第73話 きょうだい

 彩ちゃんの言葉に、一静は目を見開く。そういえば、一静は2年前以前のことは、何も覚えてないんだっけ。


「……知っていたんだな。僕が記憶喪失だってこと」

「うん。2年前のあの後、私は親戚に引き取られたんだ。そこで、聞いた」


 一静が視線を下に向ける。しかし、すぐに視線を彩ちゃんに戻す。


「じゃあ、事件のことはどこまで知っているんだ? 」

「事件のことは何も知らないよ。誰も教えてくれなかったし、ニュースも見せてもらえなかったから」


 その言葉に、胸を撫でおろす。あれは、知らない方が良い。


「ごめん。僕のことを、どこまで知ってるか分からなくて……。結果的に、嘘を吐くことになって、本当にごめんなさい」


 彩ちゃんは、首を横に振る。


「嬉しかったよ。何も覚えてないのに、私のことを妹だって言ってくれて。あと、安心した。記憶を失った後も、お兄ちゃんは優しいままだったから」


 そう言って、にっこりと笑う。そんな彼女を見て、一静は目に涙を溜める。


「ねぇ、お兄ちゃん。これからも、お兄ちゃんの妹でいても良い? 」

「……当たり前だろ。こんな、兄でもいいなら」


 一静は涙を流しながら、優しく微笑んだ。


 病院の予約がある、彩ちゃんと別れて、瞬の病室に戻った。気づいたら、焔と影も来ていた。


「それで、瞬の言ってた秘密兵器って何だったんですか? 」

「よく訊いてくれたね! これだよ」


 瞬が見せたのは、かなり細い針のようなものだった。


「麻酔針さ。かなり細いから、痛みも感じないんだ。何より、一瞬で麻酔が効くんだよ」


 あぁ、それで強盗が倒れていたのか。凄いもの持ってきたな。


「これと僕の能力を合わせれば、最強ってわけ。まぁ、使い方はちゃんと考えないとなんだけどね。ところで、焔と影って何で政府に呼ばれてたの? 」


 瞬の問いに、焔が答える。


「最近、裏社会の能力者グループの動きが活発なんだ。それをどうするかって話だった。今は取り敢えず、様子見ってことになったけどな」


 裏社会か。もし、戦うことになったら、相当危険なものになるだろう。


「あと、瞬の怪我が完治するまでは仕事もこないってさ」


 まぁ、そうだろうな。政府も思ったより、俺らを大事に思ってるってことか。


「そうでもしないと、瞬は無理をするだろ」

「お、心配してくれてるんだ」


 呆れたように、京さんが言う。


「当然だ。仕事云々の前に、瞬は俺の弟なんだから」


 それを聞いて、瞬が嬉しそうに笑う。長男と末っ子だもんな。


「そういうことで、しばらくは安静にしておくように」

「はーい」


 あの兄妹も、この兄弟も仲が良いんだな。良かった。俺も、また誠に会いたいな。

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