エピローグ③ アメリアとコレットとジェシナとムネヒト②

 

 絶え間なく浴びせられる性悦は、アメリアを恍惚とさせるばかりでなく、深い幸福感もを彼女に与えていた。

 いつの間にかベッドに押し倒されていた彼女は。自分の右胸に顔を押し付けている男を見た。

 緊張や不安から最も遠い表情で、アメリアの授乳器官を優しく吸っているのがムネヒトだ。


「ん、んんぅ……ムネヒト……」


 名を呼ぶのも、もう幾十度目かも知れない。何度言っても足りないような心地だった。

 アメリアはムネヒトの頭を両腕で抱き、自分の乳房へ引き寄せた。とうに距離はゼロなのに、まだ足らない、とムネヒトを求める。

 もぞもぞと動いて、男の頭部を抱えやすい位置、また位置に上半身を調節する。

 ほとんど体重を掛けられておらず、ただムネヒトの頭の重さだけを感じていた。

 ちゅぅ、ちゅぅと、右胸の先端は、耳を澄まさないと聞こえない程の細やかな音で吸われていた。

 何も出ていないはずなのに、彼は恍惚をアメリアの乳房を味わっている。ジンと充血した肉体の一部は、ムネヒトの口の中に幽閉され自分でも確認することは出来ない。

 不意に恥ずかしくなったアメリアは、ムネヒトのつむじ付近へ話しかけた。


「ねえ、大丈夫? 変な、味とかしない?」


 ちゅう。


「ッ、強弱で返事しないで頂戴……ん」


 ちゅうちゅう?


「い、や……じゃ、無いけれど、すごく、恥ずかしいのよ……でも、そう……不味くないのなら良いわ。ドラゴンレバーみたいな味がするとか言われたら、ショックだもの」


 ちゅっちゅっぢゅ。


「ィ、ぁやぁッん! ど、ドラゴンレバー、知らない、のなら……別に、良いけど、ぁ!」


 溶けてしまいそうな快感が、右胸から全身に広がっていく。全身が火照り、活発になった代謝作用で記憶に無いほどの汗が肌に浮いた。

 空いた左胸にもムネヒトの手が伸び、下から掬い上げるように揉み上げられた。

 完成したばかりのプリンに同じことをしても、傷一つ入らないであろう繊細すぎる力加減。時計回りに乳房をほぐされ、甘い吐息を漏らす要因が一つ増えた。

 ツキンと、親指と人差し指の間にある左の乳首が、右胸を羨み切なく疼く。


 ――反対も、


 アメリアは言い出せないでいた。自分からおねだりするなど、はしたなすぎる。

 でも、ムネヒトだって悪い。右ばかりをペロペロチュパチュパ味わうばかりで、左の方はほとんど手付かずだ。

 私の気持ちを汲んで左右バランス良く愛してくれてもいいじゃない。

 とはいえ、やはり自分でいうのは恥ずかしすぎる。ムネヒトに引かれてしまったらどうしよう。

 情欲と羞恥の板挟みになったアメリアは、ふと隣から熱い眼差しを送ってくるジェシナに気づく。


「旦那様、ちょっとそちら側に寄って貰っても宜しいでしょうか?」


 ちゅちゅ?


