第27話 ダンジョンを行けば未知と遭遇して


前書き


森のささやかな祝福に秋の訪れを感じて




第27話 ダンジョンを行けば未知と遭遇して


真樹「ふあ・・・。」


背伸びをしようと手を上に伸ばそうとするが伸びない。

想里愛に包まれて夜を明かしていたようだ。

昨日の湯船の石鹸であろう良い匂いがふんわりと僕の嗅覚を刺激する。


想里愛「真樹さん。」


真樹「あ、おはよう。」


そっと瞳を閉じる彼女に唇を重ねる。

夜のイチャイチャが足りないので朝に逢瀬を重ねるのは必然。

夜の十分な睡眠のおかげで、間近で見ればいつもより肌に潤いを感じる。

目の下の隈もスッキリ取れている。

夜更かしも悪くないが健康的な朝を迎えて彼女を感じるのもとても良い。


想里愛「もっと。」


想里愛が抱き寄せてくれる。

昨日の夜中の分もたっぷりと想里愛と体を重ねる。


真樹「甘えんぼで可愛い。」


舌を絡ませ合い、濃厚な接吻をする。

ネグリジェから透けて見える姿は至高であり、すぐに乳房を揉み柔らかく弾力のある胸を堪能する。


想里愛「真樹さんのえっち♪」


言葉とは反対に嬉しそうにしてくれる彼女が改めて好きだと認識する。


真樹「ふふ、みんなが起きるまでもう少し可愛がるね♪」


想里愛「うん♪」


しばらくの至福のひと時が緩やかに過ぎていく・・・。


咲桜里「おはよ~。」


翠「あ、もう料理ができてる。」


真樹「朝食は旅館の料理が出るんだね。」


里乃愛「美味しそう~♪」


彼女達の素敵なネグリジェや可愛いパジャマの姿を見納め、カジュアルな服に身を包んでもらい畳の座布団に座り食事を摂る。


想里愛「お魚や煮物とか落ち着いた料理が多いですね♪」


優しい味付けで食べ易い。

芋やキノコや昆布のような海藻類の煮物を美味しく頂く。


真樹「皆昨日はぐっすり眠れたかな?」


咲桜里「うん、いっぱい歩いて疲れたからぐっすり眠れたよ!」


食事を終えてしばらくお腹を休めた後、ギルドへ向かう。

王国周りはクエストが豊富で冒険者が自然と集っていく。

戦闘だけでなく、生態系調査や尋ね人や材料採集など、内容は多岐に渡る。


陽満梨「あ、お兄ちゃんだ♪」


真樹「あ、陽満梨ちゃんだ!」


陽満梨「ここに来るのは初めてでしょ?冒険者登録しに来たのかな?」


咲桜里「そう!あたしたち登録しに来たの!」


ずいっと間に立ち、咲桜里が視界の下のほうから顔を覗かせる。


陽満梨「じゃあ適正を見ないとね。」


翠「能力を開示するって事?」


陽満梨「そうだよ~。能力に合ったクエストをおすすめしたり、受けれるクエストが増えたりするよ~。」


里乃愛「どうしよっか、真樹くん?」


皆で一旦集合し話し合う。

里乃愛が精霊だと教えるのは少しまずい。


想里愛「能力は非公開で登録をお願いします。」


陽満梨「は~い。出来上がるまで少し待っててね?」


特産の果実を浸けた飲み物がサービスで出される。


翠「飲みやすいね。」


咲桜里「ギルドの庭園で栽培した実を使ってるんだね♪」


底のほうには果肉が沈んでいて、少し揺すれば味が器全体に染み出てゆく。

きれいな水が果汁の色に僅かに染まる。


里乃愛「登録が終わったら、どうしよっか~。」


真樹「自宅に家をもう一つ作ってみたいなあ。」


想里愛「良いですね♪五人ならもう少し広いとより楽しめそうですね♪」


彼女達とのツリーハウスでの暮らしも魅力がある。

難しそうだが入浴も是非ツリーハウスでしてみたい。


陽満梨「お兄ちゃん、登録できたよ~♪」


真樹「ありがとう、陽満梨ちゃん!」


ギルド証を受け取り掲示板に掲載されたクエストを確認する。


翠「このクエストは難易度の割に報酬が良いね。」


見ればこの近辺にある森の討伐クエストだ。

異常に繁殖した栗鼠を間引く必要があるそうだ。


里乃愛「生態系の維持の為に犠牲は付き物だからね。」


咲桜里「こんなに可愛いのに、かわいそう~。」


想里愛「確かに・・・。」


陽満梨「栗に貯めた魔力は冬を越す為の貯蔵庫なんだけど、この栗の投擲にやられた冒険者が後を絶たなくて・・・。」


見かけに寄らない剛腕は投擲前に隆起し貴重な古来の樹が損壊する被害もあると言う。

僕達が早急に解決しなければならない。

冒険らしくなってきて、心がうきうきする。

ギルドを発ち街を少し散策する。


里乃愛「あっちに行列できてるよ~!」


行けば旬な食材が追加されたという。

例の討伐クエストの魔物が持つ栗だ。

その栗は栗鼠の包んだ魔力と分泌した蜜によって栗の旨味を何倍も増幅させているそうだ。


真樹「夕食用に買って行こうか?」


想里愛「そうですね!すぐ帰れるかわからないし買っておきたいです。」


五人分栗のお弁当を購入し、クエスト対象の迷いの森へ向かう。


翠「今回は密林を抜けなくて済むのかな?」


里乃愛「そうだね、冒険者が通う道だから楽に進めて良いね♪」


順調に道を進むが予想と異なり討伐対象の姿が全く見えない。

しかし所々に樹々の荒れた箇所がある。

ここで栗鼠が暴れたのだろうか?


