第15話 カルト・エスクローの疑念

ⅩⅢトレーズの封魔の完了後、駆けつけたミッチェルによって、私とガバリ本部長は応援到着後、本部の救護班のもとに送られた。


「ミッチェル、悪魔は?」

「カルト、無事でよかった、すでに封じられていました」


屋敷で目を覚ました時には緑の光があたりを包み、焼け焦げてた男の足元に、緑に光る何かが落ちていた。

辺りはの景色は一変していた。敷地にあった大木は焼け焦げ、囲っていた塀は無くなり、周囲の木々からも焼け焦げた匂いが漂ってきた。屋敷は3分の1しか残っておらず、家畜小屋と倉庫はすべて吹き飛び、地面はどこもめくれ返っていた。



救護班のテントの中にはベッドが4つ、カーテンの仕切りでプライバシーを確保されてあった。

先に目を覚ました私は、現状把握に努め調査局長に連絡を入れた。


「はい、報告は以上です。失礼します」


ガバリ本部長が目を覚まされたのは、日付が変わり、昼を過ぎてからだった。


「ここは救護班のテントだね。良かった私は生きているようだ。カルト、悪いが調査は一時中断だ。亡くなった者を弔う期間が必要だ。でなければ調査の再開はありえない」


ゆっくりとガバリ本部長は、ベットから上体を起こした。


「あいたたたた、ひどい打ち身だ」

「そのように、すでに全隊員に伝えております」


お互いベットの上で会話を交わす。


「ということは、君の方が随分先に目を覚ましたのかな? 君も無茶をするようになったな」


本部長が私の心配とは珍しい、私が包帯で上半身がぐるぐる巻になっているからだろうが、カービスという男に比べれば軽症である。彼は全身丸焦げだったのだから。


「本部長の守護が私の使命です」

「悪魔相手に単騎で闘うなんざ、馬鹿のすることだ」


私の隣のヘッドに寝ていた、ジャンがカーテンの向こう側から口を挟んだ。


「同じ馬鹿として、パダレッキ副隊長には言われたくありません」

「今なんつった?」

「あなたほど私は脳筋ではありませんので」

「まぁまぁ、無事に封魔できたんだからいいじゃないですか」


ジャンはカーテンを開け始めた。


「本部長補佐についたぐらいで、調子乗るなよ、カルト」

「脳筋の副隊長止まりよりマシです」


ジャンと私の間には目に見えない火花が散っていた。


「やめないかふたりとも。カルト、封魔の魔法を使ったのはカービスと言う男で間違いないんだな?」


「はい、私が目を覚ました時には、その様に見えました」


ジャンとの目線を切り、ガバリ本部長に確信のこもった声でそう告げた。

ガバリ本部長は口髭をさりながら考え込んだ。


「これは割と重大な問題だ。管理局は調査局と合同で調査を始めるだろうね」

「調査局長には既に報告済です」

「本人は死んで脳は焼失、記憶は取り出せないときた。つまり、カルトの記憶が頼りになるわけだが。意識は朦朧としていて確かではない」

「残念ながら」

「我々でカルトの記憶を覗いても?」

「はい、もとよりそのつもりです。既に複製したものをここに」


「こっちらに投げてくれ、カルト」


私は手に握ってあった青い記憶の欠片、をガバリ本部長に投げた。放物線を描いて欠片は、ガバリ本部長のベッドの真ん中辺りに落ちた。


ガバリ本部長は記憶の欠片を拾わずにその場で詠唱を始める。


「我らに記憶を示せ『記憶の欠片ピースメモリー』」


私の視界から見えたのは、私の大きな盾の後ろから、封魔の緑の光がⅩⅢトレーゼを包み込んでいく。


光が消えしばらくすると、炭化した男の腕が私の盾と一緒に崩れ落ちた。焼け焦げた男の遺体の足元にはⅩⅢトレーゼの石版が転がっていた。


「暗いのと盾の影でよくわからないが、カルトの言うようにカービスと言う男で間違いないだろう。焼け焦げた男以外映っていない。これ以上時間をおいて再度記憶を取り出しても記憶があせてよりわからなくなるだろう。封魔の魔法についてはこのまま報告したんだな?」


