第74話 退院

「しゅんしゅん、退院おめでとう! 」


 今日で、瞬は退院する。これで、取り敢えずは安心かな。


「じゃ、俺は手続きを終わらせてくるから、先に車に乗っててくれ」


 そう言い、京さんは受付の方に行った。入院から退院まで、全部やってくれて有難いな。言われた通りに、病院の裏口から出ると、1台の車が止まっていた。運転手の人が車から降りてくる。


「お待ちしておりました」


 運転席から降りてきた、拓哉さんが言った。拓哉さんが運転してくれるのか。車のドアを開けて、乗るように言う。かっこいいな。


「拓哉、遅くなってすまない」


 数分後、助手席に乗った京さんが言う。


「いえ、大丈夫ですよ。では、出発します」


 拓哉さんがエンジンをかけて、車が動き出す。流れていく景色を、ぼんやりと眺めていると、彩予が言った。


「そういえばさ、この中で1人っ子の人って少なくない? 少子化の時代なのに」

「言われてみれば、そうだな」


 確かに、俺は双子の弟がいて、瞬には兄が2人いる。あと、一静に妹がいるな。1人っ子の人は半分か。


「僕は1人っ子だけど、焔っちと影たんは? 」

「両方とも1人っ子だぞ。九重家は、父方は兄弟が多いんだけど、俺らはそこまでなんだよな」


 影も頷いている。だから従兄弟だけど、焔と影は苗字が同じなのか。


「へぇ……色々なんだね。ちなみに、拓哉さんはどうなんです? 」


 彩予が訊くと、運転しながら拓哉さんが答える。


「いませんよ。1人っ子です」

「そうなんですね。弟か妹がいそうな感じですけど」


 頼れるお兄さんというイメージがあるもんな。いや、こういう人に限って素では、しっかりしてないのかもしれない。


「拓哉はしっかりしてて、仕事ができるもんな。頼りになる兄って感じだ」


 京さんも俺と同じことを考えていたらしい。


「恐縮です」


 少し嬉しそうに拓哉さんが言った。京さんのこと、本当に尊敬しているんだな。そんな会話をしていると、突然爆発音が響いた。辺りを見ると、近くので爆発が起きたようだ。


 ……嫌な予感がした。ここから離れないと、と思ったが信号が赤で前に進めない。後ろにも車がいる。ここから動けない。


「まずいっす。こっちに鉄骨が……」


 震えた声で、影が言う。「絶体絶命」そんな言葉が脳裏に浮かぶ。俺にはどうにもできない。そう思い、ぎゅっと目を閉じた。

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