第9話 精霊の声を辿ったら噂の花片の元へ


前書き


ソリアの日記8

爽やかで温かく優しい風に髪を靡かせながら甘い果実を口にする。

私達の愛を祝福している様な味わいだ。甘いだけでなく仄かな酸味が引き立つ。

食後は樹に背中を預けて素敵な景色と会話を楽しむ。

私は家の辺りを見おろして、あの場所で真樹さんと出会ってこうして今繋がってるんだと手を握りながら想う。

キノコを一緒に採集する。結婚した後もこうして穏やかな日々が流れていくのだろうか。

私はアイスが溶けるように顔をにやつかせながら手を繋ぎ歩く。

強く手を握り見つめると優しく微笑んで温かく握り返してくれた。この幸せをずっと守りたい。

山桜に着き兎さんに服を守ってもらいつつ真樹さんとお昼を過ごす。

食べあいっこで愛を深める。その後も濃厚で充実した時間があっという間に流れていく。

静かな空間に何か異音を感じる。誰かの声がする。

樹の裏には不思議な空間が広がり私達を誘う。危険に留意して彼と樹の裏を冒険する。

幻とされている花を発見し私は祈る。花はそのままにして時期を計ってまた訪れる事にした。

声の主は私の妹だった。川で魔物の襲撃を受けて音信不通で諦めたいたので驚いた。しかしそれ以上に嬉しかった。恐れずに冒険して良かった。

咲桜里さおりを救ってくれた精霊が樹の中に居るらしい。装備を整え体力を万全にし救助に向かう事を決意した。

樹の上層への道も見つかり探索のし甲斐がありそうだ。あれ、あたし冒険を楽しめてる?

真樹さんが頼もしく先導しあたし達を無事に家まで送ってくれた。




第9話 精霊の声を辿たどったら噂の花片の元へ


真樹「美味しいね♪」


想里愛「うん♪真樹さんとお外でお散歩デートするの楽しい♪」


今は僕とソリアはもぎたての桃を食べている。場所はソリアの家からすぐ近くで、山桜とは反対方向だ。精霊の魔法のおかげなのか、1年中収穫できるそうだ。土壌が豊かなのも手伝っているとは思う。


真樹「純白のワンピース、よく似合ってるよ♪」


想里愛「えへへ♪服は真っ白ですけど、どんどんあたしを真樹さんの色に染めてくださいね♪」


真樹「うん♪まかせてっ!」


全力で僕の色に染めようと誓った。すでにある程度は僕の色に染めてる気がするけど、まだまだこれからなのかな・・・頑張ろう。桃を食べ終えてからは、二人で樹を背にして手を繋いで過ごす。温かくて優しい手だと思う。


真樹「ソリアはお腹空すいた?」


想里愛「あたしは大丈夫ですよ~。美味しいキノコがあるので、もう少し休んでから採りに行きましょう♪」


真樹「よーし、いっぱい採っちゃうぞ~♪」


幸せな時間が過ぎていく。よし、ゆっくり休んだしキノコを採りに行くか。


真樹「そろっといく?」


頭を撫でながら聞く。すごく愛しい。


想里愛「はい♪」


手を繋いで二人で山桜のほうへ向かう。山桜を登る途中にキノコがあるそうだ。帰りに採った方が楽かと思ったが帰りだと暗くなっていて採りにくいかもしれない。素直に行きで採ろう。


