王都へ
異世界での最初の朝を迎えた。
「牛舎の掃除からだ! 俺は餌を運んでくるから、道具を準備しとけ!」
「はい!」
酪農家の――一人は素人だが――朝は早い。太陽が山の向こうから空を照らす時には既に俺たち三人は起きていた。
光源は一方からのみなので太陽は一つのようだ。そういえば月を見てなかったな。
「ムネヒトさんまで早起きしなくてよかったんですよ~? お疲れじゃないんですか~?」
「大丈夫、ぜんぜん平気だ」
とは言うがぶっちゃけまだ眠い。昨日のマッサージで目が冴えてしまい、寝付いたのはベッドに入ってから随分経ってからだった。
それに対し身体にはそこまで疲れが残っていない。社会人一日目の時より間違いなく重労働だったのに、その時よりかなり楽だ。
「本当ですか~? 無理しないで下さいね~」
頷いて箒を持つ。特にミルシェの前では何かと無礼をしてばっかりだったので、少しでも役に立ち挽回しておきたい。
「よしサクサク進めんぞ! 朝と昼過ぎじゃ仕事の内容が違うから、分からんことがあるなら何でも訊け! ミルシェもなんでも教えてやるんだぞ!」
ミルシェの柔らかい返事を聞きつつ、二人の後ろから着いて行く。異世界二日目の始まりだった。
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「ぜぇ……ぜぇ……し、死ぬ……」
なんかデジャヴ。
朝日が完全に姿を見せたとき逆に俺は沈んでいた。
「今日も暑くなりそうだ……水はしっかり飲んどけよ」
「牛乳もいいですよ~」
バンスさんもミルシェもピンピンしてる。
「二人とも凄いですね……」
「ははは! そりゃあ俺らは年期が違う! それにお前のマッサージのお陰で今日は絶好調だしな!」
大笑いしながら肩をぐるぐると軽快に回す。
「こんなに体が軽いのはいつ以来だろうな。ミルシェはどうだ?」
「へ!?」
へ!?
「お前もムネヒトにマッサージされたんじゃねぇのか? 調子はどうだって訊いてんのよ」
冗談じゃ無かったのか!? しかも酔っても記憶を残すタイプらしい。待って下さい、今はその話をしないでくれ……場合によっちゃ追い出されてしまうかも……
「えっと……それは~……」
急に話を振られ答えに困ったのか、一度こっちを見た。顔が赤い。ヤバい絶対怒ってる。
「それよりもさ! 今日はどこに配達に行けばいいの!?」
「ん? 言ってなかったか? まずはだな……」
ミルシェはやや強引に話題を逸らした。俺は終始ハラハラしていた。
「……とまあ、今日はそれぐらいだ。騎士団へ行くのはお前らが帰ってきてからだな」
段取りを話し合い、仕事に戻る。
「ムネヒトも丁度良かったな。配達先に王都があるから、ついでに見てくるといい」
「え、あ……」
そういえば昨日ミルシェの配達について行けと言われていた。
つまりそれはミルシェと二人きりということで。
(どうしよう……気まずい)
連日、というかたった一日で重ねたセクハラは数知れず。
タイミングを見つけて土下座謝罪をしたほうが良いんじゃないか?いや、ただ頭を下げるだけでは誠意を見せているとはいえない。
「ついでにミルシェも荷馬車の使い方でも教えてやれ」
「うん、わかったよ」
彼女は何でもないように返事をしているが、女性の「なんでもない」とか「怒ってない」はアテにならない。鵜呑みにして恋人の機嫌を損ねる例はいくつもある。らしい。
「んじゃあそろそろ準備すっか。ミルシェはマルとウメを連れて来い。お前は俺と荷馬車に商品を載せるぞ」
「了解です」
ともかく仕事はしっかりしよう、これ以上心象を悪くするわけにはいかない。
・
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俺は手綱を握るミルシェの隣に並んで座り、荷馬車に揺られていた。ガタガタと舗装のされていない道を車輪が進むたび、積荷もガタガタ震える。何がと言わないがぷるんぷるん揺れる。
