第97話 退屈しない

「兄さん! 大丈夫? 」


 誠が覗きこんできた。外は明るく、太陽が高く昇っている。


「誠か。大丈夫だ。今は何……」


 体を起こしたとき、俺が涙を流していたことに気が付いた。袖で目元を拭う。夢で泣いた、いやあれは夢じゃないのか。あの、お母さんの冷たい手の感触、はっきりと覚えている。


 また、視界がぼやけ、ぽたりと雫が手に落ちる。いつから俺は、こんなに泣き虫になったんだろうか。何度拭っても、涙がこぼれ落ちてくる。


「兄さん? どこか痛い? 」

「いや、違っ、そうじゃ、ないんだ……」


 いつまでも泣いていたら駄目だな。袖が涙で湿っている。息を吐いて、気持ちを落ち着かせていると、焔が水を持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


 誰も、何かあったのか訊いてこない。皆、優しいな。知ってたけどさ。


「あれから、あのグループはどうなったんですか? 」

「それ、僕も知りたいです」


 俺が訊くと、誠も言った。警察に連れていかれたんだろうけど、爆発もあったからな。


「そこの双子は倒れたからな」


 焔が子供が悪戯をするような表情で、言ってきた。……何も言い返すまい。俺らの質問に、京さんが答える。


「爆発に巻き込まれた人は、警察病院で治療中。残りは、警察で取り調べを受けているよ。死亡者が出なかったのは不幸中の幸いだ。これで、裏社会も落ち着くだろうさ」

「そうですか」


 これで、一件落着ってところか。今回の戦闘は、本当に長かった。安心していると、元気な声で彩予が言う。


「よし、そーちゃんも起きたし、準備しますか」

「準備って、何のですか? 」


 俺以外の全員は知っているようだ。というか、誰も教えてくれないから、時計を見たけど、もう昼なんだな。今から準備……本当に何をするんだ?


「打ち上げというか、お疲れパーティーをするんすよ! 京さんたちの別荘で」


 パーティーか……本当に休む暇もないよな。退屈しないからいいけどさ。


「今から、あの生活場に戻って必要なものを用意すること。15時には出発するぞ」


 京さんも楽しそうだ。戦ったあとのテンションではないけどな。まぁ、いいか。


 そんなこんなで、1度生活場に(テレポートで)戻り、京さんたちの別荘に行くことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る