想里愛「キノコありましたよ~。」


真樹「大きいキノコだね~。」


登り始めてすぐの場所にキノコは生えていた。味噌汁にしたら美味しそうだ。さっそく今日の夕食分を採集する、日持ちするだろうしもう少し多めに採ろうかな。


想里愛「いっぱい採れましたね♪」


真樹「そうだね、大満足だよ~♪」


採集を終えたので山桜目指して登って行く。緩やかな登り道で見渡しも悪くないので危険度は低い。


想里愛「見えてきましたね♪」


真樹「そうだね、いつも満開で綺麗な所だね♪」


見渡したところ、モンスターのいる様子は無い。ピクニック用のレジャーシートを敷いて、二人でいつもの万年樹を背にして座る。兎が苺を抱きかかえてる絵が描いてある。


想里愛「わぁ、可愛いうさぎさんですね♪これなら服も汚れなくて良いですね♪」


真樹「そうだね、ソリアの方がすごく可愛いよ♪」


想里愛「えへへ・・・♪」


満開の桜のしたで手を繋いで寄り添う。心地良い風が吹いて、ソリアの長い髪が靡く。


真樹「お昼食べよっか~。」


想里愛「そうですね、頂きましょう♪」


お弁当箱と桃のストレートジュースをシートに置く。さて、頂こうかな。


真樹「さっそくひと口、食べ合いっこしよう?」


想里愛「はい・・・♪」


食べる時も起床や就寝の時も目を閉じてくれるソリア。おかげで可愛い顔を見放題だ。ゆっくりと口にステーキを運ぶ。


想里愛「こちらは煮込んだほうのステーキですね、お肉も美味しいですけどタレも美味しいですね♪」


美味しく作れたようだ、良かった。僕もソリアからひと口食べさせてもらう。塩焼きのほうも美味しい。


真樹「ソリアの炊いたご飯は美味しいなあ♪」


想里愛「真樹さんの焼いたお肉も美味しいです~♪」


楽しい昼食だった。お肉が柔らかいしジュースも美味しいので、どんどん食が進む。おしゃべりしながら過ごす。今日もお風呂に入る事になった、すごく楽しみだ。食べ終わり二人でお腹が落ち着くまで休む。


真樹「ソリアの髪長くて綺麗だね。」


想里愛「ありがとうございます♪胸にかかるぐらいまで伸びました♪」


立派な黒髪ロングだ。どんなソリアでも僕はドストライクだけどね。白と黒の調和がよく似合っている。


真樹「暗くなる前まで、ずっとナデナデしてたいな♪」


想里愛「えへへ、嬉しいです♪」


ソリアの可愛い顔を見ながら頭を撫でる。後ろからギュっと抱きしめる。本当に夜になる前までこうしていたい。


想里愛「真樹さん・・・」


おや、愛の告白かな?僕の脳内も春になっている。


想里愛「真樹さんは・・・聴こえます?」


耳を澄ます・・・聴こえる、助けを呼ぶ声が。


真樹「聴こえるよ・・・またこの樹の裏からだね。」


どうやら万年樹の裏からの声のようだ。また二人で遠巻きに裏を見るがモンスターは居ない。


真樹「どうしよっか、さすがに中に入るのは危ないのかな・・・。」


想里愛「真樹さんがいるから大丈夫ですよ!あれ、奥に樹が見えませんか?」


僕達は今万年樹の空洞の入口にいる。なんと奥に樹が生えている。よく見れば果実もなっているようだ。あれは・・・林檎?


