第57話 約束

 それから毎日、練習が続いた。まず、俺がストッパーとして能力を制御し、その後は琉生くんが、自分で練習をする。それを何度も繰り返す日々。


 1度宿った能力を、消す方法なんて無い。向き合って、生きていくしかないんだ。琉生くんも、それが分かっているから、必死に頑張るんだろう。


 また、彼は徐々に能力を上手く使えるようになっていた。能力ちからが漏れるのは変わらないが、少しずつ漏れる量も減っていった。それと、琉生くんが自分から、話しかけてくれることが増えた。


「……奏さんって、優しいですよね」


 ベランダにいたら、琉生くんがそんなことを言った。


「そうですかね」

「優しいですよ。僕がどれだけ失敗しても、迷惑をかけても、怒らないじゃないですか」


 それは別に、怒ることでもないだろう。そもそも、俺はあまり怒らない気がする。怒っても、現状が変わるわけでもなかったし。その分、笑うこともなかったけど。


「優しいかは分かりませんが、俺と琉生くんが似ているからですかね」

「似てますか? 」


 俺も琉生くんも、孤児院育ちで、能力のせいで嫌な思いをして、自分を隠していた。


 俺は、先天性の能力者という理由で捨てられて。院でも、他の子供からは化け物でも見るような目で見られて。大人からは、腫れ物扱いされて、1人でいることが多かった。1人に慣れて、感情もないような人だった。


「琉生くんは、俺のようにはならないでくださいね」


 遠くを見つめて言うと、彼は言った。


「何でですか? 僕は、奏さんみたいになりたいです。奏さんみたいに、優しい人になりたいです」

「……変わってますね」


 俺みたいになりたい、か。そんなことを言われるとはな。昔の俺が聞いたら、耳を疑うだろう。


「琉生くんは、その大きな能力ちからで人を傷つけないでくださいね。誰かを助ける為に、その能力ちからを使ってください」


 能力で人を傷つけるような人を、沢山見てきた。だから、彼にはそうならないでほしい。誰かを助けるような、守るような人になってほしい。


「分かりました。約束します」


 にこっと笑い、小指を出してきた。俺の小指と絡めて言う。


「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指切った! 」


 指切りか、懐かしい。やっぱり、琉生くんは俺に似てないな。俺は、こんなに無邪気に笑えなかった。どれだけ、この世界を恨んでも、呪っても、彼には人の道を外れてほしくない。


「奏さんとの約束を守る為にも、頑張りますね。ちゃんと、能力を使えるように」

「えぇ、頑張ってください」


 彼は、俺らや他の大人が思っているより、ずっと明るくて強い人なんだな。

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