第99話 自分の居場所
予想外の言葉に、誠も俺も固まった。ついでに、周りもしんと静かになった。困惑している誠に、翔さんが言った。
「俺さ、無能力者なんだよね。それなのに、最近は後天性の能力者が増加してて、依頼も能力者絡みのが増えてるんだ。うちの探偵事務所は、俺1人でしてるから、そろそろヤバくてね。だから、誠くんがいてくれると嬉しいんだ。どうかな? 」
というか、翔さんは1人で能力者と接していたのか。時には、戦ったり……凄いな。
「で、でも……」
誠が何か言いかけると、翔さんが先に言った。
「兄貴……って、京のことね。兄貴から誠くんのことは聞いてるよ。事務所と同じビルに、借りている部屋があるから、施設から引っ越せばいいよ。まぁ、俺と一緒に住むことになるけど」
苦い笑みを浮かべて言った。勝手に誠のことを調べたのを、悪く思っているんだろうか。ポケットから名刺を取り出して、誠に渡した。
「返事はいつでもいいよ。決まったら、この番号に連絡して」
名刺を受け取った誠は、震えた声、でもどこか力強い声で言った。
「あの、その、お願いします。僕を働かせてください! 」
「勿論だ。こちらこそ、よろしくな」
にっと笑って翔さんは、誠の手を握る。どうやら、誠も自分の居場所を見つけようとしているみたいだ。兄としても、嬉しいな。
やり取りを全部聞いていたのか、周りの人が拍手している。つられて、俺も手を叩くと、誠と翔さんは、照れながら笑う。
「んじゃ、手続きとかは俺がしておくから」
そう言い残して、翔さんは京さんの所に行った。
「よかったな」
誠に言うと、彼はこくりと頷いて言う。
「初めて……初めて、言われた。僕に、いてほしいって……」
体が小刻みに震えている。嬉しそうでよかった。頭を優しく撫でると、にっこりと笑う。
「……よかったな」
俺はともかく、誠は今まで必要とされたことがなかったんだろうか。もし、そうなら本当によかった。
「よし! じゃあ、もう1回乾杯! 」
彩予が大きな声で言う。グラスを誠とぶつける。お互い、大変だけどこれからも頑張らないとな。
「あの、乾杯したところ悪いんだけど、そろそろお開きにしないか? 」
京さんが言った。時刻は20時。確かに、もうお開きにした方がいいな。今日は2階に泊まることになってるんだ。……また騒がしくなりそうだな。
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