咲桜里「鎧付けてるのに、全然暑くなくて着やすい♪」


真樹「ああ、冷鳴石を内側に薄く焼き付けてあるからね。細かい通気口も確保してるから夏対策は万全だよ。」


翠「冬にも同じ要領で対策してくれるのかな?」


真樹「任せて!」


里乃愛「さすが真樹くん!」


何か手に職があると言うのは便利なものだ。

出来るか出来ないかじゃなくて、やってみることが大事なのかもしれない。

ふと咲桜里を見ると耳を立てて何かの音を感知したようだ。


咲桜里「あれ、声が聞こえない?」


翠「・・・あっちかな?」


里乃愛「たぶんクエストの栗鼠だね。」


駆けていけば、一際大きい大樹の裏側から聞こえる。


栗鼠A「やめろー!」


栗鼠B「きゃああ!」


栗鼠と対峙するのは獰猛そうな色と角を纏う大蛇だ。


大蛇「へっへっ。旨そうなもん貯め込んでるじゃねぇか。皆殺しにして全部搔っ攫ってやるぜぇ!」


冷静な顔で見つめる五人。

こちらの体温なのか視線なのか、向こうも気付いたようだ。


大蛇「おいおい、見せもんじゃねぇぞ!てめぇらもこの見事な艶の鱗の養分にしてやろうかぁ!?」


栗鼠A「いやあ、冒険者様ありがとうございます。」


栗鼠B「まさか助けてくれる方がいるなんて、感動しました。」


真樹「いえいえ、最初は討伐しようと思ってここまで来ちゃったぐらいで・・・。」


想里愛「ま、真樹さん。そんなド直球に言っちゃ・・・。」


栗鼠A「いえいえ良いんです。冒険者達が来ると言う事はそういう事なのですから。」


翠「それにしても、ギルドの言う事と状況が違うみたいだね。」


里乃愛「うん、全然居ないよね。あの大蛇が原因だったのかな?」


咲桜里「このお肉、細長くて食べにく~い!」


真樹「ああ、串焼きじゃなくて、もっと細かく切っておけば良かったね。」


栗鼠C「僕達まで頂いちゃってすみません。」


咲桜里「良いんだよ!しっかり栗を守って冬を越してね!」


栗鼠D「否、あの忌々しい大蛇めが亡き今、この栗がなくとも越冬する事は容易い。故に・・・。」


栗鼠B「お礼に私達の栗は皆様に差し上げます。」


想里愛「栗鼠も守れて、美味しい栗も手に入りましたね♪」


真樹「うん、有難く頂くよ。どれどれ・・・。」


さっそく茹でて温めてから皮を剥き皆で食べる。


里乃愛「美味しい♪」


翠「大きさも立派だし色を見ても、栄養がたっぷり詰まってるのがわかるね♪」


ギルドに栗鼠討伐依頼の取り下げと、大蛇がいたら遠ざける事を約束し迷いの森を発つ。

おかしい。もう行きと同じ時間は歩いているのに王国へ戻る気配が無い。


咲桜里「迷っちゃったのかなぁ・・・。」


翠「うーん・・・名前通りの森と言う事か。」


想里愛「あそこの椅子に腰かけて休みましょう?」


そうだ、急いでいても事態は好転しない。

一度頭を冷やすべく皆が椅子へ腰かけるのを見守る。

こんな所に人工物・・・?

こんな意味の無い所に誰が何の為に作ったんだ?


咲桜里「きゃっ!」


いきなり三人が消えた!?

いや、地面が動いたような・・・。


