第58話 練習の成果

 琉生くんが此処に来て、12日が経った。初めて会った時よりも、明るくなって焦りも無くなったように見える。元々、明るい性格だったんだろうな。


 今日も朝から練習を行う。毎日練習をしているのに、体調を崩したりすることもない。体力も、かなりあるようだ。


「よし、今日も練習を始めるか」


 焔が明るく言うと、琉生くんも明るい声で返事をする。


「はい! よろしくお願いします」


 まずは、俺がテレパシーで補助をするんだよな。琉生くんにテレパシーを繋ぎ、目を閉じて集中する。能力を使い始めたのが分かり、構えるが……いつもの感覚がこない。


 目を開けると、琉生くんはきちんと能力を使っていた。テレパシーを切るが、他の物が動いたりする様子もない。


「はい、止め」


 焔の声で、琉生くんは能力を使うのを止める。


「奏さん。今日も、ありがとうございました」

「……俺は何もしてませんよ」


 そう言うと、全員がざわつく。本当に何もしていないんだ。ただ、テレパシーを繋いだだけ。


「どういう意味だ? 」

「そのままの意味ですよ。琉生くん、能力を使ってみてください」


 驚いたままの琉生くんが返事をして、テレキネシスを使う。1つの枕が高く浮かび上がり、他の物はぴくりとも動かない。


「でき、てる……」


 そう、声を漏らした。きちんと制御できるようになっている。約11日間、毎日何度も練習していたから、感覚を掴むのが早かったんだろう。


「すごい! おめでとう、琉生くん」


 彩予が琉生くんに抱きつく。それを見た焔が言う。


「なら、今日で仕上げをしないとな。おめでとう」


 最後まで気を抜かないのが、うちのリーダーの良い所だ。……初めてかもしれない。仕事でこんなに嬉しくなるのも、寂しくなるのも。


「よく頑張りましたね。おめでとうございます」


 頭を撫でると、琉生くんは嬉しそうに笑った。よかったな。


 感覚を忘れる前に、何度も練習を繰り返す。物を変えたり、数を増やしたりして。そんなことをしているうちに、分かったことが1つある。琉生くんが同時に動かせる物の数は、15個だということだ。本当に、後天性の能力者にしては、強い能力ちからだな。


「兄貴……じゃなくて、政府に報告したら、明日には孤児院に戻ることになるってさ」

「えー、早すぎない? せめて、あと3日くらいさ」

「ま、元からそういう決まりだったしな」


 なんて言っている瞬も、どこか寂しそうだ。でも、仕事は仕事だ。きちんと区別しないといけない。それに、明日までは一緒にいられるんだ。少しだけだが、まだ時間はある。

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