朝の日課

 

 ガツンと、手から樫の木剣が弾かれて飛んで行く。

 その行方を見届ける前に、俺の目の前に木剣の切っ先が突きつけられた。


「……参った」


 諸手を上げて潔く降参する。言い終わると同時に、木剣が牧場の柔らかい土に突き刺さる音がした。


「どうした? 隙だらけだったぞ?」


 赤い髪の勝者は剣を下ろした。額に浮いた玉のような汗を拭い、呆れるようなからかう様に笑う。

 彼女は王都を守る第二騎士団の副団長にして、このB地区一番の新参、メリーベル・ファイエル・グレイだ。

 年齢は19歳、92のFカップという見事なバストの所持者だ。


「お前ほどじゃねーよ……」


「ん? 今なにか言ったか?」


「いいえ特に何も」


 落ちていた訓練用の剣を拾い、土埃を払った。

 メリーベルは怪しむような目をしていたが、その気配も直ぐに無くなり、木陰に置いていた牛乳瓶へ口を付けていた。

 俺もそれなりに上達してきたと思うが、まだまだメリーベルにもリリミカにも及ばない。今も実戦形式で仕合ってみたのだが、為す術なく完敗。

 でも、言い訳をさせて欲しい。

 目の前でチラチラプルプル……集中出来るわけないだろ。


 何がって、もちろんおっぱいですよ。


 流石に寝巻きから動きやすい格好に着替えてはいるが、彼女の格好はちょっとどうかと思う。

 上半身はチューブトップに肩紐の細いタンクトップを着ているだけであり、下半身は太もも丸出しのホットパンツだ。


 おっぱいを丸く囲うだけの赤いチューブは、見てるだけでハラハラしてくるし、もともと丈が短いのか乳房に引っ張られているのか、タンクトップの裾はヘソやウエストを隠そうともしない。

 オマケに激しい動きの中ではおっぱいバルンバルンだし、チューブトップも直ぐにズレる。

 その度に「少し待て、ちょっと位置が……よし、もう構わんぞ」ってパイポジを治すメリーベル。

 これで集中できるとするのなら、ソイツはお釈迦様の生まれ変わりだろう。もちろん俺は違う。


「こらー! だらしないぞー! たまにはベルんから一本とって見せろー!」


「うるせー! 邪魔すんなら、飯の支度でもしとけ!」


 離れたところから楽しそうにヤジを飛ばすリリミカも大概危険だ。

 亜麻色の短い髪に猫のような水色の瞳。快活な美少年のようにも見えるが、彼女はクノリ家という王国最大級の大貴族の次女だ。

 例によって薄いキャミソールに、ナイトウェアのショートパンツ。水着の如き露出だが、水着は肌に密着しているからまだ安心だ。


 ノーブラにキャミソールという鬼に金棒的なコンボは、童貞だろうが非童貞だろうがことごとく狂わせるに足る。

 最近朝でも暑くなってきたから汗でも透けてしまうし、ちょっとした拍子に胸の形や、その先端が上の方や裸の脇の方から見えそうになる。

 なにお前、チラリズムを極めようとしてんの?

 この間なんて、突風でリリミカのキャミソールが捲れてしまい、それに気を取られた隙にメリーベルの一撃を脳天に受けてしまった。


 結果、乳首の目撃も勝利も得られなかった。ちくしょう。


「ムネヒトさーん! がんばってくださーい! 前より、ずっと上手になってますよー!」


 そんな応援をしてくれるのは俺の女神、ミルシェ・サンリッシュだ。

 栗色の髪と琥珀色の優しげな瞳をした少女。このサンリッシュ牧場の一人娘で、先日17歳になったばかりだ。

 彼女らの中では最も露出が少なく、寝巻きは薄い黄色の長いシャツに長いパンツだ。全く以って健全である。

 しかし、露出の度合いが必ずしも色気に比例するとは限らないらしい。


 シャツの一番上のボタンが閉まらずVの字に肌を見せ、二番三番四番のボタンの隙間から肌色の谷間が見えている。

 105センチのMカップという、あまりに豊穣なバストは狭い布の牢獄を蹴破らんばかり。ボタンとボタンの間が数字の8を連ねているように見える。

 更に腕を振ると例によって裾が捲れて、白く艶々したお腹がチラリズム。V88と来ておヘソ。なんの暗号だ。


 まだ太陽も山肌から離れ切らない早朝、メリーベルの日課である素振りが終わった後に俺は彼女に剣を習っていた。

 格闘術(と呼べるほど整然とした物かはともかく)はバンズさんに手ほどきを受けていたが、剣の扱いについても知っていた方が良いと云う事になり、メリーベルやリリミカから基礎を習うようになった。

