エピローグ⑨ 先 (焦らし乳遊びに時々ジョエル)

 

 正座待機。しかし待てども機会はなく、褒美などもっての他だ。

 彼女――ミルシェは微笑みながら肩掛けを一枚脱いだ。内側から現れたのは、シンプルな寝巻きに身を包んだミルシェの肉体だ。

 パジャマは白い生地の、長袖に長裾のパンツという質素な物だ。


「――ぅ、ぉぉお」


 イケメンや美女は何を着ても似合うと言われるように、巨乳は何を着てもエロいということか。

 シンプルな寝巻きが、とてつもない破壊力を持って顕現してしまった。内側からの膨らみに耐えかね、ボタンとボタンの間が開き8の字になっている。

 その隙間からミルシェの肌が覗いている。ボタンからチラリズムする谷間の芸術点は、美術コンテストに出しても高評価間違い無しだ。


 ミルシェが軽く身体をくねらせるだけでユサリと揺れる稀代の爆乳、奇跡のおっぱいは、俺から辛抱という感情を根こそぎ奪ってしまった。

 二週間ぶりの、ミルシェのおっぱい。目の前にあり、手を伸ばせば簡単に届く。我慢できるはずもなかった。


「ダメ、ですよ?」


 肉食獣のような飛躍をみせる直前に掛けられた言葉は、信じがたい強制力を持って俺を五体を縛った。

 動きたくても動けない。行けという感情と駄目だという感情がぶつかり合い拮抗する。


「そこに座ったまま、見ててください……」


 頬を赤くしたミルシェはそういうと、両手で自分の乳房を下から持ち上げた。


「ぁぁっ……!」


 切ない溜め息が唇から溢れた。温度と湿度を伴った喘ぎ声は、俺の理性を更に削っていく。ミルシェは俺に構わず十本の指で自分の肉体を弄ぶ。

 薄い布の下でおっぱいが、ずっと触りたかったおっぱいが淫らに形を変えている。


「は、ふぅ、んッ、ふ、ふふ……ダメですって、そこで、お座りしていて下さい……」


 強制力のある言葉が耳朶を叩く。鼓膜が受けた痺れがそのまま全身に伝播し、筋肉が動かない。

 ミルシェはイタズラっぽい笑みを浮かべたまま乳房を持ち上げ、手を離す。

 重力に喰われ、Mカップの乳肉はタプンと元の形状に戻った。落下の勢いで、シャツの隙間から微風がそよぐ。甘い金木犀の香りを伴ったそよ風だ。

 そう、そのそよ風が漂ってくる位置まで俺の顔はいつの間にか近づいていた。


 誓って言うが俺が近づいたワケじゃない。

 いつの間にかミルシェが身体を寄せて、俺の至近でおっぱいを揉み揉みしていたのだ。距離にして5、6センチ。目と鼻の先のおっぱいがある。


「ぁ、ぁあっ、は、はぁ、ぁぁん、もう、視線が、くすぐったいです……」


 ミルシェの声もそよ風になり俺の頭を撫でた。

 俺の目の前で、豊穣の果実は主の指から蹂躙を被っていた。シャツという窮屈な牢獄にとらわれた上、十本の指から刑罰。なんという圧政、なんという悪逆。こんな残酷が世にあっても良いのか。


「む、ムネヒト、さんの、せいです……!」


 内心にスパルタクスを目覚め掛けさせていた俺は、泣きそうな彼女の言葉ではっとする。


「ムネヒトさんの、せい、で……! 私、私の、身体……こんなに、エッチになっちゃったんですっ……! 独りで、おっぱい、触ってるだけで、直ぐに気持ちよくなって……っ、ァアッ!」


 ぴくんぴくんと身体を震わせるミルシェだが、その指は自分のおっぱいを責めるのを止めない。それどころか、どんどん激しくなっていく。

 ダイナミックな動きで乳肉を持ち上げ捏ね回している。両の中指と薬指が頂点を挟み、バタ足するように刺激している。最も敏感な器官を自分で刺激する少女の姿に、俺は背徳的な興奮を覚えていた。


