第34話 失踪事件

「いや、ちょっと待って。兄貴って結構、優秀な探偵じゃなかったか? 」


 これは、瞬なりの嫌味なのか、単に心配しているのか……。


「まぁな。でも、今回はどうにもならないんだ。俺は能力者じゃないからな」


 その言い方じゃ、能力者が絡んだ事件ってことか。瞬は先天性の能力者なのに、翔さんは無能力者なのか。本当に能力ってのは、よく分からない。俺と誠もそうか。


「でも、そういうのって俺らに話しても良いんですか? 守秘義務とか」

「普通はね。でも、今はそんなことを言ってる場合じゃないんだ。……聞いてくれるか? 」


 まぁ、能力者が絡んでるなら、俺らが動いた方が良いだろう。静かに頷くと、翔さんは話し始めた。


「事件が起きたのは、一昨日おとといの昼。20代のカップルが、そこの海に来ていたらしい。それで男性が飲み物を買いに、10分くらい女性の傍を離れた時に、女性がいなくなった。連れ去られたという目撃情報は無し。荷物はその場に置かれたままだった、ってのが今回の事件」

「警察は? 」


 瞬が聞くと、翔さんは首を横に振る。


「脅迫や身代金の要求、そもそも誘拐だという証拠も無いから動かない。あと、あの海には防犯カメラもないからな。正直、お手上げ状態だ」


 これは警察も動かないな。別に警察が悪いわけではない。もし動いたとしても、俺らに回ってくるだろう。


「荷物は置かれたままだったんですよね。それ、何処にあるか分かりますか? 」


 一静が尋ねる。


「事務所の方で預かってるが……。協力してくれるのか? 」


 全員の視線が、焔に向く。リーダーがやるって言うなら、やるけど。焔はこくりと頷く。


「此処で会ったのも何かの縁です。話も聞いてしまいましたし、放っておけません。どこまでできるか分かりませんが、協力します」

「じゃ、そういうことで。兄貴、報酬はいくら? 」


 何処に行っても、2人はぶれないな。そこが良いんだけど。


「俺が依頼主から貰う報酬の7割でどうだ。ちなみに俺は、この依頼を100万で受けた」

「さっすが兄貴。よし、やるぞ! 」


 100万の7割って……70万だよな? 政府からの報酬より良い。それほど、翔さんは本気なんだな。なら、やるしかない。


「では、今ある分の資料や遺留品を見せてもらうことはできますか? さっき言っていた物とか」


 彩予が言う。でも、見てもどうにもならないんじゃ。あぁ、サイコメトリーがあったか。翔さんは首を縦に振る。


「兄貴、事務所の場所は? テレポートする」

「此処だ。折角の休みだったのに、悪い。俺が言うのもあれだが……」


 70万も貰えるなら、やるしかないだろう。全員が瞬に触れると、そのまま事務所まで移動した。

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