第42話:滅理の神光
『《ストームグリフォン》』『イグニッション!』
「《刃翼のストライクスラッシュ》――!」
挨拶がてら、開幕必殺技をぶつける。
ナイトソードの刀身に形成された風の翼から、羽根状の風刃を乱れ撃ちだ!
『無駄』
光の障壁がデウスの全身を球状に覆い、風刃は全て弾かれた。
俺は足場から足場へ飛び移りながら高速でデウスに接近し、死角から蹴りつける。
デウスは微動だにしない。俺の動きが目で追えていないというより、最初から追っていない。無防備なまでの棒立ちだ。
『無意味』
その余裕を裏付けるように、俺の蹴りは光の壁にヒビ一つ入れられなかった。
ここでは虹の海から、無尽蔵にマナが湧き出ている。デウスはそれを独占することで、ソアラたち《円卓》も比較にならない馬鹿げた魔力を発揮していた。
俺が弾き飛ばされたところで、デウスは《神剣》を振るう。ただし剣技の類ではなく、指揮棒を操る手つきだ。それに合わせて光が剣を形成し、こちらに飛来する。
対して俺は《アシッドスライム》の付与で体を液状化。しかし光の剣に切断された右腕はくっつかず、力を失い虹の海に落ちてしまった。
続いて二本目、三本目の剣は避けるも、デウスとの間に再び距離が開く。
『無益』
光輪から閃光の照射。
《フォートレスタートル》の付与で展開した障壁は、なんの抵抗にもならず一瞬で穿たれた。左足に被弾し、膝から下が綺麗に消し飛んだ。
熱も衝撃もない。ただ、光を浴びた部分が塵も残さず消滅している。
『なにをしても無駄だ。これは森羅万象あらゆる理を滅する神の光。我が威光の前では、如何なる力であれ無に帰すのみ。神の前に人は無力、それこそ絶対の摂理なれば』
「それはまた、怪造人間一人を相手に随分とオーバーな武器を持ち出したものだな。そんなに俺が怖いのか?」
軽口を叩きつつ左足の再生を試みるが、思うようにいかない。
デウスに一帯のマナをほぼ全て掌握されているせいで、『ここでは』暗黒物質も満足に吸収できないためだ。
『ギル様……!』
『お前は下がっていろ。他に任せたいことがある』
バットナイトには通信で別命を与え、ソアラたちの傍らに待機させた。
片足で絶えず足場を移動し、追撃の光剣と閃光を避ける。虹の海から無尽蔵に得られる魔力を誇示するように、閃光の連射を続けながらデウスは告げた。
『悪足掻きはよせ。命が惜しければ跪いて許しを請うことだ。我は世界の管理者にして秩序の守護者。我が示す正しき道に従ってこそ、人の生は幸福と安寧が約束される。愚かな人間はただ迷わず疑わず、神の敷いた正道を歩むべし』
「わからんな。そうやってなんの変化もない、日々腐っていくだけの同じ日常を繰り返す人間を眺めて、一体なにが楽しいんだ?」
この自称神が望むのは秩序という名の停滞だ。
革新という名の混沌を求める俺としては、どうしようもなく理解に苦しむ。
『神に逆らう不埒者では、神の慈愛がわかるまい。人類の今日までの繁栄は、全て我が授けた奇蹟の恩恵あってこそ。貴様ら愚かで矮小な人間は、神の庇護なくして生きてはいけないのだ。その恩も忘れて神に弓引くなど、恥を知るがいい』
「クハハッ。――馬鹿が。わかっていないのは貴様の方だ。貴様は人の愚かしさ具合を過小評価しているぞ」
俺は知っている。神も仏もないような世界で人間が積み上げた歴史を。
裸の猿同然のちっぽけな存在が、途方もない犠牲を重ねて成し遂げた偉業を。
「蝗のごとく増殖し、星を隅々まで食い荒らし、争い合う果てに地獄の業火で己を焼く。それでも希望を叫び、夢を思い描き、不可能を可能にする。矛盾を抱えたまま幾度もの滅びを乗り越え、いつか宇宙の彼方にまで手を伸ばす。神のちっぽけな奇蹟に頼らずとも、人は無限の可能性を秘めているんだ。神ごときの手に負えるものかよ」
