第3話:実戦試験


「しかし、なんのために試験があるんだ? 最初から資格のある生徒を選別して、入学案内を届けたのでは?」

「実戦試験と魔力測定の結果で、階級ごとにクラス分けするみたいよ?」


 ガノなんとかいう雑魚をあしらった後、俺とシンディは試験会場の列に並んでいた。城の敷地内にある闘技場で実戦試験を行うらしい。


「ギルダークの意味不明な実力なら、最上級クラスに入れるかもね」

「ギルで構わん。それに案外、最下級に落とされるかもしれないぞ? 魔力測定で引っかかりそう……いや、逆に引っかからなそうだからな」

「それって、ギルが操ってた黒いのと関係あるの?」

「――ほう? 視えたのか?」

「私の『眼』、普通の人には見えないモノが視えるから」


 そう告げたシンディの瞳をよくよく覗き込むと、それは小さな六角形の集合体だった。


「ほうほうほうほう? 昆虫の『複眼』か? いや、ますます興味深い」

「最初からそうだけど、君って変わってるわよね。気味悪いとか、思わないの?」

「なぜだ? 他の凡愚どもにはない力、機能を持った瞳だぞ? 珍しく希少なモノはそれだけで価値が生まれる。ただ普通と違うだけで気味悪いなどと言い出すのは、無価値な凡愚どものくだらん僻みだ。価値あるお前が気にしてやる必要はない」

「……君、本当に変わってるわ」

「褒め言葉と受け取っておこう」


 などと談笑している間に列は進み、俺とシンディは別々の通路に分けられた。

 飾り気もない石材の通路を抜けた先は、円形の闘技場。周りを囲う壁の上には観客席が並び、在校生と思しき生徒の姿がチラホラと見受けられる。


『実戦試験の内容は、十人ごとに分けられた生徒による総当たり戦です。武器・魔法・その他装備の制限は一切ありません。ギブアップか戦闘不能、または死亡にて勝敗を決します。それでは、騎士の名に恥じぬ戦いを』


 魔道具式のスピーカーにて、簡潔に試験の説明がされた。

 要は九人叩き潰せばいいわけだ。他の対戦で死人が出ればもっと数は減るか。

 検証のためにも色々な相手と戦いたいところだが、はてさて最初の相手は……おや?


「フン! こうも早く粛清の機会が訪れるとはな! これも騎士王のお導きか!」

「お前は確か……加納くんだったか?」

「ガノアだ! 誰だカノーって!? 立場も弁えぬ無礼者め!」


 正方形の舞台上で俺に相対するのは、なんとお星さまになったはずのガノアだ。

 試験に間に合うどころか、こうも早く戻ってくるとは。少々見直した。


「卑劣な小細工で私を失格に陥れようとしたようだが、残念だったな! 私にはこの、太陽の聖剣《ガラティーン》に匹敵する魔剣《サラマンデル》があるのだ!」


 得意満面にガノアが掲げるのは、刀身から赤々と火を噴く剣。

 察するに、炎の噴射を推進力にして舞い戻ったらしい。想像すると笑える絵面だ。


「そうかそうか。親におねだりして買ってもらった玩具が役に立って良かったな」

「プロミネンス家の家宝を玩具と抜かしたか!? 死んで詫びろ、このクズがぁぁ!」


 唾を飛び散らせながら、ガノアが魔剣とやらで斬りかかってくる。

 せっかくの魔剣初体験だ。俺は素手で燃える刃を受け止めた。

 炎が皮膚を焼き、肉を焦がす。俺が人間なら致命傷の域だ。


「ふむふむ。使い手の魔力を増幅する剣か。ガスバーナーが火炎放射器程度には進化したな。温度自体は大差ないが、規模は人を殺傷する武器として及第点の火力だ」

「ば、馬鹿か貴様!? 魔剣を素手で……いや、なぜ燃やされながら平然としている!?」


 痛みくらいでいちいち動じていては、戦いも実験もままならないからな。

 それにたかが火炎放射器に殺されるようで、悪の怪造人間が務まるものか。


「やはり火炎放射器は火炎放射器。太陽の業火には遠く及ばないな。へし折るのは簡単だが、それではつまらん。そうだ、面白いことを思いついたぞ! 一つお近づきの印として、こいつを本物の、太陽に匹敵する魔剣に改造してやろう!」

「なにを言って――あっづう!?」


 ガノアが悲鳴を上げて魔剣から手を離す。


 理由は刀身どころか剣全体が、光で目も眩むほどの熱を発し始めたため。俺の操る暗黒物質が魔剣の内部に浸透し、ナノマシン化して機能を大幅改造しているのだ。

 青を超えて真っ白に輝く熱量に、闘技場の大気が歪んで蜃気楼を起こす。


「ひぃぃ! 暑い、いや熱い!」

「結界越しにも伝わるこの熱気、明らかに異常だぞ!?」


 観客席は阿鼻叫喚。ガノアも熱された地面の上を転がり回りながら叫んだ。


「アチチチチ! な、なんだ!? 一体なにをしているんだ!?」

「だから、魔剣を改良してやっているのさ。家名に相応しく、一万度超えの紅炎を放つ魔剣にな。闘技場の人間全員が火達磨になるだろうが、なーに些細なことだろう? これなら一振りで軍を焼き尽くす、まさに一騎当千の騎士に……あっ」


 ドロリ、と魔剣が溶けてしまった。

 なかなか耐熱性が高くて興味深かったのに、勿体ない。研究用に後で回収しよう。


「剣自体が熱に耐えられなかったか。気を遣って外装には手をつけなかったのだが裏目に出てしまったな。いやはや、申し訳ないことをした」

「おま、おま、お前! なんでで生きているんだ!?」

「ん? ちょっと上半身の右半分が炭化したくらいで死んでしまっては、戦いを楽しめないだろう? 互いの骨肉を粉砕しては再生を繰り返して、三日三晩殴り合う楽しさといったら病みつきになるぞ?」


 炭化した部分を取り除き、暗黒物質の元素変換で肉体を再構築していく。

 骨・内蔵・肉の順で再生する様を、ガノアは恐怖に引き攣った顔で見ていた。


「ば、バケモノ! この、怪物め……!」

「間違いではないが、どうせならこう呼んでくれ。《怪人》とな」



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