真樹「樹に果物が成っているね、モンスターがいる気配はないし・・・危なさを感じたらすぐ帰ろう。」


想里愛「はい♪とりあえずあの樹まで行ってみましょう。」


万年樹の中に足を踏み入れる。まだ外が明るいから見渡せるが夜になったら心配だ。あまり奥まで入らない方が良いだろう。


真樹「林檎・・・だね。」


想里愛「そうですね・・・デパートのスーパーで見たリンゴ・・・ですね。」


万年樹の中に林檎の樹がある。こんな不思議な事があるのか・・・異世界の片鱗を垣間見た気がする。


真樹「見えるだけでも20本は生えているね・・・こんなに広いなんて。」


僕は肩下げの竹刀をいつでも抜刀できるようにする。明らかに外から見た面積より中が広い。何が起こるかわからない・・・まるでダンジョンだ。


真樹「入口が見える範囲で奥まで行ってみる?」


想里愛「そうですね・・・それなら安心です♪」


周りに注意を払いながら進んでいく。少しずつ暗さが増していく。ん・・・奥の樹の枝が光っているぞ。


真樹「光ってるね。」


想里愛「もしかして・・・」


光の元にソリアとゆっくり近づいていく。まさかこれは・・・


想里愛「虹色の花です!本当に虹色に輝いているんですね、初めて見ました!」


真樹「僕も初めてみたよ、綺麗に輝いているね!」


ソリアから聞いてた噂の花がまさか目の前にあるなんて・・・驚きを隠せない。


真樹「たしか願い事が1つ叶うんだよね、ソリアの叶えたい事をお願いしたみたら?」


想里愛「あたしは大丈夫ですよ、真樹さんがお願いしてください♪」


互いに譲り合う。しかし切りがない。


真樹「今すぐ決めなくても良いんじゃないかな。」


想里愛「あ・・・お願いしたい事・・・できました。」


真樹「うん、お願いしてみてごらん♪」


ソリアは目を閉じて虹色の花の前で祈る。何をお願いしたのかは気になるけど、今は祈り終わるまで待とう。


想里愛「お願い・・・しました♪」


真樹「おお、ソリアの願いが叶うと良いね♪」


ソリアが顔をあげる。


想里愛「あたし・・・1か月に1回願いを叶えてくれるように頼みました。贅沢なお願いですよね・・・」


真樹「そんなことないよ!僕だってそうお願いしてたかもしれないし。」


ということは、今月は1回お願いが叶うのかな。毎月願い事が叶うならありがたいと思う。ただ願える回数を増やすだけではなく、節度を持った頼み方にソリアの謙虚さと聡明さを感じる。もしかしたら・・・


真樹「虹色の花は採らないほうが良いと思う。採らないほうが樹から栄養や・・・もしかしたら願いを叶えるための魔力も虹色の花に供給されると思うんだ。」


想里愛「真樹さんすごいです♪あたしには思いつきませんでした。毎月願いが叶うと良いですよね♪」


真樹「そうだね♪ソリアは可愛くて頭も良くて最高だよ~。」


想里愛「えへへ・・・ありがとうございます♪」


決してダンジョンの中で油断をしているわけではないが、ソリアの頭を撫でてあげる。僕では思いつかない柔軟な発想は、とても頼もしい。そうだ、毎月お願いが叶うなら・・・


真樹・想里愛「あの・・・」


二人同時に同じセリフを言う。もしかしたら考えている事は同じなのかもしれない。


真樹「あの声の人を助けてあげない?」


想里愛「あたしも真樹さんと同じ事を考えていました♪真樹さん優しくて大好きです♪」


真樹「ソリアも優しくて可愛くて大好きだよ♪」


ダンジョンの中でもラブラブな空気になりつつある。そう、二人の愛は不滅なのだ。今回は僕が虹色の花に声の主が助かるように願う。二人で願うと2回願ってしまう事を懸念したのだ。


想里愛「・・・!」


ソリアが驚いている。ソリアの視線のほうに僕も目を向ける。


咲桜里さおり「お姉ちゃん・・・?」


想里愛「サオリ・・・!」


ソリアをお姉ちゃんと呼んでいる・・・ソリアは女の子を抱きしめている。


想里愛「あたしの妹なんです・・・3年前に魔物に襲われた時に離れ離れになってしまって・・・」


咲桜里「お姉ちゃん・・・お姉ちゃん!」


妹のサオリを落ち着かせているソリア。感動の再開にソリアだけでなく僕も泣いてしまいそうになる。


真樹「そうだったんだ・・・無事再開出来て良かったよ!一緒に家まで帰ろう。」


想里愛「はい・・・♪」


咲桜里「待って・・・!精霊さんがあたしを守ってくれてたの、この樹の一番上に精霊さんが捕まっているの。精霊さんを助けてあげて!」


3人で話し合う。サオリから聞く限り精霊はすぐに魔物に捕まる事は無いという結論に至った。精霊は空間を移動する魔法を使えるそうで、樹の最上階の一番奥に空間を作ってサオリと一緒に隠れていたそうだ。食料は精霊が最上階で樹の果実を採ったり、死んだモンスターの肉を取って来たりしていたそうだ。最上階は魔物が張った結界があり精霊は結界から出れないのだと言う。サオリだけが戻って来れたのはそういう理由わけだったのか・・・。


