第89話 水と電気

 少女から刃のように、水が飛んでくる。誠がその水に干渉し、弾き飛ばした。建物内で水しぶきが上がる。何とも不思議な光景だ。何度も少女から、水が飛んでくる。それを誠がかき消す。同じことを繰り返している。


「大きな口を叩いていたくせに、貴方は何もしないのね」


 京さんは、少女の挑発を無視して、誠が持ってきていたペットボトルの液体を床に撒いた。これで、透明な液体の量は1Lだ。確か、誠が操れる水の量は1Lだったよな。


 誠が、液体を帯のような形に変える。2人はをしようとしている。でも、何をしようとしているか全く分からない。誠の周りにある液体から、ふわりと潮の匂いがした。


「……もう少しだけ頑張れるか? 」

「えぇ。頑張れますよ」


 京さんが時刻を確認する。時刻は19時30分だ。京さんは何かを待っているのか? 少女からの攻撃を帯で防ぐ。様子を見るに、少女より誠の方が強いようだ。


「よし、もう良いぞ」


 京さんが誠に言う。をするのか……。だけど、何か仕掛けを用意したりしてないよな?


 誠が手を動かすと、周りにあった球体や帯は少女に向かっていく。それを弾こうとするが、少女の力じゃ弾くことができない。球体や帯は少女の周りで弾け、少女は1Lの液体を浴びせられた。


「けほっ……何がしたいのよ」


 少女が言った。味方の俺にも分からない。何なんだと考えていると、少女の服からこぼれた液体や、かからなかった液体がひもの形に伸びて、京さんの靴にぶつかった。まるで、導火線のような……。


 京さんがひもを踏むと、少女に電気が流れた。少女は反応できずに痺れている。


「知ってるか? 水道水はそこまでだが、海水は電気を通しやすいんだよ」


 だったのか。だから、潮の匂いがしたんだな。京さんが電気を止めると、少女はその場に崩れ落ちた。これで、1人目の能力者は倒せたか。


「誠、大丈夫か? 」

「はい。少し疲れましたが……」


 そりゃ、疲れるだろう。1Lの水を操っていたからな。


「でも、何ですぐに倒さなかったの? 」


 瞬が京さんに訊く。それは俺も気になった。すぐに倒せただろうに。


「次の戦いの為だ。すぐに倒したら、次の能力者が来るだろ? そうなったら、困るんだよ」

「何が? 」


 京さんが、口元を緩めて答えた。


「困るだろ。月明りが、建物に入ってこないと」

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