 特にメリーベルはリリミカの剣のコーチでもあったし、ほとんど毎日のように共に剣を振るう事になった。


 余談だが、魔術も習ってみたいと口に出したところ一悶着あった。


『魔術だったら、最初に氷系統から覚えた方が良いわよ! 氷ってのは、水魔法の親戚みたいなもので、いざと言う時は川から綺麗な水をろ過したり、直接魔力から生産したりして飲用する事もできる優れものなんだから!』


『なるほど……水は大事だもんな』


『それに、氷の眷属をビュンビュンとばして戦う近接戦闘系とか、万能じゃない? カッコよくない?』


『か、カッコイイ!』


『待て。バリエーションの為に魔術を覚えるのは賛成だが、まずは炎魔法を叩き込むべきだ。魔術の心得が無い者でも覚えるのが比較的容易だし、この間の狩猟祭だって、焚き火や食事に困らなかったのは火に依る所が大きいだろう?』


『だな……夜は暖かかったし、弱いモンスターなら寄って来なかった』


『それに、お前には両鉄拳に炎を纏わせて戦うスタイルが似合うと思うんだが、どうだ?』


『…………嫌いじゃないぜ!』


『いやいや、どう考えても氷でしょ! 長所を高めるより、弱点を補う方がより高いレベルで活躍できるんじゃない? 遠距離や防御面を強化するのが先だと思うけど?』


『素人のムネヒトに、最初から器用さを要求する魔術を教えても負担になる。その点、火は灯すだけでも威力を発揮できる』


『……』


『……』


『……あの、二人とも?』


『……こうなったら、ムネっちにどちらが良いか訊いてみようじゃない』


『良いだろう。だが、尋ねる意味はあまり無いと思うがな』


『奇遇ね、私も同じ気持ちよ』


『……………………』


『さ、氷魔法? それとも炎魔法あっち? ベルんを気にせずに言いなさいよ』


『遠慮せずハッキリ言うといい。なに、私も後でリリミカにフォローしてやるから』


『…………あ、そうだ。サンダーブラザーズに師事して雷魔法は――』


『『は?』』


『――は、最後で良いかな。うん』


 俺がひよった為この話は流れた。二人とも自分の得意な魔術に対する意地があるらしい。


「そろそろ朝食にしますよー!」


 落ちた木剣を拾い、もう一度と構えたところで別の声がする。バンズさんと一緒に朝飯の支度をしていたレスティアだ。


 こちらのだらしない格好に比べ、彼女は既にきちっとした仕事着……第二騎士団事務員の格好だ。

 白いシャツを内側から押し上げる膨らみは、贋物と分かっていても一瞬目を奪われる。

 この偽りのGカップは、いったい何人の男達を色んな意味で勘違いさせたのだろうか。意中の人バンスさんに近づきたいが為の努力とはいえ、そう思わずには居られない。


