第3話 心はここに無い

 お昼の12時になるとこの会社はチャイムが鳴る。それと同時に皆伸びをしたりお昼に出かけたりする。この会社は社員食堂はもちろんある。休み以外の日に毎日作りに来てくださる方々のカロリー計算された定食から、ガッツリ食べたい人用のメニューまでそれぞれ。

 入社したら社員全員に配られる社員食堂専用のカードがある。こちらをカードリーダーにかざせば給料から天引きされるというシステムになっている。もちろん他にも自分でお弁当を買ってきてる方もいれば、外へ食べに行く人もいるし、コンビニでカップラーメン買ってきて自分のデスクで食べてる人もいる。


「ん~~!お昼だ~!」

「先輩今日も食堂っスか?」

「今日もとは何よ今日もとは。」

「だって、毎日食堂...。」

「自分でカロリー計算して作るお弁当より、ここの食堂の方がしっかりカロリー計算されてるから助かってるのよ。」

「物は言いようっスね。」

「うるさい。そういう貴方もでしょう?」

「おふくろが、野菜やお米食べなさいってうるさいんスよ~。」

「そこはうちも変わらないなぁ。特に野菜はしっかり食べなさいって小さい時からうるさかった。」


 そう言いながら、財布とスマホを持って席を後にしようとしたら、今日入った新入社員の大間君が自分のデスクに座っていた。


「大間君、お疲れ様。」

「あ、どうも..。えっと..。」

「昼にはきちんと自己紹介しようと思ってたけど、早川です。」

「よろしくお願いします。えっと...僕に何か用ですか?」

「いえ、せっかくだし一緒に社食でお昼どうかなって。」

「僕は大丈夫です。ここで食べますので。」

「そう...。」


 そう言われてしまうと何も言い返せなくなってしまった。入口の方で花崎が、先輩行くっスよーという声がしたので、今行くと言ってその場を後にする。


「うーん..。」

「どうしたんスか?」

「花崎、今日大間君と話した?」

「自己紹介ぐらいとちょっとだけっすね、話したの。」

「話聞いてくれてた?」


 私がそう言うと花崎はうーんと腕を組んで首をかしげながら少し考え込みながら歩く。


「俺の個人的感想なんスけど。」

「ええ。」

「多分あの人、人間嫌いじゃないっスかね。」

「人間嫌い?」

「多分っすよ?話は聞いてくれてたんすけど、お前には興味ないって感じっす。」

「花崎だけ?」

「全体じゃないっスかね。河西課長の話聞いてた時もそんな感じしたっす。仕事以外の話してたの俺も横で聞いてたんで。河西課長は気にしてなかったみたいっスけどね。俺の気のせいだと思うっす。」

「そう...。」


 そんな話をしていると社員食堂がある6階へ着いた。毎日ここは人であふれかえっている。


「今日は何食べようかしらね~。」

「俺はトンカツ食べるっす!」

「相変わらずガッツリ行くわね。私は唐揚げ定食にしようかしら。」


 私たちは自分の食べたいものを頼んで、カードリーダーにカードを通す。どこに座ろうかと二人で話していると..。


「早川ちゃーん!花崎ー!」

「君嶋さん。」

「君嶋先輩!」


 営業に移ったばっかりの君嶋さんに呼ばれそこに座ることにした。


「もう私は先輩じゃないわよー。」

「あ、すいませんっす。癖で。」

「その口調もクセよね花崎の。」

「ッス。」


 花崎が照れ臭そうにしながら席に着いて、いっただきまーすと元気よく言って食べていた。私も席に座り唐揚げ定食を食べる。


「そうだ、聞いたわよー。そっち新しい子入ったんでしょ~?」

「はい。」

「大間って言うっす!」

「大間君か~。私も見てみたかったな~。社食には誘わなかったの?」

「誘ったんですけど、断られたんですよ。」

「へぇ~。珍しい子もいるもんねぇ。普通は先輩に誘われたら断らないものじゃない?」

「無理強いはしませんよ。」

「それもそうだけどさ。」


 君嶋さんはラーメンをすする。私も残っていた唐揚げを頬張りながら花崎の方を見たらすでに食べ終わっていた。

 そこから他愛ない話をして食器を片付けて自分たちの部署へ帰る。それぞれの部署には一応喫煙所が設置されている。もちろん分煙はされている。


「じゃ、俺他の部署のとこに行ってくるっす!」

「時間までには戻りなさいよ~。」


 私は自分のデスクに戻り鞄の中に入っているタバコケースを持って喫煙所に向かう。大間君はどこかに行ったのかデスクには居なかった。喫煙所についてさぁ一服と思ってドアを開けたら先客がいた。


「あら...。」

「あ...。」


 そこに居たのは大間君だった。喫煙所内は空気清浄機の音だけが鳴り響いていた。


「....ふぅ。」

「..バコ。」

「え?」

「..タバコ、吸うんですね。」

「意外?」

「見た目からして吸わないんだろうなって思ってました。」

「よく言われる。」


 少し会話したらまたその場は静かになった。空気清浄機の音が鳴っている。


「本当はやめたいんだけどね、タバコ。」

「..........。」


 そう言って私は喫煙所を出る。スーツについたタバコの匂いを消臭スプレーで消して席に座る。この休憩が終われば昼から私が大間君のOJTをすることになる。窓の外を見れば雲が午前中より多くなった気がした。






 午後も鉄塔はそこに立っている。

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