「はい、早ければ明日にはどなたかが来られるかと」


調査局長あたりが現場に来そうだが、重要な案件は他にもある。補佐当たりが来るのが現実的だろう。つまり来るのは私の姉かデルだ。


「被害状況は、だれか把握しているかね」

「うちの隊長が調べてます。そのうち見舞いに来るかと」


自体の収集に隊長達は忙殺されている頃だろう。


「ガバリ本部長、サミュエル・グルトブルーです。被害状況の把握ができましたので、ご報告させていただきます」


グルトブルー先行調査隊隊長が来たのは、質素な夕食が運ばれてきた時だった。


「どうぞ」


「失礼します。まず調査地域の現状ですが、東の森は全焼、現在も一部で燃え続けています。他の地域に関しましては、鎮火が完了しました。森に関しては私の部下が再生魔法を駆使しておりますが。元の状態に戻るには数十年以上かかるかと思います」

「我々が調査を終えるころには元に戻っているだろうさ。あまり悲観することはないよ」


本部長就任挨拶で、ガバリ本部長が西の調査が終わるには、50年はかかると言われたのが、私の記憶の中では新しい。


「次に『呪縛ⅩⅢ』を受けた呪傀ラガドール13体は国境警備に当たっていた魔法使い達で間違いないだろうということが判明しました」


悪魔の数より少ない人数で挑まなくては、呪縛という特殊な魔法を発動される。魔法の対象となるのは人間で、呪縛を受けた人間は悪魔の支配と戦うこととなる。支配に敗れると石版が黒く染まり、悪魔の手下となる、その時には、人間だった頃の人格は存在しない。悪魔の操り人形だ。


悪魔には他にも特定の相手を呪う『ラムド』という魔法もある。私やジャンたちがそれに該当する。


「次に死者数と怪我人ですが、先行調査隊死者数1、重傷者5名、軽傷180名、遺跡調査隊死者73名、重傷者86名、軽傷160名、市民の死者数は527名、行方不明者384名、重傷者215名、軽傷349名です。人数につきましては今後も変動があると思われます。私の部下に随時カルト補佐に報告させますので、ご安心ください」


ここまで被害が広がったのは、結界班の機能停止と本部長の不在が大きい。過去にはもっと死者が出た調査もあるが、近年の状況からすると過去最悪と言ってもいいだろう。

ガバリ本部長は、無言で死者を悼む祈りをささげていた。


「結界班の被害はどうなった?」


「ほぼ全滅です。未だ意識不明の者が多く、後2、3日は目覚めないと思われます。結界の破壊につきましては、ⅩⅢトレーゼ以外に悪魔がいたと予想されます。現在も結界を展開し警戒させておりますが。襲撃の予兆らしきものはありません」