牛乳缶が十個近くに布でくるんだチーズ、バターなど山ほどある。荷物が沢山あるからか今日の牽引役はじゃじゃ牛のマルと、のんびり屋のウメの二頭だった。
「今日もいい天気ですね~」
「あの、昨日のマッサージは……」
「まずはエッダさんのところで牛乳とチーズを下ろして……」
「あの、昨日の……」
「それからモルブさんのお店に行くんですよ~。このお店は王都の外れにあって……」
「あの……」
「今日はお野菜貰えるでしょうかね~」
「……」
話題にするなってことね……「乳首痛くしてごめんなさい」とか言える筈も無いが、一言謝りたかった。だがこれは自己満足か。ミルシェが話したくないのなら、それに従うとしよう。
「王都ってさ、どんなところ?」
「その名前のとおりポワトリア王国の中心で、一番大きな都です。王様がお城を構えている城下町でもありますね」
大陸を真っ二つに分断する大山脈、その東側に位置するのが【ポワトリア王国】で、ほぼ中央に王都【クラジウ・ポワトリア】があると教えてくれた。
大山脈の西には世界最大の国家である【フラジェネア帝国】、王国の南には大運河があり近くには【オーロバラック自由貿易国】。軽く教えてもらうだけで色々な国があるようだ。
「ミルシェはどこか外の国に行った事ある?」
「いえ、私は王国を出たことはないですね~。おとーさんが騎士団にいた頃も、他国へも行くことは珍しかったそうですよ~」
「へぇ~……」
「そうだ。ムネヒトさんはどこの国から来たんですか?」
「うーん……地図に載ってない国だと思うけど、日本って所でさ」
「ニホン? 聞いたことないです……遠いんですか?」
「ああ、すごく遠い。それこそポワトリア王国って名前を知らなかったくらいに」
違う世界だし。
「長い旅をしてきたんですね~……」
「ははっ、そんなこと無いよ」
旅立ったのは昨日だ。
「いいな~……私も旅行とかしてみたいです」
ミルシェは空を見上げ気味に言った。
「いつか行けるよ。アカデミーには修学旅行とかないの?」
「あ! そうでした! 噂ではウチの学校の修学旅行はですね……」
そんな他愛の無い話を交わしながら道を進んいく。
幾つ目かの丘を登りきった時、大きな街が見え始めた。
「あれが、王都【クラジウ・ポワトリア】……」
遠くから見ても巨大な都と分かる。レンガや木で作られたらしい多くの住居、その中で最も大きく堂々と佇む城は王の居る所だろう。そして都全体を囲うような壁がある。
やがて牛車は王都の入り口へ着いた。
荷馬車が三台は並べるほどの幅があり、両脇に槍を真上に立てた門番がいる。高い壁に囲まれてた王都の入り口は全部で三箇所でいずれにも入国審査があるらしい。
俺たちも当然そこで止められた。
「お疲れ様で~す」
「おうサンリッシュの娘さんだな。今日も配達かい?」
「はい。積み荷は牛乳にチーズとバターで……」
とはいえミルシェは顔なじみらしく、ほぼ顔パスで通される。積荷のチェックも軽いものだった。
「そっちの男は?」
むしろジロジロ見られたのは俺だ。
「牧場の新人従業員です。昨日から働いてます」
「へぇ~……まあ構わんだろ。通ってよし」
ミルシェが俺の身分の保証をしてくれたが、警戒心は解いてくれない。俺達が分厚い門を完全に通過するまで視線を感じていた。
「しっかりチェックするんだな」
「帝国ほどじゃありませんが、王都の関所は厳しいんです。身分証明書や旅行手形が無いとまず入れません。ムネヒトさんはそういうのは持ってないんですか?」
「……持ってない」
「じゃあ今度、時間があるときに作りに来ましょう! おとーさんが後見人になれば簡単ですよ~」
ミルシェもバンズさんも良くしてくれる。特にミルシェは俺にいろいろされたというのに……ん?
【ミルシェ】
トップ 101㎝(K)
アンダー 65㎝
サイズ 3.4㎝
16年9ヶ月8日物
27%
好感度が上がってる……何故?
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