「ちゃんと、見てますか……! 目を、逸らさないで、下さい……ね?」


 うなじから流れた汗が一筋、谷間へと吸い込まれた。その雫もおっぱいにミキサーされ、あっという間に肌に溶けた。


「み、ミルシェ……!」


「んー? ふふふっ、どうしたんですかぁ?」


 我慢できよう筈もない。前頭葉にあるウィル・パワーの一生分を使い果たしてしまいそうだ。


「触るなっていうなら守る! 言われた通りにする! でも、せ、せめて、せめて! おっぱい見せてください! 生おっぱいを! お願いします!」


 きょとんと目を瞬かせるミルシェだったが、頬を赤らめたまま直ぐにイタズラっぽい笑みに戻った。


「それってつまり、シャツを脱いでくれってことですかぁ?」


 俺は何度も小刻みに頷く。


「そんなに、私のおっぱい、見たいんですか?」


 今度は大きく頷く。


「でも、ブラジャーは脱ぎませんよ?」


 各駅停車しながら何とか頷いた。


「――ふふっ! 本当にムネヒトさんは、おっぱいが好きなんですから……ご褒美として、正直者のムネヒトさんに私のコト、1つ教えて上げますね?」


 ミルシェは更に身体を寄せ(器用におっぱいをぶつけないように)て、俺の耳元に唇を近づける。ぞわぞわ、と吐息が耳の産毛を舐めた。


「実は今、ブラジャー付けてないんです……♡」


 あやうく出してしまうところだった。ナニがとは言いませんが。


「それでも、脱いでも良いですか?」


「オフコースッッ!」


 自分史上最高のオフコースを君に捧げますとも!


「もう、ホントに仕方ないんですから……」


 笑いながら、ミルシェはシャツのボタンを外していく。留め具と切れ目が仲違いしていくにつれ、巨大な膨らみが露になっていく。

 風呂上がりの為か、興奮の為か、ミルク色の肌にビッシリと汗粒が浮いていた。

 それは果実を彩る真夏の通り雨。

 ほんの数分間のどしゃぶりがスイカを濡らし、夏の果実の瑞々しさを一層引き出している。天水をもたらしたのは道雲。

 雨上がりの匂い、甘い金木犀の薫りが熱気を孕んで鼻をくすぐった。


 ああ、今年も夏が来たのですね。そう俺はしみじみ頷いた。


 最後のボタンが外され、ミルシェはゆっくりとシャツを袷を解いた。

 二週間ぶりの、ミルシェの生乳。大きくて張りがあって、先っぽはちょっぴり恥ずかしがり屋で――。


「あ、あれ、え……?」


 シャツの下はおっぱいだった。それは間違いなかった。だが、裸ではなかった。

 パツンパツンに張った乳房には、布と紐で構成された――。


「ざんねんでしたー♡ シャツの下は水着でしたー♡ おっぱいは見せてあげませーん!」


「ま……」


 マイクロビキニィィィッィィィィィイイイイイイイイイ!


 ミルシェの乳房を護っていたのは、あまりに頼りない双子の三角生地、牛柄のマイクロビキニだった。

 サイズも極小であり、正三角形の一辺は五センチも無い。エロ漫画から取り出したような、超マイクロだった。

 それが、ミチっミチっと音を立てんばかりにミルシェの乳弾力を支えていた。


「お、ぅおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 おあずけされたもどかしさと、感動とでいっぱいになってしまった。

 結論から言うと、俺はマイクロビキニを愛している。

 女の子のあらゆるお洒落が好きな俺だが、やはり水着は別ベクトルで好きだ。

 夏になれば意味なく気分が上がるし、ソシャゲでも水着イベントとかあれば意味なく課金しちゃう。それぐらいには水着が好きだ。真夏の女神は真夏に有り。全然上手くない。

 ワンピース、セパレート、競泳、ビキニ、なんでも御座れ。アイラブミズギなハイヤ・ムネヒト様だ。


(ミルシェが、マイクロビキニだとぉ……!?)


 そんなムネヒト様(笑)をして、戦慄せしめる水着。白黒模様の小さな布が、少女のプライベートゾーンを守護している。乳首だけを必死に隠していた。

 そう隠しているのだ。ここまで女体の美しさを見せびらかせて起きながら、先端だけは頑なに拒否している。


 俺はその禁忌の表現が好きで好きでたまらない。


 太腿も、腕も、背中も、脇も、お臍も、お尻も見せて上げる。でも、おっぱいはダメ。

 そして、そのおっぱいすらも。

 谷間もじっくり見て? 上からも下からも横から見ても良いよ? おっぱいのコト、しっかり教えてあげる。


 でも乳首だけは、ダ♡ メ♡


 うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 右と左の布の一体どっちが『ダ』で、どっちが『メ』なんだぁああああああああ!? それとも『NO』表記の英語なのかあああああ!