 目があったジェシナはどう思ったのか、ムネヒトを右側に押しやり、アメリアの空いた左半身の近くへ自分も身体を横たえた。

 仰向けのアメリアは、ムネヒトとジェシナに押し倒されている形だ。


「――そうモノ欲しそうにされては、私も我慢の限界というもので御座います」


「え、え?」


 彼女の紺色の瞳に、未だムネヒトに与えられていない左の肉芽が映った。ウットリと花を愛でるようなジェシナの瞳には、隠しようもない情欲で濡れていた。

 いや、それよりも濡れていたのは、ジェシナの口から覗く赤い舌だった。


コチラは、お任せください――」


 理解する間も止める間もなく、左胸にジェシナがむしゃぶりついた。

 蛇が獲物を貪るように、ムネヒトのとは違う細い舌がアメリアの乳首に絡み付く。


「じぇ、じぇしな――あぁっ!?」


 秘書であり、また秘かに姉妹のように慕っていたジェシナから肉体を責められ、アメリアは衝撃と羞恥に鳴き声を上げていた。

 ムネヒトにとっても予想外の事だったらしく(しかし乳首はちゃんと咥えたままだ)驚愕に目を丸くしていた。


「……アメリア様のお胸……美味しゅう御座います……ん、チュル……少なくとも、ドラコンレバーとは似ても似付きません」


 わざとアメリアの羞恥を掻き立てるように舌や言葉を駆使して、若い少女の肉体をねぶり始めた。

 ピチャピチャとした淫音がジェシナとアメリアの接地面から奏でられた。


「あ、だ、だめ、ダメよジェシナぁ……! そんな、ぁはん!」


「申し訳ありません。実は私、アメリア様にこうすることが人生の宿願だったのです」


「妙な宿願ばかりじゃない貴女!」


 彼女の頭を押し退けようとするが、細い指はジェシナの頬と髪を不気味に撫でたのみに終わる。それが秘書の性感を更に煽ったのか、より一層淫らな水音を立てられてしまう。


 ――ぢゅぷ、ちゅ、ちゅる、ちゅ、ぢゅ。


「あ、あ、ジェシナ……ヤぁ……! 音、音立てないで……」


 アメリアの可憐な乳房へ絶え間の無い愛撫を与えながら、ジェシナは隣のムネヒトに紺色の流し目を送った。


「――――!」


 ムネヒトはジェシナの言いたいことを一瞬で理解した。自分も己の獲物に意識を向け直し、中断していた責めを再開した。

 舌に熱を込め、あらん限りの思慕をアメリアの肉芽へ注ぐ。既にムネヒトの舌先より熱くなっていた乳先は、更に奥へ吸い誘われ甘く尖っていく。


「ッんん――! ムネヒト、!? あ、ま、待って……二人で、二人では、ダメよ! ダメ、ったらぁ……!」


 アメリカは身悶えし、腰をくねらせた。しかし彼女は元より非力だ。体重が乗っていないとはいえ、二人をはね除ける力など無い。

 されるがままに左右の乳房を等しく……否、それぞれの個性からか、不平等に責められるだけだ。

 涙で潤んだ瞳を下に向けると、ムネヒトもジェシナも自分の胸に夢中になっていた。

 己の肉体に人が密着しているという光景が、何処か非現実的なモノに思えた。


「あ、っ、ぁあ――ッ!」


 だが、紛れもなく現実だ。

 右胸のムネヒトは余り音を立てずに、細心の優しさを以て乳首を啜っている。時々、軟らかい舌先で舐め上げられる度にアメリアは声を震わせた。

 左のジェシナは逆に高速で舌を乱舞させている。ピチャピチャと、きっと隣のムネヒトにも聞こえる程の大きな音を立て、主人の一部をなぶっていた。

 乱暴ではない。同じ女だからこそ知りえるツボを、ジェシナは知り尽くしていた。


(だ、ダメ……! このまま、じゃ……キちゃう! さっきの、気持ちいいのより、もっと大きい、の……!)


 脳裏によぎるのは、愛しい男に綺麗だと言われて気を飛ばしてしまった先程の感覚。

 アレより気持ちいいのが今度は大股で、しかも二人三脚でやってくる。

 二人のすぐ下にある肺腑が新しい酸素を得て、性感まみれのガス交換を行う。吐き出された呼気は声帯を震わせて、アメリアに生まれたばかりの雌の声を出させた。


「ぁ、やぁ、ぁ、っ、ッぁ、あ! はっ、はぁッん! ぁ、ぁ、あっ、ああ――!」


 海老反りになり腰が浮いても、2つの頭蓋はアメリアの双丘から離れない。

 呼吸が早く浅く、近くなっていく。肉体に蓄えられた媚電流が全身を巡り行き場を探していた。逃げ場など元より無いのみか、胸の先端からは新たな燃料が供給され続けていく。


 ムネヒトもジェシナもアメリアの痴態に気が付かない。

 二人はアメリアのおっぱいに奉仕することと、隣の異性に意識を集中していたからだ。


(いったい彼は、どれ程の研鑽を積んできたというのですか……!)


(本当に何者だこの秘書……どうやって、アレ程の絶技を!)