俺も一度は『こんなものか』と人間を見限り、滅ぼそうとした。
しかし些細なイレギュラーに過ぎなかった一人の男が、最強の怪人となった俺をも倒して世界を救ってのけた。その勇姿はまさしく、俺が夢見た本物の《ヒーロー》だった。
やはり人間の、世界の可能性は、どこまでも広大で果てしない。
そう信じるからこそこいつの、デウスの存在は許し難い。
「俺はこの世界を征服する。まだ見ぬ人の進化、世界の未知を味わうために。名ばかりの秩序と平和で人間を腐らせ、進化を妨げる貴様は邪魔だ」
狭苦しい囲いを飛び出し、広くて綺麗な世界を見るのだとシンディは言った。
叶えよう。連れて行こう。彼女が俺と渇望を同じくするのなら、どこまでも共に。
だから、俺はお前を手放さない。神ごときには渡さない。必ず奪い返す。
『わけのわからぬ妄言を。我が威光を浴びれば一瞬で塵と化す、脆弱な虫けらが増上慢も甚だしい! 貴様がいくら足掻こうが、神の前では無為! 無駄! 無意味!』
「どうかな? 貴様のインチキのタネはもう割れているぞ」
――そもそも、この異世界は概ね地球と同じ物理法則で成り立ちつつ、それがマナの影響で酷く不安定な状態にある。個人の意思一つで大きな歪みが生まれるほどに。
マナを取り込んで生み出す魔力とは、その歪みから持ち主のイメージを現出させるエネルギーなのだ。膨大な魔力さえあれば、科学的に本来要する過程をすっ飛ばして、核融合という結果を直に引き起こせてしまう。原理も知らない生身の人間が、だ。
個人の癇癪一つが天変地異規模の影響を及ぼし得る。そう考えれば、如何にこの世界が危うい状態か察せられるだろう。
そして今この空間は、マナを掌握したデウスの思うまま。次元の隔たりを作ってあらゆる攻撃を防ぐことも、相手を原子分解して塵に還すのも容易い。地上よりもマナの濃度が遥かに高く、物理法則が一層不安定だから尚更だ。
――つまり。『マナの超高濃度による物理法則の超不安定化』『マナの掌握と独占』この二つが、デウスを神のごとき存在足らしめているわけで。
攻略法は簡単だ。ここが敵の土俵なら、それを台無しにしてやればいい。
『いい加減に、消えろおおおお!』
「…………っ」
一向に当たらず焦れたか、デウスが放つ特大の閃光を、俺は全身で浴びた。
肉体が原子単位で分解され、後には塵一つ残らず消滅する。
「ギル、様」
『フハハハハ! 口先だけの道化が! 神に逆らう者は皆こうなる運命なのだ!』
エリゼを始め一同が愕然とする中、デウスの高笑いが響く。
――やはりわかっていなかったか。肉体を消滅させた程度じゃ俺が滅びないことを。
なぜなら仮初の器なのは俺も同じ。俺の核に当たるパーツは変身アイテム等と同様、《時空間掌握システム》によって異空間にある。だから実戦試験でも、半身が炭化しようが平気だった。俺が掌握する異空間の存在を、デウスは認識もできていない。
そしてデウスが虹の海のマナを全て支配していようが、別次元と繋がる俺の異空間には暗黒物質が満ちている。
その異空間にて全ての準備を終えた俺は、かつて世界を震撼させた力を解き放つ。
そう、《大首領》の力を。
「変身――」
異空間より出現するは、今までと全く毛色の異なる形状をした、黄金のベルト。
ベルトの中央、一つ目の宝玉が金色の輝きを放ち、世界に暗黒が溢れ出した。
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