真樹「もう暗くなって危ないし、すぐには助けられないけど・・・きっと精霊さんも助けると僕は誓うよ。」


想里愛「あたしも真樹さんと一緒に精霊を助けます!危ないからサオリは家で待っててね。」


咲桜里「サオリも助けに行く!サオリが精霊さんを助けるんだから!」


暗くなってきたので今日の所は3人共家に帰る事にした。ダンジョンから出る途中に上に登れるスロープ状の階段を見つけた。2階からはモンスターが出現するかもしれない・・・。階段からモンスターが降りてくる可能性もある。階段を警戒しながらダンジョンから出る。外はまだ暗くないが、今日の所は足早に3人で帰路に着いた。2人きりで過ごせなくなるのは少しだけもったいない気もしたけど、生き別れになっていた妹と再会できて本当に良かった。これからは3人で仲良く過ごしていきたいと僕は思った。




後書き


精霊魔術会 (霧雨流星)リレインスターの報告書6

空を切り闇へ堕ちていく。底の知れない恐怖と戦いながら目で励まし合う。

私以外は前衛でこの徒党の生命線だ。身体強化を全員に施しその時を待つ。

30秒は経っただろうか・・・小さく底が見えたと思うと同時に先程の白い閃光が私達の眼前に迫った!


精霊騎士隊 (凛梨花)リリカ観測隊の記録6

閃光に目が眩む。剣を突く構えを取るが受けきれる自信がない。あの魔物でさえ一瞬で散ったのだ。

薄く目を開くと二人共それぞれ目の前の苦難に立ち向かう構えを見せている。

私は妙に落ち着き前を見据える。3人同時に受け止める。思わず仰け反る。このまま弾き飛ばされそうだ。

リレインスターの風魔法が私達の背中を押す。リリアが前傾姿勢になり刀が光り輝く。

切っ先が閃光を破り突破した!暗闇の中に着地する。

驚く事に魔龍の横に人が居る。暗くて誰であるかはわからないがその人物の方から答えを明かした。


(霊澄人形)リスドールの手記8

どれだけ気を失っていたのだろうか。目を覚ますと死者は居ないが深い傷を負った仲間達が目に付く。

現状を聴くがどうやら黒い魔物はもう死んでいるらしく危険は去ったと言う。

しかし巨大な穴が空き、下からの攻撃で魔物が死んだように思える。

リリア達も居ない。穴に巻き込まれているのではないか・・・。

退路が開けているわけでもなく、そもそも彼女達が私達を放って帰るわけが無い。

おそらくこの深い底の先に居るはずだ。

しかし誰もが満身創痍で何があるかわからない未知へ飛び込もうなんて考える者は居ない。

回復した者から塞がれた岩盤の除去をし始めている。私もそうするべきだろうか・・・。

私は遊樹鳥ゆうぼくちょうを召喚し未知の先を探らせる事にする。

鳥が小さくなって見えなくなってどれぐらい経っただろうか・・・戻ってきた。

人が4人と魔物が1匹居る事が判明する。元々諦めていた命を救われた身だ。今度は私が救う番だ!

私は周りの制止を振り切り飛び降りた。


(凛里愛)リリア精霊騎士隊の系譜4

悪びれもしない表情で彼女は喜々として語り出した。

自身が魔族でありこの星の斥候に来た事、隣の魔龍を育てるエサを調達する為に精霊魔術会に入った事、もうすでに行方不明者は全て亡き者になっている事、私達を仕留めたらすぐ地上に出て街を襲う事。絶対に負けられない。戦いが始まった。

アリキーノは魔族だ。妙な情は刀が鈍り自身の死を招く。私は彼女を殺す気で切り込む。

魔龍が立ちはだかり後ろで魔龍への補助魔法、詠唱を省略した簡易な攻撃魔法での援護と巧みに立ち回ってくる。魔龍の攻撃も半端無く鱗も固く決定打が生み出せない。魔力の上昇に応じて物理的な攻防も上がっていくようだ。

魔龍の重力魔法で防戦一方になる中、上から魔法に吸い寄せられた黒い魔物の亡骸が落ちてくる。

魔龍が私達を尻尾で一蹴した後貪り食べる。おぞましい魔力が周囲を支配した。

助からないと悟り玉砕覚悟で単身突っ込むと目の前に誰かが舞い降りてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る