第2話 想いを込めたら故郷へ

前書き


ソリアの日記

3年前に妹を失い時が経ち悲しみから立ち直ろうと日々を過ごす中あたしの前に彼が現れた。最初は戸惑うばかりだったが怪我をしていて見過ごせないし、彼には帰る場所も無いようだった。彼と過ごす内にあたしは真樹さんに惹かれている事に気付いた。最初は悲しみを忘れさせてくれるから?独り暮らしの状況が変わり浮かれているから?と自問自答した。だけど話す度にあたしを思いやる優しさに触れて、あたしの無事を喜んでくれる真樹さんに気付けば恋をしていた。自然と目で彼を追う。また気付けば彼と山桜に出掛けるのを喜ぶあたしが居た。この気持ちは偽物なんかじゃない。

光に包まれた後、真樹さんの家で暮らしている。怖いことがあっても彼があたしを守ってくれる…。これからもあたしは真樹さんとずっと一緒に居たい。



第2話 想いを込めたら故郷へ


真樹まさき「異世界いいわぁ・・・、心の汚い部分をソリアさんやこの大自然が洗い流してくれるようだ。」


ここは異世界の夜。何か悟りを開いたような顔をして満足気に床にくつろぐ林真樹はやしまさき。ソリアに話を聞いた所、この異世界も現実世界と同じように1日は24時間あるとのこと。この山一帯は遥か昔に精霊がかけた魔法により常に春であるらしい。ちなみに山から出れば日本のように四季を見る事ができるそうだ。ソリアが山桜のあるスポットも知っているから今度一緒に行こうと誘ってくれた。とにかく楽しみで仕方がない。


真樹「ちょっとトイレに寄ろうかな。」


扉を開けるとソリアが食卓で佇んでいた。何かモノを大事そうに手に抱きかかえている。


想里愛そりあ「あ、真樹さん!良かったらお話ししませんか?」


真樹「いいね!可愛らしい人形だね。何の人形さん・・・かな?」


想里愛「精霊です、この人形は母からもらった大切な宝物なんです。この話は精霊と繋がるのですが・・・お昼に水を汲みに行きましたよね。今は安全な所だけど3年前まではモンスターが現れて危なかったんです。」


真樹「そうなんだ、安全になって良かったよ。モンスターか、怖いね・・・」


想里愛「はい、あたしがモンスターに襲われてた時に精霊が助けてくれて・・・、ものすごい光に包まれてしまって・・・直接見れたわけではないんですけどね。」


ソリアと話すのは楽しい。現実世界で将来の無い平凡な日々を過ごしていた頃に比べると他の何にも代えがたい。汲んだ水は仄かに甘味を感じる。そのまま飲用にできるのはありがたい、大地が豊穣なのだろう。

どんなモンスターだったのか気になったが、傷を掘り返すので聞くのは止めておいた。3年前に精霊が助けてくれたということは・・・今も精霊は生きているということだ。


真樹「また精霊に会えるといいね。僕もお礼を言いたいし」


想里愛「そうですね!一人暮らしは心細かったので・・・真樹さんと会えたのも精霊のおかげかも」


僕はドキッとしてソリアを見た。顔が赤い・・・これは脈アリなのかな?互いにえへへと照れつつ話を進める。


想里愛「実はこの人形は願いを叶えてくれると伝わっているんです。あたしの願いも叶いましたし。良かったら真樹さんもお願いしてみます?」


真樹「素敵な人形だよね、うん!お願いしてみるよ。」


ソリアがにっこりと微笑む。ソリアの願いは精霊の人形によって叶えられた。僕も精霊には感謝しなければならない。やはりこの出会いは何事にも代えがたい。


真樹「僕もソリアといつまでもずっと一緒に暮らしてたいな。」


想里愛「あ、あう…。」


しまった!心の中で願うつもりが口に出してしまった!ソリアは真っ赤な顔で返事に困っている。だがそれがいい…じゃなかった!早くフォローしないと!


想里愛「ずっと…側にいてくれるんですか?」


真剣な顔で見つめてくるソリア。もちろん断る理由は無い。僕もソリアを見つめ返して返事をする。


真樹「うん、ずっと一緒にいよう!」


想里愛「うれしい…」


ソリアが僕の隣に座り目を閉じる。僕はソリアに顔を近づけていく。その時…ものすごい光が精霊の人形を中心にして二人を包んだ。


想里愛「きゃっ!」


真樹「えっ!?」


光が収まった時、なんと僕の別荘に二人で転移していた。



後書き


リーフ王国外部調査員の記述

冒険者ギルドで行方不明者が多発している地域の調査依頼を精霊魔術会に依頼した。もう30人は失踪している。危険度の低い地域なのに…原因は未知の魔物か罠が存在するのか…?念の為精霊魔術会と双璧を成す精霊騎士隊にも例の地域の山間部を調査してもらう用に依頼した。


リスドールの手記2

素敵な桜の花びらをアリキーノと眺める。彼に連れられ歩く内に、なんと樹の中に巨大なダンジョンを見つける。今思えば彼に誘導されていたのだろう。あたしは二人きりでダンジョンを冒険するのを楽しんでいた。彼はダンジョン内の林檎をその場でもぎ取りナイフで切りあたしにくれた。甘くて美味しい。今の彼に対するあたしの気持ちのようだ。アリキーノにも分けてあげたが遠慮しているのか食べなかった。

そして樹から離れ移動しようとした時、突然視界が揺らめきあたしが見上げる彼の顔は遠くなる。何が起きたかわからずにいると樹々が蠢きあっという間にあたしと彼を繋ぐ道は閉ざされた。あたしは驚き助けを叫ぶが返事は無い。それほど厚く覆われているのだろうか。急な出来事にフツフツと不安と焦燥が頭の中で渦巻く。そして体験した事の無い腐臭に気付き光魔法で辺りを照らす。そこには行方不明になった冒険者達の亡骸があった。アリキーノと親しかった魔法使いの女の子の成れの果てもあり思わず吐き出した。そこでようやくあたしは罠に嵌められた事に気付いた。皆ここで来ない助けを待ち朽ち果てたのだろうか…。奥へ下り続く道に足跡があるのを見つける。失踪から半年は経ち生きている訳の無い仲間を求めてあたしは闇の中へ堕ちていくのだった…。

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