第三五話 炎上した船の上で
「酷い有様ね」
「なにが起きた。なぜ、向こうの船が止まっている」
「起きてたんだ、ちょっとした事故が起きたみたい」
「助太刀する必要は?」
「仕事内容は実験を守る事だからいいんじゃない?」
「しかし、あの船には能力開発部の……」
「研究者の代わりは島にいるでしょ」
「うむ」
義安はそう言うと、再びデッキチェアで寝だした。
音流は義安がサングラスを掛けて寝ているので起きてるかどうか分かりにくく、サングラスを外して欲しいと思っていた。更に、
(この人何が楽しくて生きているんだろう。きっとグルメ番組に出ても気が利かなくて『美味い』としかコメント出来ない人に違いないわね)
と思っていた。
――
風成は膝まづいて着地すると立ち上がる。
「危ない危ない、にしも派手に燃えてるな」
船上は燃え盛り阿鼻叫喚だった。乗っていた船の船外機と予備バッテリーの全てが爆発するとぶつかった船に火が燃え盛り、連鎖的にボイラーが爆発したのであった。
啓子とレイは前を向いたまま動かないので風成はよっぽど怖い出来事だったんだろうと勘違いしていた。啓子とレイは自分達に前に居る男に見覚えがあったの注視してただけである。
啓子は警戒する。
「
「あっは! 最高の素体から来てくれるなんて光栄かね」
風成は聞いたことある苗字に反応する
「六々堂……だと」
啓子は回廻の方を見ながら風成の疑問に答える。体をいつでも戦闘に移行出来るように構えていた。
「こいつは六々堂
「なんでそんな奴が副リーダーなんだよ、人選ミス過ぎるだろ」
「こいつは輪廻が謀反を起こしたのと関係ないとされてたのよ、だから今も東京本部に居る」
「話はもういいかね」
回廻は二人の会話を遮ると、レイが問いただす。
「オマエ! 幼子はどこだ!」
「あっは! いい表現をするね。確かに培養液から出てきたばかりの幼子だね。正確に言うと自分から培養液を抜け出してたんだがね。あっはは!」
「そんな事はどうでもいいぜ」
「答えると思うかね」
啓子は回廻の言葉を聞いて船に居ない事を確信する。父親の輪廻と同様回廻は度を越した知的探求心の持ち主。そんな人間がホムンクルスの少女を燃え盛る船の中に放置するわけなかったのである。
「ここには居ないわ、多分もう一隻の方ね」
風成とレイに聞こえる様に小さく呟いた。
レイは首を回しながら前に出て回廻と対峙する。
「オマエら先に行け。
「それもそうだな よし本条乗れ!」
風成はしゃかんでおんぶする体制になると啓子は照れながら戸惑う。
「えええっ、あんたの背中に乗らなきゃいけないの!」
「照れてる場合じゃないぞ、早く乗れ」
「て照れてなんかないわよっ、体がく、くっつく事になるわよ」
「なんだよその言い方、俺まで意識しちまうから」
「いい意識ってなによ、変な事言わないで」
「変な事言ってるのはそっちだろ。いいから早く!」
風成は啓子が背中に乗ったのを確認すると平然な顔をしながら立ち上がった。なるべく背中越しの感触を気にしていない風に見せかけて滅茶苦茶気にしてた。
デッキ上で向かい合わせに居る回廻の背後に船内に繋がる大きな入り口があった。風成は船内を通らず屋上を飛び越えて船首に行こうとしていた。回廻は風成の存在を知らない。もちろん風成の能力を知らないので船の屋上を飛び越えられるとは思わなかったが、とにかく、この場から離れてもらうわけには行かなかった。
「行かすわけにはいかないね!」
回廻は胸元に右手を突っ込んで拳銃を取り出し風成に向けるとレイは能力を行使する。
「【
レイは人差し指から一筋の電撃を放出し、回廻の持っている拳銃に当たると。拳銃は手元を離れ転がった。回廻は呻いた。
「ぐゔ!」
「じゃあな!」
風成はレイが拳銃を飛ばしたのを確認すると捨て台詞を吐いて啓子を背中に乗せたまま跳躍し、船の屋根の上に乗った。レイは伝え忘れた事があったので風成の背中に向かって叫ぶ。
「幼子が生まれた場所は! この海の先にある小さな島だ! もう一隻の船はそこに向かっているはずだぜ! 行け!」
「分かった‼ サンキュー!」
風成は振り向かず、そのまま姿を消しながらお礼を言った。
回廻は風成の能力を直ぐに肉体強化と断定した。自分の力じゃ直ぐには追いつかないので目の前に居るレイに対処する事にした。
「あっは! 船の前に行ったところで前の船には追いつかないと思うんだがね」
「その辺はなんとかなると思うぜ」
「あは! あっははは!」
「なんなんだこいつ」
「いやね、一番
「……何を言っている」
レイは回廻を能力者だとは思っていなかった。何故ならば、東京本部のサーバーにある能力者専用のデータベースには無能力者の研究員として登録されているからである。故に相性という言葉が出た瞬間、勘繰る。
(こいつまさか……未登録の能力者か!)
燃え盛る船上のデッキでレイと回廻は対峙していた。
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