第88話 交渉失敗

 電気の強い光に、思わず目を逸らす。光が弱まった時、無能力者の方を見ると、肌が少し焦げていた。


「ま、手加減はしたからな」


 得意げに笑ってみせる京さん。能力者って怖いな。俺もなんだけどさ。


「ちょっと、兄貴! 僕と圭さんも巻き込まれる所だったんだけど! 」


 瞬が圭さんと戻ってきて言った。間一髪だったな。


「瞬たちなら、避けられるって信じてたんだよ」


 その言葉に、圭さんは喜んでいる。瞬はまだ不満そうだけど。取り敢えず、無能力者はこれで全員か。ざっと見て、30人以上はいる。想定外だったが、なんとかなったし良いか。残りは、5人の能力者だな。


『奏さん、もうすぐアクアキネシストが来るそうです。彩予さんが言ってました』

『拓哉さん、ありがとうございます』


 もうすぐ、アクアキネシストと戦うことになるのか……京さんたちにも伝える。ここからが本番と言っても、過言ではないだろう。


「やっぱり、戦わないといけないのか」


 京さんは、和解の道を諦めていないようだ。その方が、お互いにとって良いだろうが、難しいよな。自分にスタンガンを当てながら、誠に訊く。


「誠くん、は持ってきているよね? 」

「勿論です」


 ? 誠は500mlのペットボトルを取り出す。中には、透明な液体が入っている。何だろうか。まぁ、勝てるなら何でもいいんだが。


 遠くから、こつこつと足音がした。来るか。京さんと誠が前に出て、俺と瞬、圭さんは後ろに下がる。やがて、足音は近づいてきて、1人の少女が姿を現した。


「お前が、アクアキネシストだな」


 京さんが言うと、少女はクスリと笑う。


「えぇ。それにしても、政府の人って暇なのね。わざわざスパイまで用意して」


 スパイ、圭さんのことだな。よく、この中に溶け込めていたな……本当に凄い。俺なら、スパイなんて絶対にできない。


「俺たちは、お前らを取り締まりに来た。大人しく従うなら、手荒な真似はしない」

「取り締まる? 私たちは自由に活動していただけよ」


 京さんが手に力を込める。周りの空気がひんやりと冷たくなった。


「自由と自分勝手は別物だ。我々に従って、署まで同行してもらおうか」

「従うわけないでしょう」


 交渉は失敗か。テレパシーで、アクアキネシストと戦闘することを伝えた。まぁ、こうなるとは思っていたが。


 誠がペットボトルの液体を床にぶちまけて、液体を球状に変える。同じ能力を持つ者がいることに、少女は少し驚いたようだった。少女も水を作り出す。いよいよ、能力者との戦闘が始まるのか。唾をゆっくりと飲み込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る