第2話 新たな出会い
電車に揺られること20分。ようやく会社最寄りの駅へ着いた。駅へ降りてからまた徒歩10分ぐらいで会社に着く。家を出てから日差しは変わっておらず、本当に雨なんて降るのかと思うぐらいの青天。
「洗濯物、出してこればよかったかな...。」
空を見てぽつりとつぶやく私の背中をポンと叩く。後ろを振り向けば後輩の花崎遼が居た。
「先輩、おはよーございまっす!」
「おはよう。貴方はいつでも元気ね。」
「元気じゃない俺は俺じゃないっすから!」
「それもそうだけど。」
私は花崎の頭を軽く小突く。花崎は頭の上に?マークを浮かべてる様だった。
「私に対してはかまわないけど、他の部署の課長や部長、その上の方々にその口調は駄目よ。気をつけなさい。」
「先輩には、いいんすか?」
花崎は私の顔を覗き込む。私はため息をつきながら肩からずり落ちてきそうだった鞄の紐をかけなおした。
「何回言っても治らないんだもの。あきらめました。」
「面目ないっす。」
「元々気にするタイプでもないから。でも、上の人への口調、気を付けてね。いつ怒られるかハラハラしてるんだから、こっちは。」
「気を付けるっす!」
元気よく返事する花崎に再び私はため息をつく。ため息をついたころに会社に到着していた。
「はーっ、涼しいっすね。」
「うちの会社は暑くなるとすぐ冷房入るし、寒くなるとすぐ暖房入るから助かるわ。」
「ですよね!俺、ずっと会社に居たいっす...。」
「仕事量増やそうかしら。」
「げっ。」
花崎はあからさまにイヤな顔をする。それだけはご勘弁をー!!なんて横で騒ぐ。
それを聞きながら私は会社のパスを取り出しゲートへかざす。ピッという電子音が鳴りゲートが開き私は開いたゲートを通る。
私と花崎の部署は10階建ての会社のうち5階だ。エレベーターに乗り5の数字を押すとエレベーターのドアは閉まり上へと上がっていった。
「そういや、先輩聞きました?」
「何が?」
「今日、俺らの部署に新しい人くるらしいっすよ。」
「え、こんな時期に?」
「らしいっす。珍しいっすよねー。」
「誰か欠員いたかしら。」
「総務なんで欠員なんていないっすよ。」
「そうよね。」
今は6月。新入社員なら4月に入ってくるところだ。中途採用なんてしてたっけと思いながら5階へと着き、私たちはすでに来ていた人に挨拶をして自分のデスクへと向かった。
うちの会社の総務部は5人。総務部部長一名、総務部課長(兼部長代理)一名、総務部主任(兼課長代理)一名、一般社員二名となっている。これが最低人数だ。
社長には秘書がついているし、専務にも秘書がついている。何故一人増員する必要があるのだろうか。
そう考えながら自分のデスクに置いてあった伝達事項のメモを目に通していたら、部長から声がかかり、会議室へ呼ばれた。
「早川君には悪いんだが、今月からこの総務部の主任をしてもらいたいんだ。」
「え?」
「そういう返事が返ってくることはわかっていたよ。何せこういった通達は4月だからね。」
「今は6月ですが...。」
「うむ...。」
「君嶋主任、何かあったんでしょうか。」
「君嶋君は部署移動となったんだ。」
「また、急ですね。どこか欠員があったんですか?」
「営業の方でな。一人辞めた人間がいるんだ。」
「総務と営業じゃ全然部署内容違うと思うのですが...。」
「彼女は前の職場は営業をしていたんだよ。それにあの口達者な彼女だ。営業でもやっていける。」
「それで、彼女が営業へ?」
「ああ。」
急すぎて話が入ってこない。そんなことを考えていたら部長がまた口を開いた。
「あの、彼女の後を引き継ぐんですよね。」
「そうなるね。」
「いつ引き継ぐんですか?」
「今日。」
「今日!?」
「君たちならできるよ!」
「そんな、無茶な...。」
「後....。」
「まだ何かあるんですか。」
「そんな目で俺を見ないでくれ.....。」
怪訝そうな目で私は部長を見る。そりゃそうだろう。急すぎる上にまだ何かがあるときた。私は部長へ声をかける。
「それで、後なんですか?」
「この後正式発表になるが、今日入ってくる新入社員の面倒をみてやってくれ。」
「え、ちょっと待ってください!花崎に任せてくださいよ!」
「あーいや、彼は仕事はできるんだが、教えるのは無理そうなんだ、というか本人が無理ですって言ったんだ。」
