最終話 非日常な日常で

「それじゃ、第1回枕投げ大会! 」


 2階は2つの部屋に分かれていて、1つの部屋に(俺を入れた)先天性の6人と誠が。もう1つの部屋に、大人が集まっている。


「勝敗は特になしで、能力の使用は自由。あ、でも枕を壊さないようにね! 」


 彩予がさっきから何か言っている。何だその、地獄みたいなゲームは。誰も止めないし。


「じゃあ始めよう。よーい、スタート! 」


 彩予がそう言うと、色んな所から枕が飛び始めた。まぁ、いいか。今日くらいは、騒がしくても。


「へぶっ」


 顔面に枕が当たった。誰だよ……周りを見ると、焔がケラケラと笑っているのが見えた。


「ぼさっとしてるからだ。奏もやるんだよ」

「はぁ、分かりましっ……」


 今度は彩予だな。よし、やってやる。このまま当てられ続けるのは、何だか嫌だ。近くにあった枕を掴む。誰を狙おうか。彩予と瞬は無理だ。枕をぎゅっと握って、思い切り投げた。


「ちょっ、兄さん!? 」


 どうやら、見事に命中したらしい。段々と楽しくなってきて、夢中で枕を投げた。俺も変わった、いや変えられたのか。この騒がしい人たちに。


「もうっ、全然しゅんしゅんに当たらないんだけどー」

「能力を使っていいって言ったのは、彩予だろ? 」


 瞬はひょいひょいとテレポートで枕を避けている。あれは最強だな。彩予も予知能力を使って、当てたり避けたりしている。テレパシーは、枕投げでは使えないな。


「あー、疲れた」


 元々、体力はないからな。枕投げに巻き込まれないように、ベランダに移動する。外はすっかり暗くなっていて、星がキラキラと輝いていた。綺麗だな。


「おっ、奏も避難しに来たのか」

「えぇ、彩予たちの体力にはついていけません」


 そう言うと、焔は笑って「確かにな」と言った。秋の涼しい風が吹いている。


「にしても、意外だったよ。奏が枕投げに参加するとはな」

「ま、俺らしくはないですね。変わったんですよ、あの日……皆と出会った日から」


 皆と出会ったからだろう。俺が先天性の能力者でよかった、だなんて思えたのは。ずっと、自分と自分の能力が嫌いだったのに。


「別に、変わったのは奏だけじゃねぇよ。俺だって変わったし、他の人もそうだと思うぞ。そもそも、俺らの日常が変わったしな。っていうかさ」


 か……確かにそうだな。日常が非日常に色を変えたから、俺らも変わったってことか。そうなら、こんな日常も悪くはないな。


って矛盾してますけどね」

「そうだな。でも、俺らの日常ってそんなもんだろ」

「ですね」


 両手を空に向けて、背伸びをする。背骨が音を立てた。


「ちょーっと、2人とも! 何で休んでるの! 早くこっちに来てよ」

「そうだぞ! 休んでる暇なんてないんだよ」


 1番体力のある、彩予と瞬が言う。一方で、誠と一静、影はくたばっている。あそこに戻るのか……。


「はいはい。ほら、行くぞ」


 焔が俺に言った。これからも、こんな風に楽しく過ごしていきたいな。この、非日常な日常で。


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