第一七話 能力の系統

 ―――四月一七日。


 十月風成とおつきふうせいは『神戸特区能力所とっくのうりょくじょ』の正式な能力者として登録された。現在、風成は自室で筋力トレーニングを終え、就寝しようとしたところ、所長であるくすのき瞬也しゅんやに呼ばれてトレーニングルームに居た。


 トレーニングルームには瞬也の他に金髪モヒカンの長髪ちょうはつしげる、恰幅が良く風成がゴリラと見間違えた強力修ごうりきおさむ、そして不思議な雰囲気を醸し出している薄茶色眼の城ケ崎じょうがさき黒菜くろなが居た。


「もしかして、俺、皆と戦うんですか?」


 と風成が言った。


「いや、そうじゃないんだ。能力について説明しなきゃいけない事があるんだ」


 瞬也が答える。


「能力について?」

「うん、例えばだ。啓子君と君の違いはなんだ」

「え…………おっぱい?」

「えっ」


 茂と修は風成の発言を聞いて笑いながら喋る。


「ヒャハ、なに言ってんだぁ」

「ウホホ、風成殿、話聞いてたか?」


 なお、黒菜は真顔で風成を見ていた。


 少年は考え直した。


「……? 俺は炎を出せないけど、本条は出せる……みたいな?」


 瞬也は「そうそれが大きな違いだ」と答えた。


 瞬也は続いて説明した。


「君は……断定はできないけど肉体を強化している。そして、レイは生体電流を使って能力を行使している。君達のように自分自身の体を使って能力を行使する者を『変異系能力者』と言うんだ」

「あ、そういえば本条って炎そのものを生み出してるな」

「そう啓子君みたいに現象や物質を作り出す者達は『生成系能力者』、そして才華は人体を見ただけで損傷個所を発見出来る。よって、彼女は『感知系能力者』に属するんだ」

「へぇー」

「ちなみに俺も瑠那も生成系能力者だ」

「そういえば、まだ二人の能力を見た事ない気がする」

「今から見せよう、構えてくれ」


 風成は構えて、瞬也は右足を上げて地面を踏むと、


「【樹木生誕じゅもくせいたん】」


 瞬也が足を踏んだ辺りから芽が生えると成長して一秒足らずで二メートルの高さの樹木となった。


 風成は感嘆の声を上げる。


「おお!」

「もっと時間を掛ければ、大きな木も作れる」


と言って瞬也は生やした樹木に手を触れると樹木を縮んでいき芽に戻り消えていった。


「まるで、創造主」

「風成、構えを緩めない方がいいぞ」

「え? だって」

「これから攻撃する」


 攻撃と言われて風成は構えなおすと


「【幹飛みきとばし】!」


 と瞬也は前方の何もない宙に手を振ると、木の幹部分のみが出現する。幹は切株の面を風成に向けて一直線に飛び出し、


「……っぐ!」


 風成は幹を真正面から両手で受け止めながら後方に一メートルずれ動いて止まった。


「手いたっ」


と言って幹を横に放り投げながら「瞬也さんも案外、滅茶苦茶やりますね」と言った。


「瑠那にもよく言われるよ」

「瑠那さんは確か水を作れて操れるんでしたっけ?」

「そうだ」


 風成は転がっている幹の上に座ると黒菜が反応した。


「うちも……座りたい、疲れた」

「いいよ」


 風成が了承すると、黒菜が横に座った。


 瞬也は風成に話を続ける。


「そして、ここに来てもらってる三人は生成系でも変異系や感知系の能力者でもないんだ」

「色んな能力があるんだな……城ケ崎って強いの?」

「戦えない……無理……ふざけないで」

「えぇ……そこまで言わなくても、じゃあ修さんと茂さんも戦えないのか?」

「あっしも茂も戦えるぞ」

「ん? って事は城ケ崎は修さんらと違う系統の能力って事? 分からなくなってきた」


 風成は頭を悩ませたが瞬也はすぐに答えた。


「三人とも一緒の系統だが、他の能力と比べると異質だ。本人ではなく顕在化けんざいかする物に依存する能力だからな」

「遣唐使に……依存する能力?」

「そんな事一言も言ってない……とりあえず、今から能力を行使してもらう」


 修と茂はお互いに横二メートルぐらいの間隔を空けて風成の前に立った。


「お! なんだ、俺とやるのか!」


 風成は勝手にテンションが上がり立ち上がると茂は口を開く。


「ふーせっち、よく見とけよ」

「ふーせっちはなんか違う」


 と風成が答えた後、茂の周囲に全長二五センチの白く細く短い物体が十個現れ、修の右手には斧の様な形をした白い物体が出現した。


「【短刀十刀・顕現たんとうじゅっとう・けんげん】」

「【戦斧・顕現せんぷ・けんげん】」


 と二人が言うと茂の周囲の白い物体はダガーナイフとして姿を現し茂を囲むように宙に浮いていた。一方、修は右手には金属製の柄手一メートル、斧身が六〇センチある斧があった。


「おおお! かっけぇぇえ!」


 風成が感嘆すると瞬也が口を開く。


「彼らの様な能力者を『顕在化系能力者』と言うんだ」

「じゃあ城ケ崎も?」


 黒菜は立ち上がり、


「見てて……【蒼鳥・顕現そうちょう・けんげん】」


 風成の目の前に大きな白い塊が現れると白い塊から体格は雀に近い、身長一八〇センチの蒼い鳥が出現した。


 風成は正直、びっくりして腰が抜けそうになったがみっともないので踏ん張った。


「おお、お、おお!」

「大丈夫? ……ごめん」

「さすがに目の前にこの大きさの鳥が現れるとびびるわぁ……」


 『ピーー! ピーー!』と蒼鳥は鳴きだし風成に顔を寄せて擦り付けた。


「うお、やたらと人懐っこいな こいつに名前ないの?」

「ペンタゴン……略してペンちゃん」

「なんか聞いたことある名前だな」

「これでこの能力所に居る人達の能力は分かっただろ」


 と瞬也が場を締めくくって解散しようとすると通路に繋がる扉が開き、開口一番、


「瞬也、その能力、必要な時以外ここで使うなと言っただろ」


 と言ったのは副所長の水菜瑠那みずなるなだった。


「そ、そうだったな」

「あのな、木の片付けが大変なんだ。地面に生やした木と違って中途半端に出した幹は消せないんだろ」

「あ、はい」

「大体、夜にやる事じゃないだろ」

「……へい」


 瞬也はチラッと風成達が居る方向を見たが、


「なっ! 居ない! 馬鹿な!」


 瑠那を恐れた皆は消えたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る