第93話 取引

「じゃ、誠くんは政府に届けてくるよ」


 誠を軽々と抱き上げた、瞬が言った。その間に、第3チームに誠が倒れたことを伝える。


『誠が疲労で倒れました。瞬がそちらに届けるので、寝かせてやってください』

『分かった。弟くんのことは、俺らに任せて』

『よろしくお願いします』


 連絡している間に、瞬はいなくなっていた。俺もテレパスと戦ったあとは、倒れるだろうな……。誰にも聞こえないように、ため息を吐く。


 そういえば、さっきの爆発に敵の仲間も巻き込まれたんじゃないかと思い、周りを見る。吹き飛んで、壁に当たった人も少なくないようだ。仲間を巻き込むとは……一体、仲間って何なんだろうか。


「届けてきたよー」


 瞬が戻ってきたようだ。仕事が早いのは、相変わらずだな。


「それにしても、次の能力者が来ないっすね」

「残りの2人は、戦闘に不向きな能力を持ってるからな。色々考えてるんだろ」


 もしかしたら、さっきの爆発で終わらせる予定だったんだろうか。


 そう考えていると、遠くから人が現れた。彩予が前に出る。プレコグニションか。中性的な顔立ちの能力者は、どこか不安そうな表情を浮かべている。


「君の相手は僕だよ」

「せ、先天性の能力者……か」


 不安そうな表情に、恐怖が混ざる。今までの戦いを見ていたなら、その反応も間違ってないか。何も仕掛けてこない敵に、彩予が1歩近づくと敵も1歩、後ずさりする。


「君、僕と戦う気は無いの? 」

「お、俺は、戦いたくない。でも……」


 中性的な顔立ちの、少年か。苦しそうな表情をしている。戦いたくないけど、リーダーに指示されてって感じなのか。そんな少年を見て、彩予が言う。


「じゃあ、取引しない? 君がこのグループのことを話してくれるなら、僕は君に危害は加えない」


 なるほど。確かに、戦わないで済むなら、それが1番だろう。


「……」

「どうする? 」


 彩予が、黙ったままの少年に近づいて訊く。少年はびくりと肩を震わせて、頷いた。


「じゃあ、交渉成立だね。一応、両手を縛らせてもらうよ」


 少年は何の抵抗もせずに、両手を後ろに回した。縄で縛るが何の反応もしない。罠ってわけではなさそうだな。本当に怖がってるのか。


「それで、何を話せばいいんですか? 」


 俺らに囲まれた少年が訊く。危害を加えられないと分かり、少し安心しているように見える。


「そうだな。じゃあ、あと1人の能力者……テレパスについて教えてくれるか? 」


 京さんが言うと、少年はゆっくりと口を開いた。

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