第38話:神剣エクスカリバー
《神剣エクスカリバー》――アーサー王と聞けば誰もが思い浮かべるであろう、王道の中の王道たる伝説の剣。《聖剣》の代名詞と言っても過言ではない彼の剣は、この異世界ではなぜか《神剣》と称されている。
「聖なる剣」ならざる「神の剣」。
もう誰かの作為や陰謀を感じずにはいられなくて、ワクワクするな。
それはともかく、この世界では騎士王アーサーが神から授かったされるエクスカリバー。現在では騎士王の手元ではなく、騎士王学院の地下に封じられていた。
噂に曰く、「邪神の復活に備えて眠りについている」「初代騎士王が台座に突き刺して以来、誰にも抜けなかった」「抜いた者は初代騎士王の生まれ変わり」とのことで。
そして神剣が眠る封印の間は、王族の魔力でしか扉が開かないという。
タラテクトナイトことシンディは王族に連なる五大公の娘だ。彼女がこちら側にいる時点で扉を開ける分には問題ないが、ただこっそり忍び込むのも面白くない。
では、どう開けるのが面白いか? 俺の出した答えはこうだ。
「《疾風のストライクエンド》――!」
「アアアアッ!」
必殺キックでソアラを扉に叩きつけ、力づくで魔力を認証させて突破!
封印による防御性を失った扉は、くの字にひしゃげてふっ飛ぶ。扉に埋もれる真紅の騎士も、一緒に室内へ放り出された。重傷だが変身解除には至っていない。
学院の地下五階に位置する封印の間。戦闘しながらここまで追い込んだのだ。
しかし……たどり着いた広大な部屋は空っぽだった。台座に刺さった神剣どころか、家具や設備の類も一切見当たらない。一見してただの空き倉庫だ。
あるのは壁の古い文章と、足元の床一面に描かれた魔法陣のみ。
ふむ。どうやら、ここはまだ入り口に過ぎないということらしい。
と、遅れて他の二組もこの部屋に入ってきた。
「タラテクト、合流完了よ。ちょっと手こずったけどね」
「おのれ、卑劣な手を! ちょ、転がすのはもうやめぇぇぇぇ」
二番手はタラテクトナイトとヨシュア・ロンギヌス。
戦闘の経緯はこうだ――突進で迫るヨシュアに対し、タラテクトナイトは廊下に蜘蛛の巣を幾重にも展開。余裕が生まれると同時調子に乗ったヨシュアが、勢いのまま突き破ろうとしたのが失敗だ。金属糸が全身に絡みつき、糸玉状態になってしまった。
ヨシュアはここまで床を転がされ、すっかり目を回している有様。
「遅れて申し訳ありません。バット、ただいま合流完了いたしました」
「うぐうう。どうせなら引きずるんじゃなくて抱えてくれよ。こう背中から腕を回して、二つの御山が密着するように……ぐへっ」
三番手はバットナイトとシーザー・フェイルノート。
こちらの経緯はこう――空中戦は生徒の支援を得たシーザーに軍配が上がり、バットナイトは撃ち落とされた。しかし墜落した先は音楽室。防音処置により室内で反響・増幅した精神攻撃音波で、追撃しに入ったシーザーを逆に昏倒させた。
騎士鎧の躯体に鼓膜も三半規管もないが、《マッドバット》の音波は精神を直にかき乱す。目を覚ました今も意識が朦朧とし、まともに立ち上がれない様子だ。
敗色濃厚の空気だが、果たしてソアラたちは逆転劇を見せてくれるかな?
「合流、ご苦労さん。ここが封印の間だ」
「でもここ、なにもないわよ。部屋を間違えてない?」
「封印の間の位置は、タラテクトからの情報だったはずでは?」
バチバチ睨み合う二人。これは仲間割れからの逆転フラグか?
