第33話 瞬の兄

「着いたー! 」


 タクシーから降り、目の前の建物を見る。これは、旅館か何かだろうか。瞬が門に付けられているカメラに目を近づける。あぁ、虹彩認証か。瞬を先頭に門の中へ入る。もう何を見ても驚かない。


「取り敢えず、此処の広間を全員で使って、布団はそこの押し入れにあるから。そこに、タオルとか寝間着もあるはず」

「凄い、何か修学旅行っぽいすね! 」


 修学旅行か、まぁ今回は何も学ばないけどな。


「まさか、此処を6人で使うなんてな。あぁ、外にバーベキューとかできるから、夜にでもどう? 」

「え、めっちゃ良い! やろう! 」


 バーベキューか、したことないな。火を点けるのが大変だと聞くけど、焔がいれば大丈夫だな。


 そんなことを考えていると、突然門が開けられる音がした。誰か来たのか?


「あれ、ちゃんと閉めてきたんだけど」

「俺ら以外に、誰か来る予定でもあったのか? 」

「いや、ないよ。それに、あの門は一条家以外の者は開けられない」


 じゃあ、瞬の家族が来たのか。それとも……いや、今はそんなことを考えたくない。瞬は「見てくる」と言って消えた。本当に、今回は事件に巻き込まれたくないんだが。


 瞬はすぐに戻ってきた。もう1人、知らない男性を連れて。


「来るなら、連絡くらいしてよ」

「悪いって。もう来てるなんて思わなかったんだよ」


 茶髪に黒い瞳の男性。瞬に似てるな?


「紹介する。彼は僕の兄、一条 しょうだ」

「どうも、初めまして。一条 翔です。瞬がいつもお世話になっています」


 そう言い、全員に名刺を渡す翔さん。しっかりした人……なのか?


「探偵、ですか」


 一静が呟く。本当だ、名刺に書いてある。


「そう。それで瞬に手伝ってほしいことがあって」

「僕ら、休暇で此処に来てるんだけど。それにタダ働きはしないから」


 おい、勝手に巻き込むな。それと、タダじゃなかったら働くのかよ。働くってことは、俺らもってことだよな? 翔さんは、にいっと笑う。どことなく、瞬に似てる。兄弟だからか。


「タダとは言わないし、取り敢えず話だけでも聞いてみないか? 」


 もう、雲行きが怪しいんですけど。俺らの休暇はどうなるのやら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る