第九章 開戦

開戦前

第81話 潜入開始

「うん、こんなものかな」


 圭さんの服装を見て、令さんが言った。圭さんは、袖が7分丈くらいのパーカーに、長いジーパンという、かなりラフな格好をしている。これなら、18か19歳に見える。


「では、テレパシーを繋ぎますね」


 圭さんに1本の糸を繋ぐ。これで、やり取りはできるだろう。


「じゃ、今から圭の名前は、五十嵐いがらし 冬真とうまで年齢は19歳。いいな? 」

「分かりました。行ってきます」


 そう言って、圭さんは建物を出ていった。ボロが出ないように、テレパシーでも圭さんのことは、冬真さんと呼ぶ。混乱しそうだ。


 圭さんを送り出した後、部屋は2つのチームに分かれた。京さんの言った通りに、俺、一静、令さんの情報収集チームと、その他は作戦立てチームに。一静と令さんがパソコンを操作する。俺は圭さんからの連絡を待つしかない。


「よし、俺らは俺らの能力について、纏めていくぞ」


 京さんの声だ。それぞれの能力の範囲や長所、短所を書き出していくらしい。敵についての情報は、まだ少ないからな。


『奏さん、敵のアジトに入り込めました。アジトは、奥行きがかなりある、車庫のような建物です。扉などは一切ありません』

『冬真さん、お疲れ様です。了解しました。引き続き、頑張ってください』


 取り敢えず、入れたか。第一関門突破といったところだな。


「さっき、圭さんから連絡がありました。無事、アジトに潜入できたようです」


 大きな声で、全員に聞こえるように言う。注意が俺に向くのを感じた。


「アジトは、奥行きの広い車庫のような建物で、扉やシャッターなどは一切ないようです」


 これは令さんの情報通りだ。アジトの場所も同じだろう。拓哉さんがホワイトボードに図を描いているのが見えた。


「分かった。ありがとな」


 京さんが明るい声で言った。頭を軽く下げて返事をする。それにしても、すんなり入れたな。そこまで厳しくないのか?


 心配ではあるが、こちらの情報が漏れている可能性は低い。圭さんは、此処に来る前は事務の仕事をしていて、事件に触れたことがなかった上、新人だ。それに、危険だと感じたら戻ってくるはず。大丈夫。


「ふぅ……」


 ゆっくりと息を吐きだす。俺まで緊張してしまう。筋肉がこわばり、脈が速くなるのを感じる。ドクドクと全身に音が響く。嫌な音だ。多分、緊張しているのは此処にいる全員も同じ。大丈夫だと言い聞かせるが、落ち着かない。


「ハーブティーを入れました。どうぞ」


 拓哉さんが、ティーカップを持ってきてくれた。ハーブの良い香りがする。


「ありがとうございます」


 1口飲むと、温かいハーブティーが緊張をほぐすように、体に染み渡る。ハーブの香りが舌から、鼻を突き抜けるように広がっていく。少し、気持ちが落ち着いた。


 拓哉さんは全員に、ハーブティーを入れたようだ。気配りができる人なんだな。次の連絡が来るまで、俺もできることをしよう。


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