第55話 琉生の環境

「じゃあ、早速……と言いたいところだけど、もうこんな時間だね」


 彩予の言葉に時計を見ると、もう22時を過ぎていた。


「無理しても、良いことなんてないしな。今日は寝るか」


 焔がそう言うと、琉生くんが不安そうな顔をする。そっか、寝てる時も能力ちからが漏れ出るのか。琉生くんの頭を撫でて、瞬が言う。


「大丈夫だ。もし、能力のせいで物が動いたら、僕が取りに行くさ。見たでしょ、僕の能力」

「ありがとう、ございます」


 控えめに微笑む琉生くん。まだ、俺らに気を遣ってるんだろうな。それとも、誰に対しても気を遣う性格なんだろうか。全員が布団に入った後、彩予が言った。


「琉生くんって、好きな人とかいるの? 」

「え、いませんよ! 」


 何を言うかと思えば……こいつは。彩予は「そっかー」と言った。


「……僕、親がいないんです。だから、孤児院にいて。でも、そこでも上手くいってないんです」


 琉生くんが、ぽつりと呟いた。初めて、自分の事を自分から話してくれたな。


「じゃあ、俺と同じですね」

「奏さんも、なんですか? 」

「えぇ。1歳になる前くらいから孤児院にいました。今は此処で働いてるんですけど」


 琉生くんが、俺らに気を遣っているのも、彼が孤児院にいるからなんだろうか。能力のせいもあるだろうけど。


「そうなんですね」

「院で上手くいかなくても、どうにかなりますよ。この世界は、そこまで狭くないです」


 気づけば、琉生くんは寝息を立てていた。少しでも安心してくれたんだろうか。毛布にくるまって、目を閉じる。明日から練習開始だ。


 小さな窓から入ってきた太陽の光と、違和感を感じて目が覚めた。床で寝ていたはずなのに、床が無い。目の前には天井がある。あぁ、浮いているだけか……は? 浮いてるのか!?


 誰かに助けを求めようと、視線を下に向けるが、全員寝ている。浮いてるのは俺だけか。瞬にテレパシーを繋ぐ。


『瞬、起きてください! そして、助けてください! 』


 大音量で脳内に響かせたら、さすがの瞬も起きた。


『瞬、上を見てください』

「ん、奏か……? えっ、奏!? 」


 瞬が大声で言った。その声に全員が起きる。勿論、琉生くんも起きた……嫌な予感がする。


 何故、俺の嫌な予感は毎度、的中するんだろうか。琉生くんが目覚めるのと同時に、俺は床に落下した。


「ぐぇっ……そーちゃん、重い……」


 あぁ、浮いたのも、そのまま落ちたのも、生まれて初めてだな。


「そーちゃん、重いんだけど。ねぇ、重いんだけど……」


 琉生くんが俺の元に来て、言う。


「奏さん! 大丈夫ですか? 僕のせいで、その、ごめんなさい」

「俺は大丈夫ですよ。気にしないでください。今日から練習しましょう」


 そう言うと、琉生くんは俯いたまま、こくりと頷いた。


「そーちゃん、僕が大丈夫じゃない。重い……」

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