 ダメが極限まで集約されたのがマイクロビキニという水着だ。

 どれだけ肌を露出しても、どれだけ裸に近くなろうとも、乳首だけは駄目。稀に乳輪がハミするビキニであろうと、中心だけは見せてくれない。おっぱいの99.9%が許されても、0.1%は許されない。


 自分の肉体に自信があっても、露出狂さんであっても、マイクロビキニを着るだけで『乳首だけは見ないで』と自己主張させ(個人の感想です)、強制的に恥じらわせている。


『私、おっぱいを全部見られるのは恥ずかしいの……だから、先っぽだけは隠させて……』


 そう、無言でアピールしているのだ。まさに羞恥と解放の綱引き。解放と束縛の椅子取りゲーム。

 マイクロビキニを開発した人、本当にありがとう。アンタが大将だ。


「ちょっと、恥ずかしいですけど……ふふふっ、似合いますか?」


 夏の女神は頬を染め、片手を腰に、片手を後頭部に添えるというベタなセクシーポーズをしてウインクした。

 似合ってるというレベルじゃなかった。

 1メートルを越える刺激的爆乳の持ち主が、刺激的すぎる水着を身に纏う。水とナトリウムが結合するかのごとき強烈な化学反応。


(もしかしてマイクロビキニって、ミルシェの為に発明されたんじゃね? リリミカには悪いけど……いや、リリミカも超可愛かったけど……)


 ミルシェが腰を振ると、時間差でおっぱいもユサユサ揺れる。肩紐と布と布を繋ぐ紐とがピンと張りつめ、今にも千切れそうだった。

 あまりに頼り無さすぎる! ミルパイを支えるにはカーボンファイバーくらいじゃないと!