「そんな....。」
「別に花崎君の面倒は見なくて大丈夫だろう。彼も入社して3年たつ。一人でもやっていける。」
「それは、そうかもしれませんが.....。」
「良い案を思いついたぞ早川君!」
「却下です。」
「キッパリ言ったね君。」
「部長の良い案は良い案ではないからです。」
「そんなことないと思うけどなぁ。」
私はため息をつく。私は自分につけている腕時計を見るとそろそろ朝礼の時間になる。
「部長、朝礼の時間が来そうですが。新入社員待たせてるんではないですか?」
「む、そんな時間かね。それはいかん。この良い案はまた後で伝えよう。」
「絶対却下です。」
そんな会話を言って私たちは部屋から出る。私は自分のデスクへ戻り、再びため息をつく。そんな私を見て花崎が寄ってきた。
「先輩、一気に疲れた顔してるっすよ。」
「あんな話聞かされたら疲れるわよ....。」
「え、部長から何言われたんすか?」
「この後の朝礼で分かるわよ。」
花崎は頭に?マークを浮かべるも部長が新入社員を連れてきたので自分のデスクに戻る花崎。
「えー本日よりこの部署に新入社員が入ってくることになった。挨拶を。」
「大間大志です。皆さんの足手まといにならないよう気を付けます。よろしくお願いします。」
パチパチパチと拍手が部署内に広がる。そのまま続けて部長が話をする。
「皆も気づいてるとは思うが、君嶋主任が急遽営業に欠員が出たということで、総務部から営業部へと移動になった。」
ちらりと花崎の顔を見ると、マジ?っていう顔をしていた。目を花崎から部長へと戻す。
「君嶋主任の後を早川君に努めてもらう。早川君、急ですまないけどよろしく頼むよ。」
「はい。」
「いつもは新入社員の教育を早川君に頼んでいるんだが、今回はあまりにも急すぎるのと早川君自身の引継ぎもあるから早川君の引継ぎが終わるまで、大間君の教育を河西君に頼みたい。」
「かしこまりました。」
「本日の朝礼はこれにて終わりにする。」
朝礼が終わると同時に私は手帳とペンを持って営業部へと足を運ぶ。営業部は三階だ。階段で降りる方が早い。パンプスをカツカツと鳴らしながら足早と降りていく。
「失礼します、総務の早川です。君嶋さんいらっしゃいますでしょうか。」
営業部入り口でそう名乗ると、ここよ~~~。と覇気のない声が聞こえてくる。声の元へ出向く。
「君嶋さん、なんだか疲れた顔してますね...。」
「そりゃ疲れもするわよ~~!引継ぎ相手は辞めてるもんだから、別の人間に聞こうとしたら....。」
君嶋さんが親指で指した方向を見ると、そこにはゴリマッチョな男が立っていた。彼の名は剛里。営業部きってのエースだ。彼の性格を一言で表すなら....。
「早川さん!!!お疲れ様です!!!!」
暑苦しい。これに尽きる。
私は君嶋さんの方をポンと叩き、ご愁傷様と伝えた。あれから私は君嶋さんからの引継ぎを聞いていた。大体30分ぐらい、といったところか。
「後は私が残した書類見てもらっていいから~。細かいところで分からなかったら内線頂戴。私の内線番号はこれね。」
そう言われて紙に内線番号を書かれたメモを渡され解散。私は自分の部署へと戻っていった。
「おや、早かったね。」
「君嶋さんの引継ぎ相手が剛里さんだったもので...。」
「ああ、疲れてたんだ彼女..。ご愁傷様だね。」
「はい...。大まかな引継ぎをして後は彼女の書類を見ることに決まりました。わからないところはまた本人に内線で聞きます。」
「彼女、優秀だから抜かりないねそこのとこは。いつでも引継ぎできるようになってたわけだ。」
「頭が上がりませんよ、本当に。」
そう言いながら、ちらりと河西さんの方を見たら新入社員の教育をしていた。
「部長、今どれぐらいですか。彼の教育のところは。」
「あー、どうだろう。彼女に一任しちゃったからわかんないや。」
「把握ぐらいしてくださいよ.....。」
「多分、昼から早川君に代わると思うから、午前は引継ぎしたやつもあるだろうから自分の仕事してていいよ。」
「はい、そうします。」
自分のデスクに戻り君嶋さんからの引継ぎした事柄と書類をまとめた。
ああ、窓から見える鉄塔はなんと凛々しいことか。
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