ボーイ・ミーツ・おっぱい

「本当に何て礼を言えばいいか……ありがとう……ムネヒト」


「いえいえ、ハナちゃんが元気になって良かったですよ」


 あれから俺はおじさん……バンズと名乗った牛飼いから感謝の雨あられを受け、更にハナちゃんにもベロベロ顔を舐め回された。彼女なりの感謝なのかな?

 ベトベトになった顔を布切れでゴシゴシしながら俺は荷台に座らせて貰っていた。

 失った血液も再生されたのか、積み荷を引くハナちゃんの脚は力強く頼もしい。

 是非ともお礼をさせてくれと言ってくれるので、お言葉に甘え彼の牧場まで連れていって貰う事になった。更には食事もご馳走してくれるそうだ。


「しっかし凄かったな! あんな高度な治癒魔法なんて見たことがねえよ! 若ぇのに大したもんだ!」


「ははは、お役に立てたのでしたら幸いです」


 治癒魔法か……ということは、この世界には魔法が存在するということだ。それに運搬に牛を用いていることから、科学技術の発展はそこまで進んでいないのだろう。なんというテンプレ。


「バンズさんも魔法が使えたりするんですか?」


「いんや、俺は全く使えん。アカデミーに通ってた訳でも無いし新たに覚えるにしたって、魔術書なんざ買えるもんかよ」


 貧乏酪農だしな! とガハハ大笑いをする。アカデミーに魔術書……教育機関や魔法の指南書みたいな物が存在するらしい。まだまだ知らないことばかりだ。


「さっきのは……盗賊でしょうか?」


「だろうな。クソッ! 今思い出しても腹が立って仕方ねぇ!」


「多いんですか、ああいうの」


「王都付近では稀だが、少し郊外になると途端に増えやがる。かつて程じゃねぇがな……そういやムネヒトは旅人か? だとしたら随分と治安の良い土地から来たんだな」


「ええ、まあ」


「それに素人の俺から見てもとんでもないレベルの魔法を使った。もしかして貴族や騎士団に所属してたりすんのか?」


「それは……えっと……」


 なんと答えたものか。あのスキルは女神から授かった……というか呼び覚まされたもので、そもそも魔法かどうかも怪しい。


「……いや、首をつっこんで悪かった。言えねぇ事情だって有るわな」


「そんな! 謝らないで下さい! ただ確かに特殊な状況の旅人というか……」


「良い良い! 恩人に対して無粋な詮索は無しだ! 俺の家に招待し、飯を馳走する! まずはそれで良いわな!」


 バンズさんは豪快で善良な人物だ。異世界に来て拾えた縁に胸の内で感謝する。そして豪快な性格に似合う立派な体躯をしている。

 身長は180を越えているだろうし筋肉の盛り上がりだって凄い。腕なんて女の子の太ももくらい有るし、胸筋なんて岩が入ってるみたいだ。


 ピコン


【バンズ】

 トップ 121㎝

 アンダー ー

 サイズ 2㎝

 42年4ヶ月11日物


「あれ? どうしたムネヒト、気分が悪いのか?」


「す、少し……荷馬車酔いかな? あはは……」


 ……スキルを制御する術を身に付けなければと、固く誓った。


 ・

 ・

 ・



 ややあって俺とバンズさんは彼の牧場へと到着した。

 緩やかな丘の上に佇む木で組み上げられたロッジの様な家に、やや離れて建てられている牛小屋。そして柵が等間隔に丘の原っぱを囲うように広がっていた。


「なんも無ねぇとこだが、ゆっくりしてってくれ!」


 荷を繋いでいた綱を解き、ハナちゃんを牛小屋に連れていきながら案内してくれた。


「お邪魔します」


 木製のドアを開け屋内へ。靴を脱ぐ文化では無いようで一瞬戸惑う。


「よし待ってな!」


 直ぐに裏口からバンズさんが、両手にやっとで抱えてくるほどの食べ物を持ってきた。

 丸い円盤みないなチーズ、繋がったままのソーセージ、長靴みたいな形のベーコン、瑞々しいキャベツ(?)みたいな野菜、長い焦げ色のパン、なにか液体の入ってるらしい鉄缶。