 互いが互いの技術に触れ、瞠目した。自分とは違う発想、自分とは違うおっぱいへのアプローチ。

 それを知らぬ間に見せつけられ、また教えられ、ジェシナとムネヒトは自然に練磨も積んでいく。


「ちゅちゅ(――教えて下さい)」


 舌で乳先を押し潰しながらジェシナは問うた。


「ちゅ?(なに?)」


「ちゅ、ちゅちゅ。ペロペロ、ちゅバッ。チロチロ――ぢゅぷ。ぢゅぷ。ちゃ、ぅぅ、るる(旦那様は一体どのようにして学びを得たのですか? 殿方は皆、おっぱいが好きと聞き及んでおります。しかしながら旦那様のソレは、ただ好きなだけで行き得る境地では御座いません)」


「んちゅちゅ。はム、ん、ぢゅ、ぢゅぢゅちゅ(……大した事はしてない。俺が口技のトレーニングで普段している事といったら、サクランボの茎結び百セットと舌回し体操を千回くらいなもんだ)」


「ちゅっ、ちゅる?(……それだけ、ですか?)」


「ちゅ。ちゅちゅ、ちゅる(それだけだ。ただし15年以上、一日も欠かした事がない)」


「(……!)」


 ジェシナは何度目かの戦慄を覚えた。

 女にとってもそうだが、いつ異性と出逢い肉体関係を結べるかは不明だ。

 もっと端的に言うのなら、いつおっぱいにありつけるかなど分かりやしない。

 目的地の見えない目標ほど、残酷な歩みは無い。

 しかしこの男は歩いて来たのだ。叶うか分からぬ願いを胸に、彼は頂き乳首を目指した。

 座学のみでこの境地に至ったというのなら、それはもはや狂気だ。努力という言葉で片付けて良い話ではない。


「ちゅちゅるるる(俺にも聞かせてくれ)」


「ちゅん、るる。プはっ――(ええ、なんなりと)」


 根本を時計回しに舐め回しながらムネヒトもジェシナに訊ねた。


「はぶ、はぶ、はぶ、ん、じゅ、じゅるぅ(貴女の技は女に対するモノだ。野郎の胸に対しての技じゃない


「コロコロコロ……(……)」


「ペロペロペロ……はむはむ、ぱくっ、ん、ぢゅぅぅぅ(アメリアを慕っているという気持ちが俺にも伝わってくる。けど、同じ女だからってだけじゃソレほどの技は生み出せねぇ。、何処で訓練した?)」


「じゅる、じゅるぅぅぅ(……訓練など、しておりません)」


「んチュ?(は?)」


「ぴちゃぴちゃ、じゅる、んク、んククっ――ぷはぁ(ただアメリア様の事を想いながら、どうすれば喜んで頂けるかを想像して居ただけです)」


「ちゅぽっちゅぽっちゅぽっ、じゅ、ぅぅるる(……想像と実戦は違う。イメージトレーニングが大切なのは間違いない無いが、それだけじゃ説明できない)」


「ペチチチッチ(幸い教材には恵まれていましたから)」


 訝しむムネヒトの前で、ジェシナは半身になりアメリアの乳首から口を離す。一瞬、水塗られた桃色に意識を向けたがムネヒトは秘書の動向を見守った。

 秘書は半身のまま、空いていた手でシャツに包まれていた自分のバストを持ち上げた。

 下着など着けていないのか、あるいは柔らかい素材のナイトブラか、張りのあるJカップは主の手で大きくたわみ、ツンとした頂点を自分にもムネヒトにも見せつける。

 その先端は、持ち主のジェシナが少し舌を伸ばすだけで簡単に届く距離にあった。


「(があります)」


「(――! なるほどな……!)」


 自分達は対極であり、よく似ている。

 ムネヒトはあらゆるおっぱいに満足して貰うため練磨を重ねてきた。

 逆にジェシナは、ただアメリアの為だけに自分の肉体を使った自慰鍛練を積んできた。


(負けねぇ……!)


(負けません……!)


 隣に座すは無戦錬磨の怪物。共にアメリアの頂を貪る、またとない好敵手。

 ならば自分は、彼だけには、彼女だけには負けるワケにはいかない。


((アメリア(様)のおっぱいを、気持ち良くするのは俺(私)だ――――ッ! うぉおおおおおォォォぉぉぉぉぉぉ!))


