第76話 小麦粉

 奏たちと別れて、工事現場には俺と一静、京さん、拓哉さんが残った。手袋をしていると、京さんが拓哉さんに言った。


「拓哉、大丈夫か? 休んでてもいいんだぞ」

「いえ、大丈夫です。この程度で、くたばるわけにはいきません」


 口ではそう言っているが、明らかに疲労の色が現れている。能力は、基本的に脳で使うもので、能力にもよるが長く使えば、体力を消耗する。


 多分だが、強力な能力や、本来の使い方とは異なる使い方をすると、消耗が激しくなるんだろう。拓哉さんの場合は前者だと考えられる。そう考えれば、後者の使い方をした奏が、倒れるのにも合点がいく。


「そうか。辛くなったら、すぐに言えよ」


 心配した声で、京さんが言った。まずは、工事現場を調べる。俺は、爆発の原因を調べることに。燃えるものは多いが、爆発となると限られてくるはずだ。


 工事現場は黒く焦げていて、消火されたものの、焦げた臭いが広がっている。取り敢えず、さっと見て回ったが、爆弾のようなものは残っていない。爆弾による爆発の線は薄いか。


「やっぱり、ただの事故なのか? 」


 いや、そう決めるのは早い。何か残ってないだろうか。焼けてないところに、何か。そう思い、まだ真っ黒になっていない所を見て回る。


「ん? 何だ、これ」


 何かが固まって焼けている。拾い上げてみると、かたまりは崩れて、床に舞い散った。何だか、がそのまま焼けたようだ。……


粉塵ふんじん爆発……」


 気づかないうちに、口に出していた。これが小麦粉だとすれば、その線が濃いだろう。そもそも、工事現場に小麦粉なんてないはずだ。工事をしながらパンを作るような、変わった会社なら話は別だが。取り敢えず、京さんに報告しよう。


「京さん、これを見てください」


 床に残った塊を見せると、京さんも俺と同じことを言った。


「これは、小麦粉か? 一静くん、これを見てもらえるか? 」


 一静が見れば、何か分かるだろう。一静が近くに来て、じっと見つめる。数秒後に、きっぱりと言った。


「小麦粉で間違いないです。それも、誰かが此処に持ち込んでいますね」


 だとすれば、これは事故ではない。誰かが何らかの意図をもって起こした、だ。爆発の原因は小麦粉だとして、爆発を起こした人物は……能力者か一般人か。それはまだ分からないが、真相に1歩近づいたな。


「よし、近くの防犯カメラを確認するぞ。他の人は、周辺の聞き込みをしてくれ。悪いが、焔くんと一静くんも残っててもらえるか? 」

「勿論です」

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