になるなあ。


食事を終え、片付け終えて夏の道を抜けていく。


昼なのに鬱蒼とした樹々が光を遮り視界が狭く感じる・・・。




想里愛「・・・。」




翠「うわー、なんか出てきそう・・・。」




皆翠のほうを見る。


心のどこかでそう思う部分があったのだろう。


どこからか遠くから動物の鳴き声のような音も聞こえてくる。


邪魔な草や枝を手甲や刀の峰で払いながら進む。


前方がまったく見えない程伸びている箇所もあり、横に切って薙ぐ。




里乃愛「火球で進行方向の草木を枯らしておいたほうが良いかな?」




真樹「大丈夫だよ、最近雨が降ってないから山火事になるかもしれないし、この刀を活躍させるよ。」




咲桜里「お兄ちゃん、この水良い香りするね♪」




真樹「ああ、虫除けも兼ねててね。こんな密林だと巣の近くや水のよどんだ池とかを通ると大量にいるだろうからね。」




最近の香水は人体には極力無害で有難い。


いろいろと自作するのも楽しいが、買えば時間を別の事に割けるので今回は購入した。




翠「ん・・・。」




聞き耳を立てると、どこかからか草木を掻き分けている音が聞こえる。


・・・後ろか!




里乃愛「探知した感じ、動物っぽいね。まっすぐに後ろからこっちに来てるよ。」




想里愛「あたし達の出番よ、咲桜里!」




咲桜里「お兄ちゃんの拵えた弓矢の出番だね!」




翠「先制しておこう。付与したから思い切り弓をしならせて、あの樹と岩の間に撃ってみて。」




翠にも敵が見えているのだろうか。


指示に従い姉妹が矢を放つ。


一瞬で視界の彼方へ矢が消えてから、遠くから短い悲鳴が聞こえる。




里乃愛「熊かな?鼻が利くんだろうね。風で匂いを辿られたのかも。」




咲桜里「あー・・・。」




想里愛「香水かな。」




真樹「虫除けにはなっても、熊除けにはならなかったみたいだね・・・。」




翠「毛皮や肉を獲るなら自宅に転送しておくよ。」




真樹「それは有難い。よろしく頼むよ。」




少し道を戻り、毛皮を回収し、血抜きや残った毛を焼き払い最低限の肉の下処理を済ませてから倉庫に転送した。




咲桜里「あっ!道が拓けてきたよ!」




翠「自然保護の為にあえて開拓していないみたいで、苦労したね。」




里乃愛「王国が見えてきたね♪」




密林を抜けたようだ。


周りには採集や採水に来た人たちが増え始める。


見渡しも良く光が差して通りやすい道だ。




想里愛「早く街道が整備されて欲しいですね。」




真樹「そうだね。整備されない理由には、物の輸送は転移魔法が主流になっていて、実際に移動させる必要がなくなっているのかもね。」




いつの間にか日が傾き始めている。


かなり密林を長く歩いたようだ。


橋を渡り流麗な川を見おろしつつ、王国へ入る。




門兵「待て、王国へは通行料が必要だ。」




500ツリーを人数分支払い、許可証をもらい入国する。


長期滞在の場合、多少安くなるようだ。




真樹「意外と控え目の料金で助かったよ。」




想里愛「そうですね、咲桜里の絵が高く売れたおかげだね♪」




咲桜里「わーい、お姉ちゃんにほめられた♪」




そうだ、咲桜里が愛理守ちゃんの為に自分の財産を売って儲けたお金なのだ。


復元魔法のおかげで咲桜里の分の絵は残っているから、お金だけ増えた形になる。




里乃愛「古風な建物がちらほら見えるね。」




翠「歴史のある国なのかな。あっこんな所に立札が。」




見れば万年樹が若樹の頃からすでに王制が存在していたという観光案内が貼られている。




真樹「まずは宿屋を決めて荷物を置きに行こうか。」




想里愛「じゃあ今日は一泊するんですね♪」




咲桜里「わーい、お泊りだあ♪」




日帰りばかりだと疲れるし、異国での宿泊は新鮮だ。




翠「あ、あの店賑やかだね。」




里乃愛「少し寄ってみよう?」