今、別の悪魔に襲撃されれば、遺跡調査隊は壊滅するだろう。


「その件、なんだが。私とカルトも別個体の悪魔の存在を確認した」

「どこででしょうか」

「ウィガロット邸でだ。『誓願の城シャトール』が破られた」

「術者が誓いを破ったのでは?」

「それはない。私も同席していたんだよ、サミュエル隊長」


ⅩⅢトレーゼとの戦闘中にウィガロット邸の一室から、悪魔の反応が急に沸き上がった。


悪魔の力は一瞬だけ膨れ上がり、『誓願の城シャトール』は内側から砕かれた。その後、悪魔の反応はものの見事に消えた。


それさえなければ、わたしとガバリ本部長はここまで重傷を負わなかった。


「そうないりますと、我々は結界をすべて張り直さなくてはなりませんな」

「そうなるだろうね。議会には報告済みか?」

「私が報告しました」

「では、これで失礼いたします。ジャン、話がある」


グルトブルー隊長は報告を終えるとジャンと何かを話して直ぐに帰っていった。


「お早い回復をお祈りしております」


翌日、ガバリ本部長と私は現場に復帰した。

今だ包帯だらけだが、連絡業務が主なので問題はなかった。ガバリ本部長は杖をつきながら、何とか自力で移動していた。


「はるばる、ご足労頂きましてありがとうございます。 ヴァルべット調査局長」

「君を任命したのは私だからね。まぁ、来るよね私が。見てきたけど、森のやけ具合が酷いね」


軽い口調で、現状を確認してきた感想を、ヴァルべット調査局長は述べた。

ガバリ本部長の部屋の、ヴァルコフ元本部長の遺品をあさりながら、ヴァルべット調査局長は、魔法調査局に届いた西国の印章が押してある、手紙を取り出し、目を通した。


「ガバリ本部長、西王が今回の事態を重く受け止め、魔法の調査に関して今一度、対策を協議したいと申し出てきたよ。これに関しては私が行くよ。異論はないよね」

「申し訳ありません。よろしくお願いいたします」

「この話し合いはたいした問題ではない。話し合えば終る。問題は調査局と管理局の調査が不十分だったと言うことだ」


ヴァルべット調査局長は、私が調べ作成した、封魔の魔法を扱える血統者のリストに、今度は手を伸ばし、破り捨てた。


「封魔の魔法はね、悪魔だけを封じれる魔法ではないんだ。君は知っていたかね?」

「いえ、封魔の魔法に関しては、情報の取得が禁じられておりますので、詳しくはなんとも」


石版の絵柄さえ、ほとんどの者が知らない。


「あの魔法は危険なんだ、我々が管理しなければならない。君もこれからはそのことを覚えておくといい。下手に個人で調査をすることのないように、頼むぞ」


ガバリ本部長の肩を叩くと、部屋を出ていこうとした。


「それと今回のⅩⅢトレーゼの石版は管理局に持って帰って来い、と言われていてね。既に我々の手中に収めさせてもらった。被害が酷いそうだがよくやった。上には良いように伝えておくから、下手なことはするな。今後も調査を頼むぞ」

「はい、ありがとうございます」


ヴァルべット調査局長と一緒に部屋を出て馬車に乗り込む局長を見送る。


石版を貰う代わりに、本部長の座は守ってやる、いい子にしていろ、逆らうなということだ。


馬車が走りだす中、隊員の声が聞こえた。


「局長!! 石版が盗まれました」

「大声で報告をするな、他の者にも聞こえてしまうだろうが、馬鹿者!! それと何を馬鹿な事を言っている、あれだけ厳重に保管してあっただろうが、そんな馬鹿な事があるか!! 見張りをしていた者は何をしていた」


封魔の石版の、それも悪魔を封じてあった物を盗まれたとあっては、局長も責任が問われるのは当然の話。見つからなければ自身の進退で済めばいいが難しいだろう。


局長の慌てようを外からの想像して、微笑みながら場社を見送っていると、通信が入った。


『こちら先行調査隊副隊長ミチェル・グレイグです。ガバリ本部長、ウィガロット様一同の記憶に関する調査が終わりました。該当者はいませんてした。ウィガロット様の倉庫にあった石版は、全て盗まれたようです』


部屋に戻りながら、ガバリ本部長は口髭を触り考え込む。


「我々は何かを見落としています」

「そうだろうね、私もそう思う。その鍵が私の抜き取った記憶にある可能性が高いが、契約上どうにもできない」

「推測では」

「今となっては無駄だね。倉庫から石版が消えた。確認のしようがない。彼らとはもう一度話す必要がある」


「亡くなった、カービス・ハンスキーの姓であるハンスキーは、血統者のリストには過去のものを探しても該当しませんでした」


部屋に戻り、破られたリストを拾い集め、修復の魔法でもとに戻した。


「カルト、魔法調査部か管理局の知り合いにババロ・ウィガロットの周辺と過去についって調べさせられるか?」

「知り合いに頼めば可能ですが、よろしいんですか?」

「構わないとも、もとより私は本部長の位に興味などないからね」


知りたい情報は既に魔法局から集めとった。いつ辞める事になろうと問題はない。


「カルトまた迷惑をかけるがよろしく頼むよ。さてまずはツムリ平原にでも、今回の被害者のために慰霊碑を建てなくてはね」


長ければ半年は調査が止まる。その間に何かがわかり、また新しい疑問が沸き起こるだろう。


本部長室の階段をくだりながらカルトは、調べなければならない疑問を整理し始めた。


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