 譲れないものが二人にはあった。おっぱいはシェアしても、最強の座だけは渡さない。


「やぇ、やめぇぇぇぇぇぇえええ♡ もうやめてぇぇぇぇぇぇぇえええええ♡ 胸が、むねがぁぁ、バカになっちゃうぅ♡♡ 熔けて、無くなって、ぜんぶ、二人にぃっ、いやぁ、もう食べないでぇぇぇぇ♡♡」


 アメリアの訴えは、二人の耳を通過することが出来なかった。

 最後にムネヒトとジェシナは全く同じタイミングで口をすぼめ、全く同じ強さで彼女の乳芽を啜り上げた。

 二条の性悦は指向性を持ってアメリアの最奥に至り、全身で弾ける。


「ひゃ、っ――ぁんぁあ――♡♡ ぁぁぁあああぁあっッアアぁぁぁあああ♡♡」


 今宵最大級の怒涛が、アメリアの性神経に打ち寄せた。

 シーツの下で、ムネヒトとジェシナの肉体を持ち上げるほどの勢いでアメリアの腰が跳ねた。

 ゴッデスサイズを波打たせ、観客に徹していたコレットに小さな悲鳴を上げさせるほどの衝動。ガクガクと全身を震わせたアメリアは、一瞬だが意識を完全に手放す。

 限界まで持ち上がっていた乙女の肉体は、糸の切れた人形のようにベッドに手足を投げ出してしまった。


 それをに、ムネヒトとジェシナは己の土俵から顔を上げた。唾液でトロリと唇と乳首の間に銀の橋を作り、汗で張り付いた前髪を掻き上げ、息を整える。

 二人は美しい上半身を完全に晒すアメリアに視線を落とす。

 もはや肢体を隠す余裕もないらしいアメリアは、半開きの瞳と口から涙と涎の跡を何本も作り、また張りのあるバストの頂上、限界まで赤く染まった両胸の先からも同様に、涎の川がシーツへと流れていた。