 彼女はリリミカの実妹でありクノリ家の長女だ。リリミカとの歳の差は十ほど、身長差は数センチ、バストは同じ78のBカップ。遂に妹に追い付かれたと、嘆いていた。

 最近は伸び悩んでいるのが、俺とレスティアの悩みでもある。

 何か良い手は無いものだろうか。


「どれ、此処までだな。ムネヒト、あー……だから少し待っててくれ」


 剣を下ろし、彼女はやや顔を赤らめて言ってきた。


「……ああ、分かった」


 事も無げという風に言う。演技力もだいぶ達者になってきたと思う。


「ちゃんと10分だけだからね? 昨日しなかったから、今日は倍とかも無しよ?」


 リリミカがそう注釈し、ややジト目でミルシェの方を見た。ミルシェの方は視線を逸らし鼻歌を口ずさんでいた。


 ・


「じゃ、始めるぞ」


「う、うむ……」


 メリーベルと俺は温泉で軽く汗を流した後、例の休憩室で床几しょうぎに腰掛けていた。

 別のスポーツブラにタンクトップを纏っただけの簡素な姿だが、それでおっぱいの魅力が減衰されるわけも無い。

 もじもじと小刻みに座りなおすメリーベルに、俺は今日も心と涙腺を引き締めて手を伸ばす。


「ぁ、ん…………」


 メリーベルへの施術は、ミルシェ、リリミカ、レスティアのソレとは少し違う。

 彼女は未だに俺を心臓の神と勘違いしているらしく、ある意味においては他の三人より胸を触られることへの抵抗が少ないみたいだ。

 それでも恥ずかしいのだろう、メリーベルは瞼を閉じ瞑想のように息を沈めた。

 注射で針の刺さる瞬間を見ない子供のようにも見えるが。


 また、俺も理性やらなんやらを発揮して無理に我慢する必要は無い。

 心臓と最初から決めているのだから、おっぱいではなくその付近に触れれば良いからだ。特に右胸に関してはいっさいノータッチ。

 可能な限り乳肉に触れないように、鳩尾から少し上に胸の中心……やや左の下乳付近へそっと手を添えた。

 そのまま右手でメリーベルの左おっぱいを持ち上げるように、親指が胸の谷間に下から進入し、人指し指のラインで下乳のラインをなぞる様に押し当てる。

 ぷもんと左胸が右胸より高くなり、タンクトップに斜めの皺を新たに生んだ。

 トレーニング上がりだからか朝風呂上がりだからか、メリーベルの肌はじんわりと熱い。

 おっぱいの重さを意識しないように、俺は『乳治癒ペインバスター』を発動する。


「ん……っ」


 とはいえ心臓に近い肌に手を乗せると、どうしても乳房に触れてしまう事になる。更に言うなら、メリーベルのおっぱいは92のFカップというかなり立派なサイズだ。

 一度、無理にどけようとしてメリーベルに自分でおっぱいを持ち上げてもらったのだが、持っていた箇所に問題があったのだろう、ある拍子にチューブトップからポロリと零れてしまった。

