第72話 優しい
「じゃ、奏、彩予頼む」
犯人らから距離を取り、スマホで通報する。妨害電波は出されていないようで、電話はきちんとできそうだ。彩予が犯人らの注意を引く。
「もしもし、警察ですか。病院で強盗が発生しました。犯人は3人、うち1人が銃を所持しています。場所は……」
住所を伝えていると、丸腰の2人が突然倒れた。警察への電話を切り、前に行くと瞬が犯人らの前に出て、言った。
「お前らさ、この中に能力者がいるって考えなかったわけ? 」
不敵な笑みを浮かべる瞬。その手には何か、細い銀色の物が握られていた。何だ?
「お前、能力者なのか? それとも、お前か? 」
銃を瞬と彩予、交互に向ける。どっちも、先天性の能力者ですけどね。銃を持った男が、小刻みに震えている。こいつは無能力者なのか。
銃が、彩ちゃんから離れた瞬間、彩予が彩ちゃんの体を蹴った。男から彩ちゃんが、弾き飛ばされる。
「きゃっ!? 」
床に倒れる寸前のところで、一静が彩ちゃんの体を支える。男から離れた所に移動しているうちに、銃を持った男も倒れた。
「ま、こんなもんかな」
瞬がそう言ったとき、パトカーが到着して京さんが飛び出してきた。倒れた3人の犯人と、俺らの姿を確認して、何があったのか理解したようだった。
「何で、瞬が戦ってんだ。馬鹿なのか? 」
「いや、これには色々と……っていうか、別に決まりは守ったしいいじゃん。能力を使ったのも右手だし。セーフだよ、セーフ」
京さんのチョップが、瞬の頭に入る。
「もっと自分を大事にしろって言ってんだよ」
「大丈夫だって。大事にしてるから。あ、兄貴から貰った兵器、効果抜群だったよ」
にこにこと笑う瞬に、京さんはため息を吐く。このやりとりを見た後、彩予が言う。
「彩ちゃん、ごめんね。あんな状況だったとはいえ、蹴っちゃって」
「いえ、大丈夫です。むしろ、ありがとうございました。助けていただいて」
いくら彩予とはいえ、女の子を蹴るのには抵抗があったらしい。
「それより、怪我はないか? 」
「ないよ。ありがとう、お兄ちゃん」
これで一件落着か。そこまで面倒な事件じゃなくてよかった。それにしても、瞬の秘密兵器って何だったんだ。
「……お兄ちゃんって優しいね」
「いや、僕は何もしてないけど」
彩ちゃんが首を横に振る。
「優しいよ。だって、本当は……私のこと、覚えてないんでしょ? 」
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