第二七話 ツンデレ
(勘弁してくれよ。大体、今何時だよ)
風成は寝たいにも関わらず、声の正体が気になり、面倒臭さと好奇心が入り混じっていた。
資料室のドアノブに手を掛けてガチャガチャと回す。しかし、鍵が掛かって開かなかった。
(そういえば瞬也さんから木の鍵を貰ってたな)
(鍵、データ室と共通かよ!)
風成はセキュリティの緩さ故に叫びたくなる気持ちを抑えて資料室に入ろうとしたら再び幻聴がする。
『はよう、わらわの元にまいれ』
「いや、今行ってるだろ」
我儘な声だなと思いながら資料室に足を踏み入れると
「あんたなにしてんの?」
という声と共に風成は肩に手の形の様なものが置かれたのを感じたので顔が青ざめた。
「うっぎゃああああああああああ」
「きゃああああああああああああ」
風成が叫ぶと背後からも叫び声がした。
風成は後ろを振りむくと人が居たというか――――
「「……」」
二人は口を『あ』の字にしたまま少し見つめ合った。
「なんだ、本条か脅かすなよ」
「私の台詞よ」
啓子は両拳を握って上から下に振り下ろしながら言った。
「……てか起きてたのか何時だと思ってんだ」
「相変わらず人の事言えてないわよ」
「……」
風成は治療室で啓子を怒らしたので謝るタイミングを見計らってた。このまま有耶無耶に出来そうだと思っていたが、データ室で知った事を考えると有耶無耶にするには罪悪感があった。
「本条」
「なによ」
「ごめん! 俺、悪い事言っちまった!」
風成は立ったまま頭を下げて謝罪した。
啓子は風成が謝るとは思ってなかったのでポカンと突っ立てた。
「……」
「あれ? 本条……さん?」
「あんたがそんな事するとは思わなかった」
「いやだって」
「別に気にしてないわよ、今思えば私も子供みたいだったし」
「……いや、お互いわりかし子供だろ」
「ふふ、そうね」
啓子は口を手で押さえて笑った。
「でも結局、『自画自賛』の意味は分かんないわよ」
「ああ、説明すると長くなる」
「短くでお願い、あんたまともに説明しなさそうだし」
「するから! 本当にこの件に関しては、おふざけとか一切なし」
「じゃあ説明してよ」
「短く言うとだな」
「短く言うんかい!」
風成は長ったらしく言っても上手く説明出来る自信が無く、そのうちバレる事なのでハッキリ言う事にした。
「あの女の子は本条家の、ホムンクルス……みたいな?」
「え……?」
啓子は単刀直入に言われ過ぎて風成の言葉を飲み込めなかったが、単語からして明らかに自身に関わる事なので頭を回転させた。
(本条家……ホムンクルス……まさか)
啓子は脳裏には、亡骸となった家族の姿と父親の
「な、なによそれ! 聞いてないわよ!」
啓子は風成に詰め寄った。
「落ち着けって! 俺もお前の事や瑠那さんの妹の事はさっきデータ室で知ったんだ! 瞬也さんと瑠那さんは十中八九、『
「……そういう事ね」
「ああ、そういう事だ」
「私の遺伝情報を持っているかもしれないあの子の事を可愛いって言ったから自画自賛になったわけね!」
「そっちかい!」
啓子がこれ以上詰め寄りそうなので風成は両肩に触れて、近づかない様に押さえた。
「どうせ私は可愛くないわよ」
「え? いやそうとは言ってない」
風成は単に自画自賛してる様な感じがおかしくて声を漏らしただけで啓子の事を可愛くないとは思っていない。むしろ、可憐な顔立ちと雄々しさが相まって、なお可愛いと思っていた。
「じゃあなんで引いてたのよ」
「いや、あれはびっくりしたんだよ。てかお前は……可愛いと思うけどな」
風成は啓子を褒めた事無いので少し緊張して言葉に詰まりながら喋った。
啓子は一瞬、頭が真っ白になり、
(ええ、い、今こいつなんて言った? 可愛い⁉)
顔を赤くする。更に風成が距離を詰められない様に両肩に触れられているという状況を再認識すると混乱しだす。
「あああ、あんたに、そそ、そんな事言われても嬉しくないわよ! これっぽっちも! 一ミリも!」
啓子は後ろに一歩下がって風成の手から離れて叫んだ。
風成は一つ気付きかけた事があった。
(あれ……もしかして、こいつツンデレなのでは、いや本気で嫌がっている可能性も)
風成はとりあえず、確証がないので脳内ツンデレ議論はやめた。
「本条、とりあえず静かにしろよ。寝ている人だっているんだぞ」
「はぁ……はぁ……」
「なんでそこで息を切らすんだ」
「言っとくけど、可愛いとかで口説いたとか思わないでよ」
「いや思わねーよ、ツンデレかよ……あ」
風成は最後に余計な一言を言ってしまつたと思い、右手のひらで口を塞いでしまった。
「ツン……デレ?」
「あ、待てよ落ち着け本条」
「なによそれ」
「知らんのかい!」
「なによ……悪口なの?」
「いや悪口じゃないけど、それより俺、資料室に用事があるんだ、じゃあ!」
風成は逃げる様に資料室の奥に向かっていた。啓子は「ちょっと待ってよ」と言って後を追いかけた。
『
「……」
『わらわに近寄れ』
風成は幻聴らしきものの出所に近づいて来てるのを肌で感じていた。
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