「……引き分けだな」


 紺色の髪が横に揺れた。


「いいえ、私の敗けです。旦那様は初志一貫、アメリア様の乳房だけを愛でておりました。ですが私は――」


 言ってジェシナがシーツを捲ると、彼女の脚がアメリアの脚に絡み付いているのが見えた。膝がちょうど、アメリアの股座に押し当てられているのが見える。

 気のせいで無ければ、ジェシナの膝は何かの液体でべったりと濡れて肌を透かせている。


「……だったら、俺の敗けだ。おっぱいばかりに気を取られ、別のアプローチを思い付かなかった。視野狭窄を起こしたと言って良い」


 どちらともなく不敵に笑い合い、互いの健闘を讃えた。

 そしてチラと、余韻に震えている金髪の美女へもう一度目を向けた。

 涎と汗でベトベトになってしまったアメリアの乳房は、それでも一切の魅力を失っていない。

 ゴクリと、喉を鳴らしたのはどちらが先だっただろうか。

 秘書のジェシナが指を伸ばし、ムネヒトが貪りついていた側の乳首を指で弾く。


「旦那様、いかがですか? 公正を期すために、左右を入れ替えてもう一戦というのは?」


「その言葉が聞きたかった」


「ぶらすとぶろぉ!」


「ぎゃっ!?」


「わんっ!?」


 下からの両鉄拳に、友と共倒れにベッドから転げ落ちた。


「バカじゃないのバカじゃないの! 何なの二人して! 人の胸をオモチャにしないで欲しいのだけれど!」


 復活したアメリアはシーツで身体をくるみ、顔を真っ赤にしてどなり散らした。もっと何か言ってやりたかったが、未だに頭も全身もフワフワとして上手く言葉を作れなかった。


「私だけじゃなくてレティにも出したらどうなの! ずっと放ったらかしじゃない!」


 急に注意を向けられ、オレンジ色の髪をした女性は身体をビクつかせた。

 見れば彼女は半脱ぎだったシャツの袷を閉じ、身体を隠すようにしてムネヒトから距離を取っている。


「あ……っ」


 そんな怯えるような、また恥ずかしがるようなコレットの仕草に、ムネヒトは普段なら押さえ込める筈の欲望の猛りを覚える。

 既にアメリアのおっぱいで彼の欲情は限界まで高まっていた為、コレットの肉厚なおっぱいにも興味津々だった。

 彼はベッドの上を膝で進み彼女に近づく。


「コレット……」


 更に言うなら、既にこの場において【非乳三原則】は失われていた。


「だ、ダメよ、オリくん……!」


 ムネヒトに肩を掴まれたコレットは弱々しく首を振った。

 その態度に不審を起こしたのはアメリアだ。今回の夜這い、誰よりもノリノリだったのは他ならぬコレットだ。

 勢いに乗じて、またアメリアの思慕も推進材にして彼と一夜の思い出を作ろうと息巻いていたのに、どういう心の変化が有ったのだろうか。


 ・


「ダメ、私は良いわオリくん……アメリアちゃんに構ってあげて」


 コレットはシャツの袷を強く握り、ムネヒトの視線から肉体を庇った。

 とても彼に見せられる身体ではない。とうに純潔など失って汚らわしい肉体では、この人に愛される資格がない。

 アメリアは穢れのない花だ。

 秘境でひっそりと咲き誇り、たどり着いた冒険者に向かって、精一杯に花弁を拡げる可憐な一輪。

 対して自分はどうだ。

 手折られ踏みにじられ、それでも往生際悪く花の形を保つツギハギ。

 シャワーを浴びても、上等な装飾品で着飾っても、未だ身にこびりついた男達の爪痕。


「わ、私みたいに、汚い女なんて……見ないで」


 恥ずかしかった。悔しかった。

 彼に愛されるべき身体は、とうの昔に失っていたのだ。

 こんな体たらくでムネヒトに悦んで貰おうなど、とんだ思い上がりだ。誰が好んで草臥れた女などを抱くものか。


「……レティはそう言ってるけど……ムネヒトはどう思う?」


 シーツにくるまったまま、アメリアがムネヒトへ顔を向けた。黒髪の青年はむしろキョトンとしていたが、俯いているコレットへ向き直ると、もう一度肩へ手を置いた。


「……俺さ、自分で言うのも何だけど、運の良い男なんだよ」


「……え?」


「生まれてこのかた、汚い女とやらに会った事無いんだ」


 何を言われたのかしばらく分からなかった。

 理解した瞬間、胸の奥に温かい物が広がっていく。凍っていたコレットの聖域に木漏れ日が差したようだった。

 肉体ばかりが育って、置いてけぼりにされていた心へ、今ようやく手が差し伸べられたのだ。

 ただの言葉かもしれない。けれど、彼の言葉に嘘は無かった。

 初めて逢った夜、コレットを助けた時のままのムネヒトだ。

 彼女の頬を、先ほどまでとは違う種類の涙が流れていた。

 今までの男達と同じ尺度でムネヒトを図っていたという気恥ずかしさと、歓喜が流させた涙だった。


 結局は自分もアメリアと同じだった。愛しい相手に綺麗だと言って貰いたかったのだ。


「わ!? わわ、スマン! まさか泣くなんて思わなくて! いやよく考えたらコレットの苦労とか知らないのに『俺、運の良い男なんだぜ(キリッ)』とか、ちょっとデリカシー無かったな! あ、そうだ、この前とある公爵家の令嬢と話したんだけど、ダークエルフの乳首が白っぽいピンクに見えるのは、冷水浴びた後はぬるま湯でも熱く感じる現象と同じなんじゃないかって結論に――」


 何を勘違いしたのか、ムネヒトはしどろもどろになりながら謝罪と雑談を話し始めた。後ろでは、ジェシナとアメリアがやや渇いた視線をムネヒトに送っている。


「……旦那様。せっかくカッコつけたのですから、最後まで維持して下さい」


「ジェシナ。魚は空を飛ばないモノよ」


 二人に突っ込まれ、ムネヒトは「トビウオだって要るし……」と拗ねた。


「――ぷっ」


 何もかもバカらしくなり、噴き出してしまった。

 ムネヒトがムスッとした顔を向けてくるが、此方と目を合わせた瞬間に黙ってしまった。


「……私、魚は好きよ。レティは?」


「うん、好き。大好き」


 鈍感らしいムネヒトでも、流石に伝わったらしい。

 コレットは自分に出来る精一杯の気持ちを瞳に込め、彼の前でバストを揺らした。

 ゴクリと男の喉がなり、瞳に情欲の火が入る。


「……コレット、あのさ……」


「……ん?」


「おっぱい、見て良い?」


 頷く代わりに、コレットは自らの指でシャツのボタンを外していった。

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