第26話 能力の暴走

 普通に立っているだけで精一杯な状況。声を出せるはずもなく、3人とテレパシーを繋ぐ。


『どうする? 僕らが吹き飛ぶのも、時間の問題だよ』 

『瞬、この石、外にテレポートさせられますか? って影が』


 影の近くに移動した瞬が、あの赤い石を受け取っていた。そのままテレポートさせると、窓から火の玉が浮かび上がるのが見えた。あれは、焔の能力を込めたものだったのか。


 外から光が入ってきたことで、俺らの影が現れる。こういうことか。


 ただ、この状態で能力が使えるのか。この感じじゃ、少年は能力を制御できていない。能力は、幼い頃から持っていた方が威力が上がるとされている。それを扱いきれるかは、別として。


 それに、この学校は長い間、放置されていた上にかなり古い。嫌な予感がする。


『瞬、俺をあの少年のところにテレポートさせてください! 』

『でも、それじゃ、奏が危険だ』

『俺は大丈夫です。このままでは、彼の方が危ない。お願いします』


 こんなんでも、一応副リーダーで今はリーダー代理だ。瞬は俺のもとに来て、俺をテレポートさせる。少年は頭を押さえてうずくまっていた。やっぱり、能力が暴走しかけている。いや、既にしているかもしれない。


「おい、聞こえるか! 」


 俺の声は少年の耳に届いていない。3人とのテレパシーを切り、少年に繋ぎ合わせる。


『これなら、聞こえるでしょう。今すぐ能力を止めてください。このままでは危険だ』

『……っ……っうぅ、っ』


 苦しそうだ。こうなったら、無理にでも止めないといけない。


 能力は脳で制御し、使う。しかし、彼の場合は、能力が彼の脳を圧迫してしまっている。


 俺の能力を集中させて、彼の脳に干渉する。何度も能力を止めるよう、信号にして指令を送り続ける。


『……やだ、いやだ。た、たすけて……』


 少年からそんな声が聞こえてきた。彼の能力に引っ張られるように、俺の意識が乱れる。しっかりしろ。彼を、彼の能力を止めるんだ。


 風は少しずつ弱くなってきている。もう少し、もう少しだ。多分、彼自身も能力を止めようとしている。テレパシーを集中させている中、みしっという嫌な音が聞こえてきた。



 どのくらい、時間がかかったんだろうか。風は完全に弱まり、少年も眠ってしまった。よかった、止められたんだ。そう安心した瞬間、体育館の壁が崩れるのが目に入った。


 天井が崩れてくる。やけに時間がゆっくりと流れている。ゆっくりと建物が壊れていく。


「奏! 」


 誰かの声が聞こえる。早く逃げないと。そう思っても、体がうまく動かない。



 そして、ぷつりと糸が切れるように、俺は意識を失った。

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