「そ、そそそそそそそんな水着、持ってたんだだだだ……」


「いえ、これ今朝リリから貰ったんです。この格好なら、ミルク・ポーションたくさん売れるだろうって」


 買うわ。こんな娘が売り子してたら、有り金叩いて買い占めるわ。

 あー。だからリリミカ、『ポミケ』の会場では牛柄のビキニを着てたのかー。


「でも結局、私は着れませんでした……ムネヒトさんの為に沢山売らなきゃって思ったんですけど……やっぱり、は、恥ずかしくて……」


「着なくて正解だ。こ、こんなの、刺激的すぎるだろうし……それに……」


「それに、その……ムネヒトさん以外に見られるの、なんかイヤだったから……」


 俺の言いたかった事の続きをミルシェは上目遣いで言ってきた。当たり前だ。こんなん他の男に見せようモノなら、俺は嫉妬に狂い死にするぞ。

 腕をもじもじとさせると、自然おっぱいが寄せられ強調される。マイクロビキニが僅かに浮き、中心の紐が緩んでたわむ。指とか引っ掻けて遊びだい。


「ムネヒトさん、いつもハナ達に夢中だから……私も牛の格好になったら、気にして貰えるかな……って」


 あざとい。あざといよミルシェ。


「その……めっちゃ似合ってる。肖像画描いて部屋に飾っておきたい」


「本当、ですか? ……えへへ」


 乾きに乾いた舌を動かして何とかいうと、ミルシェはほっとしたように微笑んだ。

 語彙を失った俺が何度も頷くと、ミルシェは調子に乗ったのか、指を角に見立て頭の上でピコピコさせた。

 持ち上がるおっぱいと、露になるスベスベの脇が色々な意味で眩しい。


「もーぅ、もーぅ! ミルシェも牛さんです! 頑張ってミルク作るから、ムネヒトさんにいっぱい搾って欲しいですもーぅ!」


「……」


「あっ……」


「…………」


「い、今のは……無しで、お願い、し……ま…………ぅ」


 ぎゃんきゃわたん。あざとさでも人は死ぬぞ。


 気を取り直し、ミルシェは危うい防御のみになった自分のおっぱいを再び掌で弄び始めた。

 指が戯れ乳房がたわむ。俺の手にも物理的に余ったおっぱいだから、ミルシェの手には更に大きかった。


「あぁっ……」


 おっぱいが形を変える度に、血色の良い唇から切ない喘ぎ声が漏れ出る。チラチラと唾液に濡れた舌が見え隠れしていた。

 表面を揉みしだいていた指が動きを止め、両手の親指と人指し指がクルクルと布の上……乳首の回りを撫で始めた。

 それでも刺激が足らなかったのだろう、擽るだけだった四本の指が、布の上から先端をつねり上げた。


「く、っ、ぅぅん!」


 呼応し、若い肉体が大きく弾む。

 一際甲高く悶え、ミルシェは頤を跳ねさせた。汗のためか、細い首に栗色の髪が張り付いている。


「んンっ、あぅぅ、なんで、なんで今日は、こ、こんなに……! い、いつも、より、くぅっ! むね、ひと、さんが、見てるから……?」


 起立率は95%からほとんど動かない。時々、96%、94%と変化するだけで標準偏差±1を突破できなかった。

 心なしか、牛柄ビキニの中心が軽く膨らんでいるように見える。性感に悶える艷な乙女の姿に、俺の喉はとうにカラカラだった。


「――ッ」


 一度手を止めたミルシェは、恥ずかしそうな顔で俺を見た。此方の様子を窺うこと数秒間、彼女は再び指を――ビキニの下に滑り込ませた。

 秘匿されている淫部が主の手で犯される光景に、心臓が1つ大きく跳ねた。


「ふっ、んんんんッ――♡」


 肩をすくめるようにして身を捩り、牛になった少女は濡れた喘ぎ声を発する。


「だ、ダメ、なのに……! 恥ずかしい、のにぃ、ココが切なくて……っ、ぅ、うううう……!」


 白黒布を指の形が押し上げていた。絶え間なく動き、捲れてしまうそうなほどだ。ビキニとおっぱいの間で、ミルシェは固くなった己の一部を虐め抜いていた。

 どのように乳首を弄っているのか、分かりそうで分からない。布に覆われた箇所で指が踊る。歪み脈打つ牛柄のビキニが酷く淫靡なものに見えた。


 少女の秘め事、自慰の現場を目撃している背徳的な興奮に俺の呼吸は怪しい。ヨダレが舌の根に張り付いて、ガス交換に支障をきたしていた。

 未だ100%に至らないミルシェの乳芽を救って上げたい。もとい、吸喰って上げたい。ミルシェの鳴き声を頭に浴びながら、105センチのおっぱいを味わい尽くしたかった。


「ミルシェ、み、みずぎ……」


「……はぁ、はぁ……え?」


「その、水着も、脱いでくれないか……?」


 我慢にも限界がある。人類史上初おっぱいお預けで死んでしまう。

 二週間ぶりにミルシェのおっぱいを間近で見て、その全容を見ずに終えるなど大罪だ。

 巨乳モノの成人動画で、その豊かな乳房の特性を活かさない位の暴挙に等しい。


「お願いだミルシェ、お前の――おっぱいだけが見たいんだ……!」


 俺にはお願いしか出来ない。誠心誠意頭を下げて、怒れる女神に許しを乞うだけだ。どうか、お慈悲をお与えくださいと頭を垂れる。

 偉大なおっぱいの前では、俺なんて偽物の神だ。


「――もう……♡」


 頬を染めたまま黙っていたミルシェだったが、困ったように微笑むと三角形の下辺に指を掛けて、ゆっくりずり上げていく。


 俺は此処でもミルシェに拍手を贈りたくなった。

 背中に手を回し、紐を緩める脱ぎ方も好きだが、彼女が取ったのは上にずらすという手法。

 完全な裸ではなく、ビキニを肌に残した脱衣だ。

 乳首を隠さなくなった水着は役立たず――などと言うこと無く、アクセサリーとして上おっぱいに乗せておく事をミルシェは選んだ。コスプレ好きにも心を砕いたニクい演出。

 男心を擽る配慮に感涙を禁じ得ない。


(何度もミルシェの乳首見てるはずなのに……!)