 慌てて目を覆って難を逃れたが、危うく乳首を見てしまうところだった。


 【第二次ポワトリア王国和乳条約】(メリーベルが加わってしまったから第二次)の他に、俺は自分に課した条件が有る。

 いつかリリミカとの時も話したが、俺は乳首を封印した。まあ犯罪者やハナ達は例外だ。つまり、人間の女の子のおっぱいに対してだけ。

 その決まりをより厳密にした物が俺の新しいルールだ。


 名付けて『非乳三原則』。書面にも起こしていない俺の胸の内だけにある不文律。

 単純に言うなら、おっぱいを『見ない』『触らない』『吸わない(舐めない)』である。馬鹿かという謗りは甘んじて受けよう。


 しかし、医者がそうであるように例外はある。

 緊急を要する事態ではその規則を犯す事もあるだろう。先日のメリーベルは毒グモに噛まれ生死の境をさ迷ったが、俺の『乳治癒』で事なきを得た。

 あの時は俺も無我夢中だったので、どうか大目に見て欲しい。乳首じゃなかったし。

 仮にどうしても要乳首なら服の上からでも良いし、レスティアの為に考案した手放し乳揉みでも良い。


 でも、乳首を吸わなきゃならない緊急事態などあるだろうか? マニア向けの成人動画ではあるまいに、口で健康状態を確かめようなんて、ちょっと非常識だ。

 実は俺が浅学なだけかもしれないが、とにかく個人的な倫理観から認めてしまうわけにはいかない。


 全て破った者は今のところミルシェだけ。この『非乳三原則』は、あの夢のような夜を過ごした後に決めたものだ。

 都合が悪いたびに条約を増やす駄目な政治家みたいで情けないと、少し思う。

 これ以上は増やすまい。リリミカやレスティア、メリーベルのおっぱいは一時的に俺の庇護下に置かれているだけ。

 レスティアは置いとくとして、いつかは彼女たちもイケメンで性格も良くて頭も冴えていて腕っ節も強くて以下略。


 だというのに、そんな少女達のおっぱいを先んじて味わうなど言語道断。

 彼女達とそのおっぱいに感謝しつつ、敬意と愛情を以って育乳する。まだ見ぬ素敵な恋人達の為に預かっているのだ。

 貯金ならぬ貯乳というやつだ。金利は弾む。胸だけに。


 万が一この『非乳三原則』を全て破ってしまった場合、俺は生涯を賭けて相手とそのおっぱいに尽くすと誓っていた。


「まったく……つくつぐ、見事なスキルだ。たった十分程度の間に、あらゆる疲労や傷を癒すのだからな……最近は肩凝りも筋肉痛も無い」


「大袈裟だな。コレくらいは普通の治癒魔術でも可能なんじゃないか?」


「怪我と毒、更に体力や魔力を同時に、しかも回復させる魔術など私は他に知らん。おまけに、何人にも休息なしで使える事から魔力燃費も良いらしい」


 やはり神の行使する力とは、原理からして人の常識に納まらないのだなと、メリーベルはやや赤い顔で呟いた。

 そう言えば、魔力を消費する感覚というのが分からない。

 体力はスタミナや生命力として説明できるが、魔力はどう使うんだろうか。狩猟祭で何度も使ったが、特に疲れたという自覚は無かった。


 仮に俺のおっぱいスキルで魔力を使うものだとしてら、ミルシェに一晩中使い続けて一切の疲労なしだった事は流石に変だ。

 むしろミルシェの体力、魔力、経験値など、どう読めば良いか分からないくらいの桁で蓄積されていた。


 経験値に関しては、経験値を『行動に費やした時間的、労力的エネルギーの総合』と定義するなら、ギリギリおかしくは無い。

 あの時のおっぱいに対する経験値情熱が全てミルシェへ流れ込んだとするなら、膨大な経験値は俺のおっぱい愛の裏返しとも言える。(それでも全て還元されること無く、何割かは最悪の形で暴発したわけだが)


 では体力や魔力はどこから来た?

 日頃からモンスターやならず者達とかでコツコツ貯蓄してはいるが、あの膨大な量はちょっと説明できない。

 しかも、余剰分として貯めていたそれらは、ほぼ手付かずで残っている。

 無から有を得るのは果たしてあり得るのか。


(俺はおっぱいを見るだけで元気になるような気がしていたが、実は気のせいじゃなかったのか?)


 ありそうな話だ。おっぱいは見るだけで幸せになれるし。まあ、ミルシェに『おっぱい吸って良いですよ?』的なこと言われた時は、逆に嬉死にそうだったけど。


(っ、いかん……!)


 ざわと、そこで俺の欲望が鎌首をもたげる。石鹸の匂いに混じっている林檎のような香りがそれを加速させた。

 生おっぱいを知ったからといって、落ち着きとかに繋がるとは限らない。むしろおっぱいの魅力を更に深く知ってしまったが故に、好奇心や性欲を激しく刺激される。


 メリーベルのおっぱいは、どんなだろう、と。

 下着を脱がした後は、どんな形にたわむのだろうか。中心の3.1㎝はどんな色をしている? 先端はどんな形をしている? どんな感触だ?

 ここを触ったとき、メリーベルはどんな声を上げる? どんな指触りだろうか? どんな舌触りだろうか?


 俺は慌てて、空いていた左手を自分の左胸に当てる。

 自身に『奪司分乳テイクアンドシェア』発動させ、沸きあがったスケベ心を剥奪する。

 途端、煮えていた脳細胞がクールダウンしていく。強制的に賢者モードになれる俺の秘策だ。


(やばかった……最近、限界に達するまでのペースが速くなったような気がするな……)