 それを手際よくナイフで切り分けたり、フライパンで炒め皿に盛り付ける。固い木のコップへ鉄缶を傾けると、注がれたのは牛乳だった。

 料理はものの数分で完成した。正確な時刻は解らないが遅めのランチだった。


「さあ食え! ちぎって焼いただけの雑な料理だが、味は保証するぜ!」


「いただきます!」


 芳ばしい香りに食欲スイッチが激しく連打される。意識しといなかったが空腹だったらしい。初の異世界飯に好奇心も刺激されていた。

 受け取ったフォークでソーセージを一刺し、そのまま口へ。


「――旨っ……」


 なんて陳腐な感想なんだ。自分には食レポの才能は皆無だと思い知る。だがそれ以外になんと言ったものか。


「旨い! 旨い!」


 夢中になって盛り付けられた料理を口に掻き込んでいく。現代の精練された技術で作られた言えないだろうが、それがかえって原始的な食欲を掘り起こすようだ。

 途中喉に詰まりそうになり、慌ててコップに注がれた牛乳をあおった。

 コイツが絶品だった。

 水のようにサラサラ飲めるのに濃厚な味わい。それになんだ。胃に滑り落ちる多幸感が、そのまま全身の細胞という細胞に染み込むようだ。

 こんな牛乳は生まれて初めてだった。


「どうだい? 中々なもんだろ?」


「中々なんてものじゃないです! こんな美味しい牛乳は初めてです!」


 飲み干し料理を腹に納めてから感想をそのまま口にした。


「そうかいそうかい! コイツぁうちの牧場、自慢の逸品よ! おかわりはいるか?」


「いただきます!」


 一も二もなく俺は頷いていた。バンズさんは呵呵大笑しながら奥へ引っ込んでいく。

 この異世界に来て大した時間は経っていないが、こんな旨い食にありつけるなんて思ってもいなかった。料理の残りをバンズさんや自然の恵み、Fカップの女神様への感謝と一緒に噛み締めていた。




 ただいま~! あれ、誰か来てるの~?


 あ? おいヤケに早いじゃねぇか。まさかサボりか?


 違うよ~今日は午前中だけって言ったじゃん。おとーさんこそ今ご飯? 随分のんびりしてたんだね~


 違ーよ、色々あったんだよ。そういや今日は昼過ぎには帰ってくるんだったな……忘れてたわ。




 なんだろう? 誰かが帰ってきたようだ。壁の向こうなので会話はよく聞こえないが、どうやらバンズさんの娘さんらしい。そして俺はお邪魔している側だ。

 唇に残っていたパンクズを払い、なんとなく姿勢を正す。そしてパタパタ近づく足音の主を迎えた。

 扉を開けた彼女を見た瞬間――――


 俺は自分がちっぽけな存在でしか無いと思い知った。


 そう、おっぱいだ。いやおっぱい様だ。かの乳房の前では俺という存在はあまりに矮小わいしょうである。

 まるで爆発しているかのような隆起、いや爆発しているのは俺の常識か意識か。


「初めまして~ミルシェといいます~。父とハナがお世話になりました~」


 ペコリと頭を下げると、栗色の長い髪がそれに続く。顔を上げた彼女の琥珀こはく色をした瞳は、穏やかな眼差しをまっすぐ向けていた。まだ幼さの残る顔立ちはかえってミルシェに絶妙な愛嬌を与えていた。異性が放っておかないであろう可愛さだ。


「ああ、いえ、そんな、こちらこそ、どうも……」


 のんびりとした挨拶に、しどろもどろになって上手く言葉をつむげないのは、俺が童貞であるからだけじゃない。いや童貞は関係ない。

 ぶっちゃけそれどころじゃ無いのだ。

 ミルシェの服を内側から押し上げる巨大な二つの膨らみに、俺は完全に無力化された。なんだコレ、チートじゃない? 22年という生涯の中で一番の破壊力だった。

 牧場の娘が爆乳ってのは、漫画でもアニメでもよくある設定はなしだ。豊かなバストをこれでもかとアピールする様は、お約束と言ってもいい。アニメーションのオープニングで揺れ、初登場シーンで揺れ、隙有らばバトルシーンでも揺れる。

 そして俺はそんなお約束が大好きだ。

 そんな例に洩れず、彼女――ミルシェは俺達おっぱい星人の『牧場出身ならば……?』という期待を受け、そのハードルを楽々飛び越えるポテンシャルを持っていた。


 ピコン


【ミルシェ】

 トップ 101㎝(K)

 アンダー 65㎝

 サイズ 3.4㎝

 16年9ヶ月7日物


 K……K!? アルファベットで11番目の!? (制御出来ず)発動した乳分析アナライズに思わず指を折り数え、両手を使ってもなお余る順番に驚愕を隠せない。それも16歳という若さで。まさに大人顔負けのバストサイズだ。事実、俺(22歳)は完ぱいだ。

 これほどの出逢いをたまわるなんて……。

 もう言葉など不要。神聖で大いなる双丘を前に、俺はただただこうべを垂れるのみ。


「おとーさん、なんでこの人泣いてるの?」


「さあ……?」


 神様……ありがとうございます。あ、神様って俺なんだっけ?


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