 やはり、シチュエーションは大事と言うことか。ミルシェがイタズラっぽい笑みを浮かべたままビキニを上げ、また少し下げて、スカートを捲るみたいに持ち上げたりする度に、俺は乱される。


「まばたき、厳禁ですよ……?」


 脛椎の限界に迫る速度で首を振ると、ミルシェは日の出よりもゆっくりと、今度は肩紐を引っ張って持ち上げていく。

 汗で湿ってしまい摩擦係数が大きくなったのだろう、布に張り付いた双子の巨峰がビキニと一緒に持ち上がっていく。

 ポロリの瞬間が試合終了の合図だ。

 露出と秘匿の陣取り合戦……乳首とビキニのラグビーは、ノーサイドゲームを迎える。


 ぐぐぐ……と、限界まで持ち上がっていたおっぱいが、ぷるん! っと溢れた。

 牛の模様から溢れ落ちた牛の様な果実。白くて大きくて、先端にエッチなピンク色の彩りを添えた極上の果実が、再び俺の目の前に――。


「あ、れ……」


 ミルシェの乳首、こんな原色に近いピンク色だったっけ? しかも何か、形がハートみたいに――。


「またまたざんねんでしたー♡ ビキニの下はっての着けてましたー♡ ちくびは、おあずけでーす」


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!」


 膝から崩れ落ちた。

 牛水着の下はハート型のニプレスだったのだ。


(なんてこった……なんてこったぁ……!)


 色々な感情でぐちゃぐちゃになったまま、俺はもう一度ミルシェのおっぱいを見た。

 裸のMカップ爆乳の頂点を、薄いシールが覆っていた。

 やや尖っているようにも見えるが、乳首は隠されたままだった。

 見れなくてもどかしい気持ちと、生ニプレスおっぱいを初めて見た興奮でどうにかなりそうだった。

 俺はまさに今、ミルシェに調教されている。分かっていても、彼女のおっぱいから逃れられない。


 何処からか見えないか!? ハートの窪み的な場所からせめて乳輪だけでも……!


 目を皿のようにして見開くが、ミルシェ自身のピンク色は見えないままだった。

 彼女の乳輪のサイズからいって、ニプレスはかなりギリギリを攻めている。やっとノーサイドゲームかと思ったら、サドンデスなチキンレースが始まってしまった。乳キンレースだった。


「今日は、おっぱいは上げないって言いましたよね? ムネヒトさんは、見てるだけしか出来ないんですから……揉むのも、触るのも、吸うのも、許しません。じゃないと、お仕置きにならないでしょう?」


 内側から膨らんだニプレスを指でツンツンと突つきながら、ミルシェは何処までも妖艶に微笑んだ。


 ・

 ・


 結局、ハイヤ・ムネヒトは『クレセント・アルテミス』へ何の要求もしなかった。おっぱいギルドの冒険嬢に対し、賠償金を要求する事も、また然るべき機関に委ねて罪を裁くということも一切しなかったのだ。

 つまり『クレセント・アルテミス』は何の変化も無い。それどころか、彼の与えた恩恵により最近の隆盛が目覚しい。不誠実な果実が、未だに甘い汁を冒険嬢達に与え続けているのだ。


 仮に真相を知る者が居るならば、ムネヒトの事を『とんでもないお人好し』とか『見返りを求めない聖人』とか評する声も出るだろう。

 しかし『信賞必罰の道理を弁えない愚か者』『女の前で格好をつける大馬鹿者』『金ではなく、代わりに冒険嬢達の肉体を見返りを求める卑劣者』と誹謗する声の方が多いに違いない。


 ジョエルの見解はそのいずれとも違う。


 ハイヤ・ムネヒトは彼女達に騙されただけで、時間と労働力を搾取された被害者か? 否だ。

 彼は彼女達と深い関係を結ぶに至った。金ではない。肉体でもない。恩と、女性にとって奇跡のようなムネヒトの能力によって。

 頭を垂れるのなら恩寵を、背を向けるなら破滅を。こうも上手に飴と鞭を使い分けるとは。

 また騎士と冒険者は兼職できない決まりだが、これは違反ではない。彼は冒険者になったわけでなく、彼女達をから見守る立場に居る。強いて言うなればフリーのカウンセラーというところ。

 ディミトラーシャから懇願された『クレセント・アルテミス』新ギルドマスターを、拒んでいることからも窺い知れる。


(まったく……上手い立場を選んだものだ……)


 色町に生きる冒険嬢達を『自分達の肉欲のぶつけ先』とだけ考えているなら、男としては三流だ。

 彼女達が男に抱かれる対価として受け取るのは金や宝石だけではない。特殊な人物との繋がり、目には見えぬ価値にこそ注意を払うべきなのだ。

 一夜限りの夢を求める男は多種多様であり、若い冒険者、ベテラン冒険者、商会の幹部、そして貴族など。


 仮に『先日、婚約を発表した○○伯爵家の嫡男は、おっぱいギルドの常連なんだ』とか『××侯爵家当主が、妻の身重を良い事におみ足で愛人を作っていた』という情報を彼女達が掴んでいたらどうだ?