店頭には飲み薬や粒状の薬が配置され、元となった植物の葉や枝木に根が表面に貼ってある。


奥では植物から必要となる成分を抽出している様子が見える。


ここは薬屋のようだ。




真樹「リーフ王国の起源が薬師として生計を立てていた一族がこの地で立身したらしいよ。」




里乃愛「当時は争いも多かったからね・・・兵士に渡す回復薬やそれに盛っていた興奮剤も高く売れていたんだよ。」




想里愛「知らずに飲んでいたなんて可哀そう・・・。」




咲桜里「今は落ち着いてて良かったね!」




真樹「その通りだね、安全に旅ができるようになった先人達の努力に感謝しよう。」




翠「治癒薬と自然治癒力上昇剤を多めに購入しといたほうが良いよ。」




里乃愛「そうだね、王国から少し離れたら危ない場所もあるからね。」




想里愛「そうですね、何が起こるかわからないですから・・・。」




皆の言う通りだ。冒険に備えて多めに購入しておこう。


本当は薬も自分で調合できれば現地で採集して調合する、なんてこともできるのだが・・・。




咲桜里「お兄ちゃん、あっちの店も寄ってみよう!」




隣のほうを見ると薬師の座学用の書物が本棚に隙間無く並べられている。


この本草学はかなりの年季が入っているな・・・。




真樹「道中で見たことのある植物も載ってるね。」




白黒の写真で少しわかりにくいが、いくつか見かけたものがある。


この植物は鎮静効果か・・・。




店員「お客様、薬学に興味をお持ちですか?」




真樹「ええ、旅の中で調合できたら助かるなと・・・。」




店員「でしたら値は張りますが、当店の薬学書を購入すれば瞬時に薬学の知識と経験が脳内に記憶されますよ。」




翠「魔導書の技術を応用したのかな?」




里乃愛「真樹くん、せっかくだから購入してみれば?♪」




咲桜里「これで咲桜里が転んでも、お兄ちゃんが治してくれるね♪」




想里愛「おいくらですか~?」




姉妹がうまいこと値切ってくれて格安で全種類の薬学書を購入できた。


宿屋で食事の時や寝る前にでも読もうかな。




真樹「ごめんね、散財しちゃって。」




想里愛「そんなことないですよ!必要経費ですよ♪」




優しくねぎらいられつつ、宿屋探しを始める。


いろいろあるけどどこにしようかな。




咲桜里「この樹造りのお家が良い~!」




古城を最低限改装した宿屋も魅力を感じたがこちらの家も落ち着いた造りで僕好みだ。




真樹「さっそく宿泊を手続きをしてくるよ。」




里乃愛「里乃愛達はここで待ってるね♪」




お洒落な丸机や椅子に腰掛けて休んでいる。


受付からは樹造りのオルゴールが素敵な音色を奏でている。




陽満梨ひまり「あ、お兄ちゃん♪」




真樹「あ、陽満梨ちゃん!どうしてここに?」




陽満梨「宿屋も経営したくて、たまにお勉強しに来てるの♪」




真樹「そうなんだ、ひまりちゃんは偉いなあ。」




陽満梨「えへへ・・・♪」




陽満梨ちゃんに手続きを丁寧に教えてもらう。


印鑑の代わりに通行税の証明のリーフの葉を特殊な液に染み込ませる。


素敵な宿屋の絵の背景が描かれた部分に緑色の葉が鮮やかに付け加えられる。




真樹「じゃあ荷物を置いてこようかな。」




陽満梨ちゃんの案内の元、今日の客室へ到着する。




咲桜里「わあ、広い~!」




翠「広すぎて落ち着かないよ~。」




里乃愛「あはは、すぐ慣れるよ~。」




荷物を置いたついでに、鎧を物置きに収納し普段着に着替える。


カジュアルなロリータ服に着替えてもらったが、とても目に良い光景だ。




想里愛「あたし、変じゃないですか・・・?」




着慣れてないのか心配しているようだ。


まったくそんなことないのに。




真樹「いやいや、想里愛は最高だよ♪」




咲桜里「お姉ちゃんでも大丈夫なら、あたしも大丈夫だよね♪」




おいおい、そんなこと言ったらまた処刑されるぞ・・・!


