第56話 練習と変化

 朝食を済ませたら、すぐに練習することになった。やっぱり、さっきのことを気にしているらしく、琉生くんはあまり喋らなくなった。院でも、こんな感じだったんだろうか。なら、本当にどうにかしてあげないと。


 練習は、物が少ない3階でする。元々、あそこは能力の練習や訓練をする為の場所だ。


「じゃあ、やるぞ。準備はいいか? 」


 琉生くんとテレパシーを繋ぎ、「大丈夫です」と焔に言う。飴を口に入れて、目を閉じる。


「浮かせる物は、昨日と同じ。まずは奏のストッパー付きで、感覚を覚えていこう」

「はい」


 テレパシーを能力を使う部分に繋げる。そのまま待っていると、動き始めた。能力を使い始めたようだ。もうすぐ来る。使っていない能力が、外に出ようとするのを感じ、信号を送る。


抵抗されているわけではないが、能力が大きすぎて、次々に信号を送らないと間に合わない。俺の能力を、脳を全て使い、漏れないように信号を送り続ける。


「……でき、た」

「今の感覚を覚えるんだ」


 そんな会話が聞こえてきた。きちんと止められているんだな。なら、あと少しだ。信号を送り続けていると、焔の声が聞こえた。


「よし、止め! 」


 琉生くんが能力を止めたのを確認して、糸を切る。やっぱり、疲れるな。琉生くんも、慣れない能力の使い方に疲れたようだった。


「2人とも、お疲れ様。1回休もう」


 そう言い、瞬がりんごジュースを渡してくれた。飲みながら、琉生くんに訊く。


「どうでした? 」

「えっと、頭の中を押さえつけられているみたいで、苦しかったんですけど……いつも、どれだけ能力ちからが漏れていたのか、分かった気がします。あと、嬉しかったです」

「それは良かったです」


 琉生くんが笑った。あぁ、頑張って良かったな。心の中で、そっと呟いた。


 その後は、琉生くんが1人で練習する時間に。簡単に上手くいくはずもなく、漏れだした能力ちからが他の物を動かしてしまう。でも、彼は諦めずに何度も練習をしていた。


「琉生くん、ちょっと休憩しよう。焦っても良いことないし、休むのも大事だよ」


 彩予がそう言った。かなり疲れた様子で、琉生くんは頷く。疲れたら、当然眠くなる。船を漕ぎ始めた琉生くんに、焔が言う。


「1時間だけでも、寝たらどうだ? 体がもたないぞ」

「うぅ、でも……」

「焔の言う通りだよ。寝ている間は、僕らが見守ってるからさ。ついでに奏も寝てなよ」


 俺はついでか。まぁ、かなり眠いのは確かだ。


「そうですね。寝て、体力を回復させましょう」


 琉生くんは、躊躇ためらいがちに頷いたが、布団に入った瞬間に寝てしまった。それもそうだろう。すぐに俺も眠り、目が覚めた時には練習を再開していた。


 無茶な能力の使い方だが、今は数をこなすしかない。取り敢えず、彼が体を壊さないように、見守るしかないだろう。

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