 ありえない話ではなかった。

 夜伽の枕辺で、表には出ない秘密の世間話をする快感は、体験した者にしか分からないだろう。むしろ金の代わりとして、そういった情報や大商会への紹介状を置いていく者は多いくらいだ。

 彼女達の中には、そういう秘密を知らず知らず握られている者も多いだろう。公になってしまえば破滅を招くような噂だって、一つや二つではあるまい。


 そしてその冒険嬢達をムネヒトは両腕一杯に収めている。つまり彼は、王国貴族達のアキレス腱へ振り下ろす斧を得たのだ。


 更に【ジェラフテイル商会】とも親密な関係を作り上げ、その商会と『クレセント・アルテミス』との間に繋がりすら設けてしまった。

 彼は表と裏の架け橋として影響力を増していくだろう。自分の名前を積極的に売るのではなく、水面下からじっくりと。


 恐るべき神算鬼謀の持ち主だ。もはや笑うしかない。


 彼の影響力、智謀、そして想像を絶する異次元の戦力。ムネヒトが善良な人物か否かを論ずる段階は、とうに超越してしまった。


「これほどの存在、間違いなく王冠師団クラウンズが動くぞ……!」


 ジョエルは戦慄の内に、王宮を守護する数名の男女を思い浮かべる。

 王宮騎士団と宮廷魔術士の中から、特に優れた数名を選りすぐった集団。冠の名を戴く『王冠師団クラウンズ』というポワトリア王国最強の切り札。

 一人一人が、ムネヒトを排除しうる戦力を持つ恐るべき強者達だ。

 迂闊な接触は避けねばならない。だがもし――あの黒髪の青年が、王冠師団との接近すら計算に入れていたのだとしたら――。


「ムネヒトくん……君は何を――そして、どれほど未来を見ているんだい……?」


 ・

 ・


「お願いだよミルシェぇぇぇぇぇぇ! おっぱい見せてよぉぉぉぉぉ!」


「ええ~? 見せてるじゃないですかぁ。もう私、ほとんど裸ですよー? ほらほら」


じゃ駄目なんだよおぉぉぉぉ! ぜんぶ! ミルシェのおっぱい全部見たいんだよーーッ!」


「全部じゃ分かりませーん ちゃーんと、私のおっぱいの、何処が見たいかを言って下さーい」


「!? そ、そんなの恥かしくて言えるわけないだろ!」


「じゃあダメ、今日はコレで終わりです」


「ちくび! 乳首です!! ミルシェのおっぱいの……最高にエッチ綺麗な乳首が見たいんです!!」


「うふふふっ、よく言えましたね。じゃあ、御褒美に……私のおっぱいの、いちばん恥かしいところ……私の、乳首を、ムネヒトさんだけに見せて上げますね?」


「お、ぉぉ……ミルシェ様ぁ……」


「ところで、ひだりとみぎ、どっちのちくびが見たいですか?」


「……!?」


「だーかーらー……右か左か、どっちかだけ見せて上げますね? さ、どっちですかぁ♡」


「お、あ、い、俺に、え、選べるわけ無いだろ!? 右か左かだって……!? 無理だ、勘弁してくれミルシェ……! あっそうだ! 両方のニプレスを少しずつ……半分ずつってどう!? 算数的には0.5が×2で1になるよ!」


「はぁい、時間切れでーす♡ このシールは、もう剥がしませーん ち・く・びは、お預けでーす」


「うわ”あ”ぁぁああああああああああああああああああああああああんん! ひ、酷いよぉぉぉぉ! あんまりだぁぁああああああああああ! ぢぐび見ぜでよお”ォぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 ミルシェのおっぱいの先を見ていた。正確には見せて貰えなかった。


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