第45話 彩予の過去

「ごめん、あるよね……」


 そう言って俯く彼。聞いたことはないけど、全員あるだろう。能力者ってだけで、差別を受けることもあるからな。俺のように。


「それが、最近の彩予に関係しているなら、話してみませんか」


 話したら楽になるときもあるし、俺もそうだったし。彩予はこくりと頷く。


「僕が小学生のときの話なんだけど……」



 小学生の頃は、今のように上手く能力を使えていなかった。外に出るだけで、見えてしまったんだ。その人、物の未来が。見えるのは悪い未来ばかりで、僕はいつも下を向いて歩いていた。


 でも、ある日見えてしまったんだ。僕が通う小学校が火事になる未来が。僕は急いで先生に言った。


「先生、先生! 今日の夜、ここが火事になっちゃう。先生、助けて」

「え? 大丈夫よ。火事になんてならないわ」


 分かっていた。信じてくれるはずないって。でも、僕は言い続けた。


「なるんです。今日の夜10時25分、タバコの火が原因で。先生……」

「何か悪い夢を見たのよ。大丈夫だからね」


 夢じゃない、現実だ。何度言っても、他の先生に言っても、信じてくれなかった。ちかちかと点滅するように、学校に火が回っているのが見えた。下を向いたら、廊下が黒く焦げているのが見えて、悲鳴を上げそうになった。


 下校時間になって、僕は逃げるように家に帰った。怖かったんだ。そして、次の日の朝。テレビでは学校が燃えている映像が流れていた。やっぱり、何も変わらなかった。誰かに言っても、無駄なんだ。そう感じた。


 中学生になってからは、能力を上手く使えるようになった。見たいときに見られるようになって、僕は安心した。でも、ふとした瞬間に見えることがあった。


 中学2年生の時、僕の友人がビルの屋上から、飛び降りるのが見えた。怖くなって、友人に言った。


「ねぇ、もしかして何か悩みでもある? 」

「え? 何でだ? 」

「いや、何となく……」


 すると、友人は笑って言った。


「別にないよ」

「もし、何かあったら僕に相談してよ? 話を聞くことくらいはできるから」

「ありがとな」


 その友人との会話は、これが最後になった。次の日、その友人はビルの屋上から飛び降りて、亡くなった。未来は何も、変わらなかったんだ。


「何で、何で変わらないの……。もう嫌だ、見たくないよ。何で、こんな能力ちからがあるの。こんな能力ちからなんていらない。いらないよ」


 部屋にこもって、ずっと泣き叫び続けた。



「たまに、その時のことを思い出しちゃうんだ。たまにっていうか、悪い未来が見えた時にね」


 それで、最近おかしかったのか……。どんな言葉をかけたらいいのか。そう思っていると、焔が彩予の頭を撫でた。


「ずっと、辛かったんだな。頑張ったんだな」


 すると、彩予は涙を流し始めた。そんな彩予に、瞬が言った。


「今は未来を変えられるだろ。実際、兄貴を助けてくれたんだし」

「そうですよ。それに、彩予がいなかったら仕事もできてないですよ」

「もし、何か悪いことが見えたら、俺らに言ってくれ。それで、皆で変えよう」


 彩予が、か細い声で言った。


「……ありがとう」

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