第75話 重力操作
しかし、どれだけ目を閉じて、うずくまっていても、鉄骨が落ちてくることはなかった。衝撃音も、潰される感触もない。何故だ……?
「もしもし、一条だ。近くの工事現場で爆発が起きた。原因は分からない。また、爆発で鉄骨が落下してきている。交通整理を頼む」
京さんの声だ。鉄骨が落ちてきているのは、本当なんだな。ならどうして……。そう考えているうちに、車が動き始めた。
「取り敢えず、近くに車を止めますね」
拓哉さんがそう言い、工事現場のすぐ近くにあった、駐車場に車を止めた。
「すみません。これ以上離れると、俺の能力がもたなくて……」
「いや、大丈夫だ。それより、交通整理ができるまで耐えられるか? 」
「問題ありません」
拓哉さんの能力……あっ、重力操作か。それで、あの鉄骨が落下しないようにしているのか。拓哉さんが汗を流す。かなり大きな鉄骨の重力を操っているんだ。大きな負担が、かかっているんだろう。
パトカーのサイレン音が、遠くから聞こえてきた。来たか。警察官の1人がこちらに来て、京さんに言う。
「周辺の安全が確保できました」
「分かった。拓哉、行くぞ」
2人が車を降りて、数分後。ガシャンと、とてつもなく大きな音が響き渡った。
それにしても、どうして爆発が起きたんだろうか。ガスかガソリンに引火したか、誰かが意図的に起こしたのか。後者なら、能力者によるものなのか、一般人によるものなのか。
どうしても、悪い方に考えてしまう。俺らが、あの時間にあの場所を通ることを知っていて、爆発を起こしたとか……ただ、あり得ない話ではないんだよな。だとしたら、犯人の中に予知能力者がいることになる。
と、色々なことを考えたが、あくまで憶測にすぎない。まだ何も言えないのが現実だ。
「はぁ……」
思わず、ため息を吐く。他の5人も色々と考えているのか、車内は静まり返っている。すると、遠くから足音が聞こえた。京さんか。ドアを開けて俺らに言う。
「遅くなった。取り敢えず俺らは、此処で原因を調べる。そこで、焔くんと一静くんも残ってもらえないか? あとの4人は、圭に送らせる。原因が分かり次第、伝えに行くから」
こくりと頷いた。火に関わることだから、焔。あと、何か痕跡が残っていないか、調べるために一静を残すのか。焔と一静が車から降り、圭さんが運転席に乗る。
「焔、気を付けてくださいね」
「あぁ。そっちもな」
焔とそんな会話をする。原因が分かれば、安心できるんだが。厄介な事件にならないことを祈りつつ、生活場に戻った。
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