第69話 一静の妹

 病室に戻ると、4人が談笑していた。さっきの話は、誰にも聞かれてなかったようだ。


「2人とも遅いよー! 」

「悪い、道に迷ってたんだよ」


 誰かを守る為に吐く嘘、こういうのを優しい嘘と言うんだろう。


「退院はいつになりそうですか? 」

「まだ、いつになるかは決まってないんだけど、少なくとも3日は入院かな。退院しても、数日はテレポート禁止だってさ」


 テレポート禁止、なんかシュールだな。傷が開かないようにだろうな。色々あったけど、これで今回の事件も一件落着か。俺らの仕事は、本当に危険なんだな。改めて、そう感じた。


「次の仕事まで安静にしてろってことっすよ」


 影が笑って言う。


「次の仕事ね……はぁ、当分戦闘はしたくないな」


 ため息交じりに瞬が言った。まぁ、そうだろうな。でも、戦闘のない仕事なんて、ほとんどないよな。


「ま、次の仕事の心配をする前に、怪我を治すことを考えろよ」

「そうだな」

「じゃ、僕らはそろそろ帰ろうかな。しゅんしゅん、またね」


 もうすぐ昼だもんな。病室を出て、エレベーターで1階に行く。来た時よりも人が多くなっている。大きい病院だからな。


「……お兄ちゃん? 」


 そんな可愛い声が耳に入った。振り返ると、黒い髪の少女がこちらを見ていた。


「……あや? 」


 少女に一静が言った。彩と呼ばれた少女は、にこっと笑う。


「覚えててくれたんだね。久しぶり、2年ぶりかな」

「あぁ。そうだな」


 敬語じゃない一静の声、初めて聞いたかもしれない。俺らに気づいたのか、少女が俺らに言った。


「初めまして。月島 一静の妹の、月島 彩です」


 彩ちゃんが会釈をする。一静、妹がいたんだな。黒い髪に紫色の瞳、確かに似ている。


「それで、何でお兄ちゃんが、こんなところにいるの? 」

「仲間が入院していてな。あ、病気じゃなくて怪我で」


 「そっか」と少し切ない表情をする。優しい子なんだな。


「彩こそ、何で病院にいるんだ? 」

「通院してるんだ。私、喘息ぜんそく持ちだから」

「あぁ、そうだったな。大丈夫なのか? 」


 一静がそう聞くと、彩ちゃんは笑って頷く。仲が良い兄妹なんだな。

 ……彩ちゃんは、あの事件のことを知っているんだろうか。


「じゃあ、私は受付にいかないと。またね、お兄ちゃん」

「またな」


 そう言って、受付に向かう彩ちゃん。よかった、一静にも家族がちゃんといたんだ。俺らも、病院を出た。

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