真樹「行こう!」


里乃愛「うん!」


それぞれが椅子に座り残りの椅子に荷物を載せると、正方形状の地面に穴が開き、板として回転して僕達を奈落のような暗い底へ導く。


真樹「あいたた・・・。」


想里愛「真樹さん!」


お兄ちゃん、真樹と彼女達の声を聞き安堵しつつ撫でて落ち着かせる。

それにしても、ここは一体・・・?


翠「明かりを付けるね。」


光を灯すと、足元には脆くなった骨が幾重にも積み重なっている。


里乃愛「定期的に罠にかかっちゃった人達が居たんだね。」


しかしこの場所で朽ちたと言う事は、出口が無かったのだろうか?

そう考えると少し不安になる。


咲桜里「あっちに通れる空洞があるみたい。」


僅かにだが風も来ている。外に繋がっている可能性が高い!

穴を進むと奥から大きい音がする。

崩落の危険もあるが、杞憂で済んだ。


里乃愛「出口はこちら?」


明らかに土の色が違う。

まるで今、地の底から看板を隆起させた様な・・・。


翠「元からこの看板があったなら、落ちた時にあった骸の説明が付かない。」


真樹「ご丁寧に方角や出る方法まで書いてあるね。」


看板の指示通りの箇所の壁を全員で押せば、いとも容易く扉が開く。

どうやら従来冒険者達に使われているダンジョンへと繋がっているようだ。


想里愛「戻ります?」


咲桜里「お姉ちゃん!絶対におかしいよ!まるであたし達を避けてるみたいに・・・!」


真樹「そうだね。戻るのはいつでも出来るんだから、分岐の先も見に行ってみようか?」


皆も気になっていたらしく、警戒しつつ分岐の先を行く。


里乃愛「随分分厚い扉だね。」


翠「うん、力尽くでは通れないように術式も施してある。」


何者も通さないを体現したような扉だ。

ここまで硬いと刀で斬る事も無理だろう。

弓矢を放っても傷すら付かない。


翠「この先が気になるけど、かける時間に見合わなそうだし・・・。」


帰ろうという事だろう。

皆頷いているし、王国に報告して家まで帰るとしよう。

ちょうど翠が窪んだ部分に手の平を付ける。


翠「えっ!」


扉が模様を浮かばせ光と共に、役目を終えたかのように、窪んだ部分から煌めいて消えていく。

奥から誰かの語り掛ける声がする。


帽子を被った貴族風の男「おやおや、わざわざ出口まで用意してあげたのに・・・来てしまったのかい?」


その部屋の異様さ。

転がるのは割れた試験管、骨が剝き出しの動物の腐乱死体、異様に肥大した食虫植物・・・。

拷問器具と血痕、剥がれ落ちた血肉まで置いてある。


魔貴族マーレブランケ「こいつは一体ここで何をしているのか?気になるよねぇ~。」


試験管を置くと、奥に置いてある何ともわからない混合物を見つめてニヤニヤしている。


真樹「・・・・・・。」


翠「備えたほうが良い。」


里乃愛「そうだね・・・。」


静かにそれぞれの武器を構え、火蓋が切られる。




後書き


危険な瞳が静かに捉えて


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