第三四話 暴走! 小船! 衝突!

 十月風成とおつきふうせい本条啓子ほんじょうけいこの前に現れたレイ・ヴィスタンスは乗っている船の操縦が出来ないなどと素っ頓狂な事を言い出した。風成はそもそも船が動いてるという点で矛盾していると思う。


「操縦出来ないのにここまでこれたのか」

「ふっ……適当にこいつを触ったらいい方向に動いたぜ」


 レイは電動船外機を手のひらで軽く叩きながら言った。


「いや、ふっじゃねぇよ!」

「このままだと陸にぶつかるんだけど」


 啓子の指摘通り、東から西方向に動いている船は風成と啓子が走って来た道。海沿いに沿って北方向に続いている道に衝突してしまう。


 レイは片手を顎に当て考えるフリをする。


「確かにな……おそらくぶつかったら転覆するだろうな」

「その感想なんの解決にもなってないわよ」


 啓子は呆れる。


 風成は自身の力ならばなんとか出来ると思い行動する。


「俺が海から船を押して方向を変えようか」

「別にいいわよ、私が目一杯、炎を出して方向変えるから」

「お言葉に甘えた方がいいやつ?」

「うん、いいやつ」


 風成は啓子の言う事に従う。


「ふぅ……【炎脚波えんきゃくは】!」


 啓子の右足はつま先から太ももまで炎に包まれる。太ももを上げて宙を横蹴りをした瞬間、右足を包んでた炎が筒状に噴射し続ける。船の向きは噴射の反作用で二隻の船があるであろう南東方向になるように調整された。


「とりあえず、この方向でいいからしら」

「俺はお前なら出来ると思ってたぞ」

「ちなみにオレもだ、さすがだ本条」

「なんかムカつくから黙ってて」


 船は確かに南東方向に向かって移動していたが、追ってる船に追いつきそうにもない速さだった。啓子は操縦出来ないから仕方ないと思ったがつま先を上げて船体の上を踏み続けていた。風成とレイは啓子がイライラしてるのを見て相談する。


「おい、レイ、なんとかしろ」

「と言われてもな、オレだってなんとかしたい」

「だろ、それお前の力で上手い事できないのかよ」


 風成は船外機を指差して言った。


「オレの能力で電気を流すと構造は分かるし多分モーターも速くなると思うが、加減ができない、モーターが壊れる可能性がある」

「ちょっとずつ電気を流せないのかよ」

「ふっ……あいにく大雑把でな」

「誇るとこじゃないぞそれ……ちょっと許可貰ってくる」


 風成は船首の近くに突っ立っている啓子に恐る恐る近づく。


「あの本条……さん?」

「なによ」

「レイがさ、能力でモーターを早くできるけど、加減が出来ないらしいんだけど……どうする?」

「それが出来るなら早く言ってよ」

「俺は悪くないから! レイが悪いから! 俺知らなかったから!」

「子供か」


 啓子はレイの方を見る。


「レイ、なるべく抑えてやってちょうだい」

「全く、無茶言うぜ」


 レイは船外機を両手で触り、電撃を与える。


 バチバチバチッ!


 と明らかに過剰な電気がモーターが流れる。


 風成はスピードが上がったのを感じる。


「おおいいぞ! どんどん速くな……速くなりすぎじゃない?」


 速度は右肩上がりに上がり続けた。


「きゃっ」


 啓子は声を出す。何故なら速度が上がりすぎて船体が一瞬宙に浮いたからである。


 以前、速度は増す。


「「あああああああああ!」」


 風成と啓子は船首と掴んで叫ぶ。船が速すぎて立てなくなったのである。彼らは風に煽られた。


 風成はレイに注意する。


「おい! レイ! やりすぎいいいいいあああ!」


 風成は後方をチラっと見るとレイは船外機を掴んでいないどころか船尾を掴んで後方に身を乗り出し風に煽られてた。風成は呆気に取られてレイの無事を確認する。


「レイ! ああああ! 大丈夫か」

「くっ、振り下ろされない様に、ああああ! 生体電流を増幅させて掴んでいるとモーターに影響があああ!」

「なにやってんだよ!」


 啓子は船の方向が南にずれすぎてるので東方向を向くようにする。


「【え、炎脚波】!」


 無理くり啓子は西に向かって右足を宙に蹴って再び炎を筒状に噴射させると船の向きは少し東を向いた。


――風成達が追っている二隻の中型の船は近年出来た、研究所が一つしかない小さな人工島に向かっていた。片方の船には銃を武装した黒スーツの男達と白衣を着た東京本部の能力開発部の人達が居るがもう一方の船は操縦者を除くと三名しかいなかった。


「なんだあれ?」

「船か?」

「船にしては早すぎないか」


 銃を武装した男達は尋常じゃないスピードで近づいてくる船に気付た。能力開発部の人間は慌てる。


「追手だ!」

「早く、回廻かいねさんに伝えるんだ!」


 船内からデッキに回廻と言われた中年男性が出てきた。彼は白衣を纏っており髪色は緑である。髪型は爆発した様な形をしたボンバーヘッドであり、白衣の下からはコンバットシャツとコンバットパンツを着ているのが見える。彼は何故か左腕を白衣の袖に通さずに隠していた。


「あっは、なんだありゃ! おい追われてるではないかね」


 回廻は愉快そうに隣の船のデッキにいる人物に向かって言った。


 隣の船のデッキには赤塚あかづか音流ねるとデッキチェアで寝ているかなで義安ぎあんがおり、ホムンクルスの少女は船内の部屋で大人しくしていた。


 音流は義安を一瞥し、起きてこないのを確認すると自分が回廻の質問に答えるしかないので、仕方なしに答える。


「あんなの知らないし」

「全く頼むよ、ちみ達にはお高いお金払ってるからね、あっはは」

「でどうするの?」

「こんな時のちみ達じゃないか、予定変更だ、ホムンクルスを今ここで渡してくれ」

「また仕事始まるのね……ねぇ、あれあなた達の船にぶつからない?」


 音流にいわれて回廻を向かってくる船を確認する。船は既に百メートル以内に近づいていた。


「狂人なのかね」

「ねぇ、冗談抜きでぶつかってきそうなんだけど」

「あっは! まさか」


 しかし近づいて来てる船を止まらなかった。船上はパニック。


「降ろしてくれ!」

「小さい船だろ! 大丈夫じゃないのか!」

「辺り所が悪かったら燃料が引火してボイラーが爆発するかもしれない」

「おいおい! あの船の船外機みろよ! モーターとそこら中に置いてあるバッテリーから煙出てないか!」

「そ、そんな! 過充電で爆発するじゃないか‼」

「もうここで人生が終わるんだ! 最後に服を全部脱いで走り回るぞ!」

「俺も脱ぐぞ!」


 黒スーツの男達と能力開発部の人達は、冷静ではいられなかった。


「「「あああああああああああああ!!」」」


 風成、啓子、レイは船にしがみつくのに必死で叫んでいた。彼らが乗っている船は水面から大きく浮く。そして、回廻の乗ってる船に斜め上から弧を描いて芸術的に衝突した。

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