 三人から四人に増えたのも理由だろうし、ミルシェとの経験も影響しているのだろう。

 俺は性欲の捌け口にする為に、皆のおっぱいを触っているわけじゃない。しかし、どうしても邪な感情を捨てきれないでいた。


 だが、このセルフ『奪司分乳』なら心配は無用。溜まった性欲も経験値として還元し、分離保存できるので一石二鳥だ。

 おっぱい熱を内部ストレージから外部ストレージに移動させ、気分を冷ますことが出来る。便利なスキルだ。

 一人うんうん頷いているうちに、十分タイマーが鳴り響いた。

 名残惜しさを盛大に感じながら手を離す。

 メリーベルは大きく深呼吸し、閉じていた目を開ける。


「ふう……今日も完璧な体調だ。有事の際に、お前さえ居れば不眠不休でも戦えそうだな」


「それは余程のときだけだ。疲れは無いとしても夜はちゃんと眠れよ」


 ボクシングの世界チャンピオンが一般人の十倍のスタミナを持っていたとしても、睡眠時間が十分の一で済むはずも無い。しっかり寝る事は大事だ。


「手間を取らせたな。後片付けは私がしておこう。着替えもあるし、お前は先に戻っておけ」


「そうか、悪いな」


 後片付けといっても床几の並びを整える程度だろうし、すぐにメリーベルもやってくるだろう。

 俺はまだ顔の赤いメリーベルを置いて、休憩室を出る事にした。

 一歩外に出た時は、既に今日の朝食の献立を考えていた。『奪司分乳』サマサマである。


 ・


 ムネヒトが去った途端、私は両腕で体を抱くようにみじろいだ。


「くっ……また、か!」


 そして下着と乳房の間に指を入れて隙間を作り、肌と擦れないよう慎重に捲り上げた。

 ジンと火照っていた両胸の先端が外気に冷やされ、ようやく少し落ち着いてくれた。

 それでも自分で見るのも恥ずかしいほど、物欲しげに屹立した私の一部は容易に収まってくれない。特に彼の触れていた左側が顕著だ。


「なんと浅ましいのか……神の手を患わせておきながら、この体たらく……」


 このB地区に身を置くようになってから、早二週間。それはつまり、日課である神の恩寵の儀を賜るようになり、二週間ということ。

 最初の頃はかなり緊張した物だ。そういう行いで無いにしても、恥ずかしいモノは恥ずかしい。


 しかも妙に、こう、ムズムズというか、ドキドキというか、形容しがたい感覚が乳房に蓄積していく。

 日に日に増大していくこの感覚は、ムネヒトの施術直後が最も昂っている。

 これをどう解消したものか、まさかムネヒトに相談するワケにもいかないので悶々としている。我ながら情けないやら浅ましいやら。


 ムネヒトは『メリーベルが嫌なら止めるぞ』と言っていたが、神の祝福を拒むなど私には出来なかった。

 やがて【神威代任者】に至るための試練とすれば苦にはならないし、その、特に……イヤって訳でもゴニョゴニョ。

 それに、リリミカやレスティアさんにサンリッシュの娘も、毎日この儀式を行っているというのだから、何となく対抗心を駆り立てられた。

 だが。


「よく皆は平気でいられるな……私はこの十分でこのザマだというのに……」


 慣れというものだろうか、私には当分無理そうだ。

 自分の女の部分を、神とはいえ若い男に任せている事実。一月前の私には理解出来ないに違いない。

 あるいはこれも成長か? と思うと、苦笑いを浮かべてしまう。


「さて、あまりぐずぐずしていると妙に思われてしまう。急がねばな」


 剣にも騎士にも邪魔な膨らみを下着に収める。まだくすぐったい気もするが、もう常の状態と大差ない。

 ふと心臓側……ムネヒトが触れていた箇所に手を重ねてみた。

 彼の温もりがまだ残っている気がする。吐く息にもそれが伝播したのか、やけに熱い。

 今ふと頭をよぎったは心臓のこと……ではなく、逆の右胸のこと。二週間、一触れもされていない側。


「……っ!」


 慌てて頭を振り、沸いた邪な考えを振り捨てる。

 馬鹿な、何を考えているか。

 私はいそいそと備え付けていた衣服を纏い、椅子を並べ直して休憩室を出ていった。

 反対側こっちにも触れて欲しいなどと、一切思っていないと自身に言い聞かせながら。

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