「ここで間違いないぞ。おそらく――お?」
床の魔法陣が眩く輝き始めた。
室内が光で白く塗り潰される。
そして光が収まると、全く別の場所に俺たちは立っていた。床一面に描かれていたのは転移魔法陣だったのだ。
どうやら、王族の魔力を複数感知して初めて起動する仕組みだった様子。
壁の文章にも無駄に仰々しく迂遠な言い回しで、「円卓の血を引く者が揃うと本当の封印場所に行けるよ!」という旨のことが記されてあった。一人では封印場所にたどり着けない仕様は、私利私欲で神剣に手を出させないためだろうか?
地上までの距離を計測したところ、どうやら相当深い場所まで転移したようだ。地下三百メートル以上、階層にして地下百階はあるだろう。
「おお、これはっ」
「すっげえ」
「ここが、神剣が眠る真の封印の間……?」
ソアラたちが、己の状況も忘れて感嘆の声を漏らす。
転移した先は古代の神殿めいた、厳かな見た目の場所だった。
仄かに光を放つ、白磁の床や壁。天井には小さな天球が太陽のごとく全体を照らしている。中央にはピラミッド型の巨大な祭壇。時代も文明も我々とはかけ離れた、神のごとき者が遺した建造物、といったところか。そんな具合のデザインだ。
ソアラたちだけでなく、タラテクトナイトとバットナイトも目を奪われている様子。
しかし――俺にはどうも胡散臭さが目について仕方がなかった。
なんというか、全体的に安っぽいのだ。
たとえば壁の亀裂や苔。時の流れを思わせる劣化の表現だが、明らかにおかしい。実際に時間の経過でついたものではない。そう見えるよう最初から設えた装飾の一部。この空間はまるで出来立てのように、時間の経過が一切感じられない。
なにより時間の経過を精密に表現しようという、造り手の拘りや気概が皆無なのだ。
「適当に亀裂や苔を散りばめれば古代っぽく見えるだろう」……そんな安易で杜撰な、作品に対して愛情の欠片もない意図が透けて見える。
拘り派の俺としては非常にいただけない。俺ならもっと気合の入った、うっかり本物の邪神が降臨してくれるような出来に仕上げて見せるのに!
「ねえ、アレ! 祭壇の頂上!」
「もしや、アレが《神剣》……!?」
怪騎士二人が指差した先、祭壇の頂上には台座に突き刺さった剣が。
黄金の柄に白銀の刀身。神々しい輝き放つ仰々しい装飾。なるほど、如何にも神が与える剣という感じだ。事実、ソアラの聖剣をも上回る魔力をひしひしと感じた。
――だが。やはり、この空間と同じ安っぽさを感じてならない。
「王族の中でも、最も優秀で高貴な魂の持ち主だけが手にできるとまで噂された伝説の剣。それが私たちの手に落ちる。ああ、こいつは心が滾るわね。シュシュシュ!」
「不本意ながら同意しますよ。ですが、グレムリン様」
「ああ、わかっているとも。そろそろ『ゲスト』にも姿を見せてもらおうか」
『エンチャント』『《ストームグリフォン》』
俺はナイトソードに《ストームグリフォン》のスフィアダガーを装填。
ソアラたちがいる場所とは全くの別方向、祭壇の階段前へ風の斬撃を飛ばす。
すると斬撃は虚空で弾かれ、見えない暗幕を剥がすように新しい三つの影が現れた。
彼らはなんらかの手段で姿を隠し、俺たちと一緒にここまで転移してきたのだ。
「フッフッフ。よくぞ見破ったと褒めてやるべきかな?」
「ええぇ? 気づくのが遅すぎるくらいでしょ? おかげさまでぇ、こうしてまんまと封印の間まで案内してもらったわけだけどぉ」
「身内で争い合う愚かな人間どもめ。貴様らをまとめて滅ぼし、我らが神を取り戻す!」
その三人組は騎士王学院の生徒だったが、瞬きの間に姿が大きく変わる。
白い制服は黒衣に。肌は薄く紫がかった白に。瞳には十字の紋様が刻まれ、頭からは細長い角が生えた。他は人間とそう変わらないが、人間とは明確に異なる者。
彼らは《魔人族》――魔族の中でも高位とされる人型種族だ。
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