第三三話 海を渡る方法
「本条、あれに本当に乗っていると思うか?」
「ええ、こんな時間にあの方向に向かって移動する船なんておかしいわよ、しかも二隻奇麗に並んで」
「あの方向?」
「この海の向こうに大きな人工島が二つあるの知ってるでしょ」
「俺は偏差値二憶の天才だぞ、知ってるにきまってる」
「黙れ」
啓子は真剣に話していたのに風成が訳の分からない事を言ったので辛辣な言葉を投げかける。何時ものやり取りなので風成は啓子にどんな辛辣な言葉を掛けられても平気になっていた。
「確かにおかしな船だな」
「でしょ。それに大きな人工島とは別に、近くに小さな人工島が最近出来たらしいわよ」
「ニュースでやってたな、研究所が一つしかない島が出来たってやつか」
「案外知ってるのね」
「だから言っただろ、俺はな」
「天才って言ったらぶっ飛ばすわよ」
「……」
啓子は風成が何を言うか分かったので食い気味に発言した。案の定、風成は何も言えなくなり口を固く結んだ。
二人はしばらく海に沿って北に移動してると東方向に広がっている船着場に着くが船は一隻も無かった。そもそも二人は船を操縦する技術を持っていない。しかし、今はとにかく少女が乗っているであろう船に追いつきたい一心で船を探していた。
啓子は周囲を見渡す。
「さすがに置いてないわね」
「泳いでいくか?」
「そもそも、何処に向かってるか目星ついてるの?」
「やっぱ、本条が言ってた三つの人工島のどれかじゃないのか方向的に」
「仮に追いつても、こんな距離泳いだら疲れて戦いにならないわよ」
「本条が俺を運んで炎を足裏に噴射して飛び続けれない?」
「そ、そんな事出来ないわよ! 出来るならとうにやってるわ。それにあんたを運ぶってどういう事よ。かか、抱えるの⁉ そんな事したら体にあ、ああ当たたたる」
「あたたたるってなんだよ」
「うっさい」
啓子は風成を抱えてる自分を想像して一人であたふたする。風成はそんな啓子の様子を見ながら海の上を移動する手段を思案してた。
風成は船着場に近づいてくる平らな船に気付く。
「なんか船が近づいてきてるぞ」
「え! 敵⁉」
「いや違う……ああ! お前は!」
近づいて来た船は全長一〇メートル。船体がほぼデッキのみの全深八〇センチで平らな形だった。運転席は無く船尾(船の後ろ端)に駆動装置とモーターが一体化している電動船外機が外付けしてあった。また、船尾には電動船外機の予備バッテリーが並んで置いてあった。
「ふっ……来てやったぜ」
デッキの中心にはズボンのポケットに両手を突っ込んで折りたたみ椅子に座っているレイ・ヴィスタンスが居た。明らかにかっこつけていた。
「「レイ!」」
二人は歓喜の声を上げ、風成はレイに声を掛ける。
「お前! 起きてたのか! 後、かっこつけんな」
「オマエ達がエントランスで騒いでたからな、事情は強力と長髪から聞いた」
啓子はレイの耳の早さに疑問を抱く。それに加えて船に乗って現れた時点で敵の行き先を知っているという事になるからである。
「そもそも、なんで先回りできたのよ。それと船に乗ってるって事はあいつらが船に乗ってるのを知ってるって事よね」
「本条、オレはあのホムンクルスの幼児がどこで作られたかしっているからな、そこに行くとしたら船が必要と踏んだ」
「幼児ってほど小さくなかったと思うんだけど……ってか今言った事ほんと?」
「晩飯の後、幼児とオレがトレーニングルームに居たのを知ってるだろ、確か本条はガラス越しに見てたはずだ」
「ああ、あの時に、聞いたのね」
風成は自分が治療室に寝ている間、少女とレイがトレーニングルームに入っていったのが疑問だった。風成は頭を回転させるとある一つの仮定にたどり着く。
「レイ……お前、トレーニングルームでなにしてたんだよ。お前がロリコンだとは思わなかったぞ!」
「あんたは何想像してんのよ!」
「ぐっ」
風成は啓子に裏拳で胸板を殴られると思わず声を漏らす。
「今のは少し効いたぞ」
「うっさい、変態」
「それでレイはなにしてたんだよ」
「幼児はオマエがボコボコのメッタウチにされたから自分の能力を強くしたいと言い出してな」
「そんなにやられてねぇよ! 余裕だったわ」
「なんだと! 余裕だったのか」
啓子はそんなわけないと言いたかったが体力を使ってられないと思ったので黙ってた。
風成は未だに疑義的であった。
「トレーニングルームに入った理由は分かったがなんでレイと一緒なんだ」
「同じ系統の能力だからだ」
「ああ、あの子も電流バチバチマンなのか!」
「なんだそのダサいのは、オレと同じようで違う能力だ」
「どういう事だ」
ホムンクルスの少女は直系血族でも異なる能力を発現する本条家のゲノム情報を持っており、発現した能力は電気を生成する事である。つまり、生成系能力者である。生体電流を駆使する変異系能力者のレイ・ヴィスタンスとは根本的に異なる。レイは少女が電気を生成するだけではなく操れるようになりたいと懇願していた事を風成に説明した。
風成は泣きはしなかったが両目を片手で押さえて感動した。
「なんていい子なんだ!」
「いいから早くいくわよ!」
二人は船に飛び乗ると船体は大きく揺れた。
レイは立ち上がって船外機のハンドルを握る。
風成と啓子はレイが運転出来ると思って安心するが、
「オマエ達に聞きたい事がある。これどうやって動かすんだ」
「「え?」」
まさかの質問に二人は戸惑った。
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