第二八話 魔刀『紫苑』
資料室の扉側から左方向に緑色のラックが一定間隔に並んでおり、ラックのすべての段には会議の記録や本部や各
風成はしゃがんで木箱の中の物を手に取って確認する。手に取ったものは日本刀の鞘だった。
「武器があるな……なにこれ? 鞘の中身が無いぞ」
「金属類はほとんど錆びてて使えないわよ」
風成の横にしゃがんだ啓子は錆びた剣を風成に見せつけた。
風成は啓子が見せてくれた錆びた剣を手に取ろうとするが錆び具合があまりにも酷くて伸ばした手を引っ込めた。
「なんで使えないもんしかないんだよ、あ、銃がある」
「壊れてるわよ、それ」
「ゴミばっかだな……」
「そもそもここになにしに来たの?」
「俺を呼ぶ声がするんだ」
「はいはい、どうせ『時代が俺を呼んでいる』とか言うんでしょ」
「今回は真面目に言ってんだよ」
啓子はまた、「はいはい」と言い、しゃがみながら片手で頬杖をついて風成が武器を手に取る様子を見ていた。
風成は木箱の中の武器を一通り手に取る。
「これじゃない気がするな、いやこれかな」
『そちが一番最初に手にした武器であっておる』
「これか! ありがと……って空っぽの鞘かよ」
風成は幻聴らしきものに従って橙色が剥離して損傷している鞘を手に取った。
啓子は風成が何がしたいのか分からなかった。
「それでなにするのよ、それに誰と喋ってるのよ……病気?」
「やっぱ俺にしか聞こえない感じのあれか、おかしいな幽霊とか信じてなかったんだけど……後、病気じゃねぇよ!」
と風成が喋ってると鞘が風成の手を離れて独りでに宙に浮き出し、風成と啓子は思わず立ち上がった。
そして鞘の周囲が本紫色に輝いた。
啓子は慌てたが風成は慌てなかった。何故なら、鞘の輝きに見とれていたからである。
「おお、居たんだな幽霊って」
「なによこれ! どういう事よ」
「俺も分からないけど、声が聞こえてここに来たら鞘が光ったんだよ」
「意味わっかんないわよ」
鞘は損傷した部分が独りでに治っていき、剥離した部分には橙色が色づき奇麗な鞘となった。そして誰かが鞘を握った。それは風成と啓子の目の前に現れた女性だった。
啓子は幽霊という存在が苦手ではないと自負してたがいざ目の前に現れたとなると逃げたくなった。彼女は風成の腕を掴んで背後に隠れた。
「ちょっとあんた! なな、なんてもん見せるのよ!」
「おお、居たんだな幽霊って」
「同じ事ばっか言わないでよ!」
霧の様に現れた女性は女武士といういで立ちだった。特別、身長が高いわけではない身体つきで歴戦の戦士を思わせる。彼女は二部式長
女武士は宙に浮いた鞘を手に取ると、鯉口と言われる鞘の入り口部分から刀を引き抜く動作をした。すると空の鞘から刀が現れた。柄は橙色。刀は
『さぁ、わらわの意思を受け継ぐがよい』
女武士は刀を鞘に納めて風成に渡そうとした。
「やった! なんか良く分からないけど貰うぞ!」
風成は勢いで刀を貰おうとしたが啓子が掴んでいる風成の腕に力を入れて制止させる。
「なんで平然ともらおうとしてんのよ、怪しすぎるわよ」
「だって力をくれるらしいぞ、こんないい話はない」
「大体、あんたは誰よ、新手の能力者なの?」
啓子は風成の背後に隠れるのを止めて前に出ると女武士は答える。
『わらわは正真正銘、霊体ぞ。 こやつをわらわの流派の後継者とする』
女武士は風成を指差した。
風成は啓子と女武士が話してる間に貰える物は貰っとこうと思ったので刀は取った。
「素手で戦うのもいいけど、なんていうの? 状況に合わせて刀使うみたいな、そんなお洒落な戦いをしてみたいと思ってたんだよな」
「なによそれ頭おかしいんじゃないの、知らないわよ呪われても」
「呪いを背負って戦うとか、かっこよすぎる」
「馬鹿、もう勝手にして」
啓子は額に手のひらを押さえて呆れた。
風成は女武士に疑問をぶつけた。
「なんで俺にくれるんだ?」
『特に理由はない、そちは良い感じに戦るのでは? という勘である』
「勘かよ!」
『兎にも角にも、わらわは
「七聖剣……? まぁいいか、俺は十月風成だ。よろしく」
啓子は首をかしげる。
「ねぇ、私なにも見えなくなったんだけど」
「え? 紫苑が見えなくなったの?」
「いや、名前まで知らないけど……」
紫苑は、刀の所有権が風成にあるので風成にしか見えなくなったと説明した後、急に神妙な顔付になったので風成は声を掛ける。
「紫苑?」
『地上での戦いが決着したようぞ』
「……どういう事だ?」
『能力者同士の戦いというやつか、そちが連れてきた少女が連れて行かれたというより自ら襲撃しに来た連中についていったようぞ』
「なっ! なんだと‼」
風成は魔刀『紫苑』を片手に資料室を出て駆け出した。敵が来て、ホムンクルスの少女を連れて行ったと判断したのである。故に一刻も早く地上に出ようとしている。
「急にどうしたのよ!」
啓子は叫んだ。
風成は肉体強化の類と言われる能力を行使して走った為、普通に走った程度では追いつけないので啓子は地面を踏む度に炎を噴射して自身を加速させた。
エントランスで風成は後ろを振り向いて啓子を見る。
「多分、誰か戦ってやられた! あの子が連れて行かれたんだ!」
「なっ‼ それほんとなの!」
「紫苑が言ってた! くそ、目を離すべきじゃなかった!」
「あんたのせいじゃないわ、さっさと行くわよ」
「ああ!」
風成と啓子は地上に出た。
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