第二〇話 守る価値『風成vsセツ』

「あたしの名は桐宮きりみやセツ、『東京本部能力所のうりょくじょの能力開発部』に所属するものだ」


 セツは十月とおつき風成ふうせいに己の素性を明かして、戦いを諫めようとした。何故なら、彼女は出来る事なら無傷で風成と共にいる少女を回収したいと考えているからだ。


 風成はセツの吐いた言葉に目を丸くして驚く。それは当然であった。『東京本部能力所』は、日本全国の能力者を統括している最高峰の機関だからである。


「東京本部! なんでこんなところに本部の人間が居るんだ」

「……そんなことはいい、名を名乗れ、クソ」

「最後の台詞が腹立つな、こいつ……十月風成、『|神戸特区能力所とっくのうりょくじょ』に居る」

「ふむ、やはりその名に聞き覚えはないが神戸特区の人間か」

「そんなことより、なんで、この子を付け回してるんだ」


 風成は先程まで抱えていた少女の頭に触れて強い口調でセツに尋ねた。


「お兄ちゃん、手大きい」

「巨人だからな」

「?……歳が分からないけど、第二次成長期を考慮してもフツーの身長だと思うよ」

「なんだこの子! 急に知的に!」


 セツは二人のやり取りを見て、彼らが呑気にしているのが苛立たしくなった。


「無駄話はいい! 話は分かっただろ。あたしは本部の人間だ、そいつを渡せ」

「……ぅ」


 女の子は怯えて後退りした。


 風成は少女を背後に追いやり、無言で譲渡を拒絶するとセツはやれやれと首を横に振った。


「いいのか、君の所属する能力所の人達にまで迷惑かけるぞ」

「だったら、この子に何の用があるか事情言えよ」

「……クソが」

「言えないなら、交渉する余地はないな」

「言っただろ、あたしは本部の人間だと。命令に逆らえない様ならお前含めて仲間にも危害が加わる事だってあるんだぞ」

「なんだと……お前、本気で言ってんのか」


 セツの脅し文句に風成は拳を強く握り怒りで言葉を震わせた。


「それは嘘よ!」


 風成の背後にいる少女が風成の横に飛び出し、セツに指を差して叫んだ。


「その人は確かに東京本部の人だよ! でも、本部に逆らって行動してるの!」

「余計な事を言うな!」


 セツは焦った。


 風成は首を動かして少女を見ると目が合う。


「逆らってるってどういう事だ」

「秘密裏に許されない研究してるの」

「クソが! 【鉄爪てっせん】」


 セツはたまらず叫び、鉄化させた爪を一本、少女に向けて伸ばすが、


「させるか!」


 風成は走り出して伸びた爪の下に滑り込み思いっ切り手首の根本で爪の下を打つ。いわゆる掌底打ちである。伸びた爪は軌道が逸れて、セツはすぐに爪を引っ込めた。


「どうしても邪魔をする様だな」

「まぁな」

「そいつは人間じゃない」


 セツは女の子を顎で指すと、少女は俯いた。


 風成はセツの言ってる事が理解できなかった。なにせ何処からどう見ても五体ごたいある人であったからだ。


「どういう事だ」

「私達が魔術師と作った存在だ。つまり作り物、守る意味はないということだ」

「魔術師……だと」

「あたしから言えるのはこれだけだ。分かっただろ、そいつがどんな存在かって事だ」

「いやわかんねぇよ。でも守る価値ってのはお前が決める事じゃない、それは俺が決める事だ」


 風成は真っすぐセツの目を見つめて言うと、少女は顔を上げる。


「お兄ちゃん……」

「という事で、お前は下がっててくれ」

「うん」


 少女は力強く頷くと戦闘の邪魔にならない様に後方に下がった。

 

 セツは両手を何度も握って、手の調子を確認した。


「仕方ない、十月風成死んでもらおうか」

「それは俺の台詞だ」


 二人は構えて対峙する。先に動いたのはセツだった。


「【五連鉄爪ごれんてっせん】」


 セツは右手の爪全てを鉄化させ、まずは親指の爪を伸ばした。


「よっと」


 風成は必要最小限の跳躍で避けるが、セツの人差し指の爪が顔に向かってくるのに気付く。


「くっ……そ!」


 風成は顔を逸らして攻撃を避けようとするが右頬を掠めて切られる。更に中指、薬指、小指の爪が順に迫ってきた。


(飛んだのはまずったな、時間差で攻撃されたら避けきれない。レイで試すつもりだった新技使うか)


 風成は体を右に捻りながら右腕を引いて殴る矛先をセツに合わせた。セツには彼の行動の真意は分からないがこのまま止めを刺せると思っていた。


「これで串刺しだ」

「【ショックウェイブ】!」


 と風成が言うと引いた右腕に全体重を掛けて真っすぐ拳を宙に放つ。すると拳の先にある空気が圧縮されて空気砲となりセツに向かっていった。


「ぐばっっ!」


 セツはお腹に空気砲を受けて、体が後方に飛んで尻餅をつき、鉄化させた爪の軌道がずれた。


 鋭い目の人はお腹をさすり「こいつ!」と憤慨した。その間に風成は真っすぐ彼女に向かっていった。


(クソが、速い……肉体強化としては辺りの部類だな。全身を強化出来るの能力者は四人しかいないはず、やはり新入りか)


 とセツの思考は研究者モードとなったが直ぐに気を取り直して臨戦態勢を整える。


 風成はセツの少し前から【衝波】を放った時と同様に体を右に捻りながら右腕を引いた。


「くらえ!」

「【五重ごじゅう鉄爪てっせん】」


 セツは【衝波】が放たれると思い。風成に向けて鉄化させて右手の爪を五本同時に放つが、


「なっ!」


 セツは驚いた。何故なら、風成は殴る構えをしたと思えば地面を思いっきり蹴ってへこませると、セツの横に移動した。


(あたしとした事が! クソが!)


 風成はセツに向かって右拳を振るう。


「これで俺の射程内だ!」

「【鉄爪壁てっせんへき一手いっしゅ】!」


 セツの左手の爪から生成した鉄の壁と風成が放った右拳が激突した。

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