第一六話 神戸特区能力所

 トレーニングルーム内での十月風成とおつきふうせいとレイ・ヴィスタンスの戦闘を強化ガラス越しに見ていた二人が部屋から出て来て彼らに近づいた。


 近づいてきた一人は、明るい髪色で白衣を身に着けている木馬才華もくばさいかだった。


「風成少年敗北やな! 三連敗!」


 と言うと近づいてきた、もう一人、黒髪セミロングの本条啓子ほんじょうけいこが一言付け足す。


「なによウルトラショルダーって」


 風成はこれ見よがしに煽られたので指を差して反論する。 


「確かに俺は負けた、だけどな! さっき編み出した新技使ってないからな!」

「どうせ、またダサい技でしょ」

「う……」


 風成は啓子に貶されて精神的ダメージを負うと、レイは思い出したように口を開く。


「そういえば十月とおつきが本条の事、暇人って言ってたぜ」


 風成は首を横に振って否定した。


「いやいや! お前! 言っていい事と悪い事があるぞ! それに俺は『暇かよ』って、言っただけだぞ」

「一緒の事だろ」

「ニュ……ニュアンスとか違うくない?」

「分からん」


 啓子は腕を組んで薄眼で風成をにらむ。


「誰が暇って?」

「落ち着けって、悪口じゃないだろ」

「私がここにいる事がおかしい?」

「いえ滅相もございません、もう一生に居ていいよ、一家に一台欲しい」


 と風成は啓子の機嫌を取ろうとべらぼうに喋ると彼女は慌てだす。


「ほ、ほほ欲しいってなによ。わ、私と一緒にくく暮らしたいって、い、いやでもまだ私達、中学生だし……」

「いや、飛躍しすぎだろ……脳みそお花畑か、ハッピーセットでも食べ過ぎたか」

「こい……つ……」

「あ、やばい」


 ドスの効いた声を出した啓子が炎で両手を包ませたのを確認した風成は全力でトレーニングルームから通路に逃げたした。当然、啓子は追いかけて行った。


「あの子ら、いつも通りやな」


 と才華が言うとレイが彼女に声を掛ける。


「木馬もわざわざ悪いな」

「なにがや」

「なにかあった時の為に戦いを見てたんだろ」

「そうやな、それとレイ」

「ん?」

「君、年上でも呼び捨てで呼びがちやから言うけど、他人にはしたらあかんよ」

「だが、テレビで祖先を辿ると人類みな兄弟とか言ってたぜ、何も問題ないと思うが」

「……アホやこいつ」


――神戸特区能力所とっくのうりょくじょの面々は集会所で昼食を取っていた。


「よし出来たぞ」


 と副所長の水菜瑠那みずなるなが言うとスパゲッティが入った六十センチの高さがあるパスタ鍋をテーブルの上に置いた。瑠那は料理が上手く、能力所の他の人達も手伝って料理をするのが日常であった。


 皆、皿を持ってパスタ鍋に群がってスパゲッティを取っていった。


「ヒャハハ、おい風成っち、ウィンナー取りすぎだろぉ」


 金髪モヒカンの長髪ちょうはつしげるが風成を咎めた。何故なら、風成のスパゲッティはウィンナーで見えない程だった。


「じゃあ俺のと交換しましょう」

「え、いやぁ、そういう事じゃなくて、おう……ありがと」


 金髪モヒカンは気づいたら風成と皿を交換していた。


「茂さん……取りすぎ……」

「ウホホ、おめぇさん、限度ってもんがあるぞ」


 薄茶色眼をした城ケ崎黒菜じょうがさきくろなが茂を咎めると、恰幅が良い強力修ごうりきおさむも口を出した。


「ヒャ、ちげぇんだ! これには訳があるんだぁ」


 茂の周囲が騒がしいと思った瑠那は、彼の皿を覗き込こんだ。


「いくらなんでもこれは酷いぞ、口に入れる前に一旦全部戻してくれ」


 年下の瑠那に軽く怒られた茂は「うぅ、俺っちなんて不憫なんだ……」と言いながらパスタ鍋にスパゲッティを戻し始めた。


「あ、あんた最低ね」


 と風成と相席している啓子が言い、


「本条、未来は誰にも予測できないからな、仕方ない」


 と彼は答えた。


 二人の横にあるテーブルには本能力所の所長であるくすのき瞬也しゅんやが居た。所長はなんとなく風成に話し掛ける。


「風成、レイと戦っているそうだな」

「三連敗もしてやりましたよ」

「レイは強いか?」

「オレの見立てででは強い方でしょうね」


 話を聞いてた啓子は「なんで勝ってる感じで喋ってるのよ」と言った。


 瞬也は風成に話を続けた。


「そろそろ、君を正式な能力者と登録する事が本部で決まったそうだ」

「てっきり、もう正式に登録されてるもんだと思っていました」

「今までは保護対象という名目で君を預かってたからね」

「なるほど」

「一員となった以上、能力について説明したい事があるんだ。また後日、トレーニングルームに集合を掛けるよ。それと能力所の電話番号のメモを採って懐に入れると助かる。何かあった時の為にな」

「りょーかいです」


 そして各々、食事を摂り始めたのであった。

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