第15話:メテオVSメテオ


「ブハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ! ロボだロボだ! 騎馬戦の騎馬で合体ロボと来たか! なんて俺得のサプライズだ! ブハハハハ!」


 まさかまさかの合体巨大化に、俺は胃が捻じれそうな思いで笑い転げた。

 誰だ、こんな愉快な魔法を考えたヤツは! 是非ともお友達になりたい!


「笑っていられるのも今だけ。《騎馬合身》は幻装騎士の力を合わせることで、魔力を何十倍にも増幅する集団連携魔法。これが国を守り、人を守る決意の結束が生み出す力。あなたみたいな偽物には真似できない、本物の騎士の力」


 ほうほう、それはそれは。ヒーローらしくて素晴らしい。


 しかし……俺の眼で視る限り、そんな高尚な魔法でもなさそうだが。

 俺の分析が正しければこれは、他の騎士を消耗品の強化パーツとすることで、術の主軸であるソアラの力を増幅する魔法のようだ。本人も術の仕組みがわかっていないと見える。


 ともかく、ただ数で群れるより遥かに手強い存在となったのは確かだ。


「対巨獣規格の魔物を想定したこの形態には、同じ《騎馬合身》でしか対抗できない。そして《騎馬合身》は最低でも四人以上いなければ行使は不可能。つまり、あなたは決して私たちには勝てない!」

「そうかそうか。では一発、胸を借りるつもりで殴って見るとして……。せっかくだ。お前の力を借りるぞ、シンディ」

『エンチャント』『《スティールタラテクト》』


 俺はシンディのベルトから抜き取ったスフィアダガーを、右腕のスロットに装填。指先から大量の金属糸が飛び出し、絡み合って形を成す。

 完成したのは、ガントレットよりさらに巨大な鉄塊の拳!


「《蜘蛛糸創造=ギガントフィスト》」

「な、が――!?」


 自分の背丈と同じサイズの鉄拳を全身で喰らい、真紅の巨人騎士に亀裂が走る。

 もう爽快なまでに高々と、鋼の巨躯が宙を舞った。

 しかし、こちらの巨拳も無事ではなく、粉々に砕け散ってしまう。


「ふむ、脆いな。タラテクトの能力を引き出し切れない分は、自前の《念動力》で補ったんだが。やはり糸を用いた造形技術では、シンディの方が俺より上手らしい。お前も肉体の再調整さえすれば、この程度は造作もなくできるだろう」


 そう告げて振り返ると、シンディは引き攣った顔で硬直していた。

 やれやれ、この程度で処理落ちを起こすようじゃ、先が思いやられるな。


 俺はスロットを腰のベルト脇に移し、《ストームグリフォン》のダガーを装填。ソアラを追って風の翼で飛翔する。

 同じダガーでも、技用スロットの装着位置でエンチャントの効果が変わるのだ。腰なら基本全身に効果が及び、四肢なら攻撃技を繰り出す。


 打ち上げられたソアラはというと、背中のマントを光の翼に変えて滞空していた。

 剣を天高く掲げ、切っ先から大規模な魔法陣を展開する。


「悔しいけど、認める。あなたは常識外れのバケモノ。この学院、いいえ世界に災いを招く危険な存在。だから、こっちも出し惜しみはしない。対竜種のために先代が生み出した、この魔法で葬る! 天の鉄槌で灰燼と化せ! 《メテオフレア》!」


 合体によって増幅した魔力のほぼ全てを注ぎ込んだ術式。桁外れの熱量が、小太陽と化して燃え上がる。これ、地上に落としたら森が焼け野原にならないか?


 しかし……なんたる理不尽。核融合はおろか酸化反応の概念も満足に知らないまま、ここまでの事象を引き起こすか。

 俺も同程度のことはできるが、それを可能とするだけの改造を体に施しているからだ。対して向こうは、改造も受けていない生身の人間。ファンタジー世界でこんなこと言うのは無粋かもだが、物理法則を無視している。


 これも《マナ》という、この異世界特有の物質が成せる業だろう。なにせ、『』なのだから。


 今も科学者のつもりでいる身としてはなんとも興味深く、同時にムカつく話だ。

 だから理不尽な異世界ルールには、俺の超科学ルールで対抗してやろう。


「面白おかしい見世物の礼だ。少しだけ、俺の本気を見せてやる。――《時空間掌握システム》起動」


 実はこの世界に転生する際、俺がデータ変換して転送したのは記憶や人格だけじゃなかった。俺を《大首領》にして最強怪人足らしめる、七つの機構を持ち越して来たのだ。その一つこそが、《時空間掌握システム》。


 前世の地球でワープ航行を実現し、宇宙進出に革命を起こした発明でもある。

 しかも俺が内蔵しているのは、世間に普及させたそれより遥かに高性能かつ強力だ。俺を異世界転生させた《次元断裂装置》も、あくまでこいつを補助する役割に過ぎない。


 その力で以て俺は離れた空間同士を繋ぐ穴、ワームホールを上空に展開する。


「なに、あの穴。向こう側に見えるのは、夜空……!?」

「宇宙空間だ。蒼穹を超えた空の彼方、宙より降りかかる脅威を知れ!」


 俺は再び《スティールタラテクト》ダガーを、右腕に移したスロットに装填。


「《蜘蛛糸創造=チェーンフィスト》」


 金属糸の鎖で繋がった巨拳を形成、ワームホールの向こう側へと射出する。

 拳が突き刺さったのは、宇宙空間に浮かぶ小惑星の一つ。

 そして俺は全力で、鎖をこちら側へと引っ張り込む!


「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥン!」

「嘘、まさか――!?」


 ワームホールから引きずり出された小惑星。ソアラの小太陽も霞んで見える、地に影落とす巨大な塊が、大気との摩擦で燃えながら落ちてくる!


「とくと味わえ。これが本物の隕石メテオだ……!」

「な、あ、アアアアアアアア!?」


 堪らずソアラは《メテオフレア》を頭上の隕石に向けて放った。

 大気を揺るがす凄まじい爆発が起こるが、如何せんサイズが違いすぎる。

 さながら羽虫のごとく、真紅の巨人騎士は超巨大隕石にプチリと潰された。


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