あ、照れていて咲桜里の言葉は聞こえていない様子だ。


何事も無くて一安心する僕。




真樹「ギルド登録は夜間は受付が終わってるから、明日のお昼に行こう。」




翠「真樹、おなかすいた。」




里乃愛「里乃愛もすいちゃった。」




想里愛「ごはん食べに行きましょう♪」




王国の料理を堪能しに出掛ける。


これが旅の醍醐味かもしれない。


宿屋を出て城下の中央へ向かう。




咲桜里「お兄ちゃん!こっちから良い匂いがする!」




咲桜里についていくと、店頭から良い匂いが流れてくる。


入店するとお盆を持ち、鏡越しに並んでいる商品を選んで取っていく仕組みのようだ。


葉で包まれた炊き込みご飯のような料理を取ってみる。




里乃愛「真樹くん、名物のリーフ巻きも食べよ♪」




真樹「いいね、美味しく頂くとしようかな。」




見た目はお寿司に近い。


米とリーフの葉の中に魚や肉や練り物が具材として包まれているようだ。


葉は仄かに甘い。


練り物の苦さを優しく緩和してくれる。




翠「こっちも美味しい♪」




何かの動物の肉の鍋のようだ。


料理に付いた掛札を見たところ、猪肉のようだ。




咲桜里「臭みが全然ないね。これは完璧だよ!」




想里愛「ふふ、はしゃいじゃって♪」




想里愛に手を握られつつ、美味しく食事が進む。




里乃愛「あっ、食後のデザートが来たよ♪」




王国だけあって、なんでも取り揃えているようだ。


多種多様な果物が僕達の胃袋をわし掴みにする。




真樹「初めて食べる実も多かったけど、どれも美味しいね。」




翠「だね、満腹だよ~。」




ストレートの果汁にして美味しく味わいお腹を満たしていく。


蜜柑に近い果汁がジューシーで特に美味しい。




咲桜里「宿屋戻ろ~?」




王国の夜の街を練り歩く。


居酒屋が煌々と連なり道を照らしている。




咲桜里「楽しそう~咲桜里も行きたい!」




想里愛「あたし達にはまだ早いのよ、咲桜里。」




真樹「明日のギルドが居酒屋に近い雰囲気らしいから、その時に楽しもう。」




宿が見えてきた。


ロビーで少し休んだ後、客室へ戻る。


浴場は1階で男女に分かれているようだ。




真樹「じゃあ、また後で。」




想里愛「真樹さん、あんなにあっさり行っちゃうなんて・・・あたし寂しい。」




里乃愛「まあ少しだけなんだから、たまには女の子だけで楽しもう♪」




翠「いつも時間を止めるのもあれだし、ここの流儀に従うとしよう。」




咲桜里「咲桜里が一番乗りだよ!」




元気の良い声が遠ざかっていく。


僕も湯船に入ったら、たまには心ゆくまで瞳を閉じて休まるとしよう。




真樹「ふぅ・・・」




頭と体を洗い終わり、湯船につかる。


ギルドがあるだけに、冒険者をやっている感じのガタイの良い男性が多い。


宿泊しなくても入浴が可能なので、ギルドで一仕事終えた猛者達で賑わっているのだ。




真樹「サウナにも入ってみようかな。」




サウナに入り、薬草のスチームで身体を癒す。


上がった後は水を浴びて冷やすのがまた心地良い。




真樹「みんなも楽しんでいるかなあ?」




一方その頃・・・




咲桜里「セミの抜け殻みたいになってる・・・。」




翠「返事が無い・・・ただの屍のようだ。」




里乃愛「一度慣れると、彼の居ない環境に耐えられなかったみたいね・・・。」




想里愛「・・・。」




咲桜里「お姉ちゃん、元気出してよ。」




想里愛「・・・ぐーぐー。」




里乃愛「疲れて眠っちゃったかな。」




翠「密林の旅は緊張が続いていたからね。ゆっくり休ませてあげよう。」




咲桜里「よいしょ・・・。」




都合よく横になれる場所があったので、そこに想里愛が寝そべる。




想里愛「真樹さん・・・。」




周りの喧噪とは逆に、彼女は寂しそうな表情を浮かべている。




咲桜里「お姉ちゃん大丈夫かな。」




里乃愛「いつもと変えちゃったのが良くなかったのかもね。」




翠「明日は真樹と一緒にお風呂に入らないといけないね。」




それぞれの時が過ぎる。


先に休憩所で待っていたらすぐに皆来てくれた。




翠「ほら、想里愛ちゃん。真樹の特等席が空いてるよ♪」




里乃愛「ほらほら、遠慮しないで♪」




想里愛「わっ。」




真樹「だ、大丈夫?」




想里愛「ぁ・・・はい♪」




お風呂上がりの暖風でよく乾かされた髪、その降ろした髪がまた一段と可愛らしい。




咲桜里「早めに着替えちゃった♪」




咲桜里を含め何人かすでにネグリジェに着替えている。


とある属性の童の僕には刺激が強い。




想里愛「真樹さん。」




返事をし彼女を見つめる。




想里愛「あしたは一緒に入ろ?」




快諾すると、素敵な笑顔を浮かべてくれる。


明日も楽しみだ。




真樹「この宿も冒険者達でにぎやかだね。」




咲桜里「いっぱい歩いて疲れちゃった。お部屋行っておやすみしよう?」




落ち着いた樹造りの部屋が僕達の疲れを労ってくれる。


王国のリーフの葉の形の樹のテーブルや鏡、窓枠まで丁寧にその形に造形されている。




里乃愛「わぁ!綺麗~!」




窓から外を見れば、中央の噴水が様々な色に鮮やかに代わり、動物や葉や王様などが次々と光と共に演出される。




想里愛「一緒に冒険でお泊りできて嬉しいです♪」




真樹「ふふ、色々な所に連れて行っちゃうぞ♪」




用意して置いた少しの果物のデザートや飲み物を美味しくのみ、仲良く就寝するのだった。




後書き


夜ですね。

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